【双璧】



「はぁい、お嬢様」
彼は背中越しに振り返り、腹が立つほど爽やかな笑みで、私に言った。
「一つ貸しですね」
「っんもう、ファルちゃんったらぁ。良いとこどり！」
「ファル……、エフ」兄弟に守られるように挟まれて、私は彼らを睨みつける。
「手出し無用と言ったはずよ」
「やーねぇ。アンタ、結構危なかったのよ？ それに、その可愛いお顔に傷なんてつけたら、アインスお兄様が黙っていないだろうし」
「まったくです」
この愚弟と意見が合うなんて癪だとでも言うように、ファルは盛大に溜め息を吐いた。
「あの人、貴女にえらく入れ込んでますからね。一体どんな手を使って飼い馴らしたのでしょう？」
「人聞きの悪いこと言わないで」
「今の、スナイパーですかねぇ？」
私の不機嫌を無視して、ファルは片手を目の上に翳して遠くを見つめる。キラリと光る銃口を探している。
「貴女様をこそこそと狙い撃つなんて……怖いもの知らずな古銃が居たものです」
「ファルちゃんに同感」
エフはうふっと楽しそうに微笑み、声を弾ませた。
「アタシ達のマスターに噛みつく駄犬は、たーっぷり調教してあげるわ♡」