強さの証明
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ーーおまけ(乱波side)ーー
選手控え室へ足を踏み入れると、見慣れないヤツが静かにベンチに座っていた。
薄暗い部屋には汗と男臭さがこもり、壁沿いには試合を待つ選手たちが無言でストレッチをしている。
その中で、ひときわ小柄な背中が妙に目立った。
……新人か。
それなら挨拶しないとな。
俺は遠慮なくソイツの隣へドスッと腰掛けた。
「……なあ、アンタ。ここは初めてか?」
「はい。アナタは?」
俺の質問に俯きながら答えるソイツ。
高い声。
まだ声変わりしてねぇ若造か?
ひとまず牽制がてら名乗っておくか。
「俺はラッパー。そうだな……ここの“王”とでも言っておこうか」
それから一言二言、言葉を交わしていると、係員が新人を呼びに来た。
「ベネチアン、スタンバイを!」
「はい」
コイツのリングネーム、ベネチアンって言うのか。
変な名前だ。
だけど、名前なんてどうでもいい。
俺が興味あるのは、コイツが強いかどうか、それだけだ。
立ち上がるベネチアンに、俺は少し口角を上げた。
「今度はリングで会おうや。消えるなよ」
不敵に笑いながら、ベネチアンの背中を見送る。
ーーーー
ベネチアンはその小さな体格にそぐわず、次々と対戦相手を倒し、ついには決勝にまで上がってきた。
いつも以上に興奮している俺がいる。
「対するは、神に逢っては神を殴り、仏にあっては仏を殴り、人に逢ったら死ぬまで殴る!制御不能の鉄拳機関車!20戦全勝──“THE RAPPER ”!!」
司会の大げさなコールが終わり、コイツが睨みつけてくる。
だから、俺も笑い飛ばして出迎えた。
「うおー!楽しく殴り合いしようや!」
だけど、返ってきたのは素っ気ない否定の一言。
ムっときたが、俺も闘いに集中する。
ゴングが鳴った瞬間、フルスロットルで初弾連打 を叩き込む。
パンチを何発も繰り出すけど、ベネチアンはまるで紙一重で全部かわしやがる。
パワーも体格も、普通なら俺に分があるはずなのに。
……おもしれぇ。
それに称賛してお前の攻撃を受けてやるよ。
ベネチアンは手刀で俺の肩口を狙ってきやがった。
普通なら肩が壊れる角度のピンポイントな突き。
だけどこの程度では俺は倒れない。
案の定、ベネチアンの顔にほんの少しだけ焦りが見えた。
俺はチャンスを逃さず、両腕をホールドした。
肩を壊すって言うのはこうやるんだよ。
手本を見せるように、ヤツの関節を軋ませながら捻じ切った。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁァァァッッッ!!」
会場にはベネチアンの叫び声が響く。
「さて、そろそろ終いにするか」
そして腕が上がらなくなって、ガードが疎かになったベネチアンの胸元に、渾身のパンチを叩き込む。
小さな身体は容易に吹き飛び、観客席との境目にある金網にまで吹き飛んだ。
観客は絶叫してる。
だが、俺の拳に妙な感触が残っていた。
男ではあり得ないくらいの柔らかさ。
ひょっとして、コイツは……。
「お、女だったのか、てめぇ……」
這うようにしてリングへ戻ってきたベネチアンに問いただした。
「だったら悪いか……?」
その目に負けを認める色はない。
タフな野郎だ。
ただ、これだけ殴っておいて何だけど、正直、女を殴る趣味はねぇ。
だから、これ以上痛みを長引かせず、静かに決着をつけてやる。
俺はベネチアンの間合いに素早く踏み込み、首元を手刀で軽く叩き、意識を飛ばす。
そして、崩れ落ちる彼女を抱きとめ、すぐさま医務室へと連れて行った。
ーーーー
医者に彼女の体を触らせると、性別がバレてしまう。
なぜ、そこまで隠したがるのか、俺の頭じゃ、サッパリ分からねぇ。
でも、何か理由があるんだろうと思い直し、医者が近付こうとするのを追っ払った。
「ここは俺がやる。アンタは下がれ」
薄暗い医務室。
他にも横になっている選手がいる。
ベネチアンをアイツらと同じようにベッドへ寝かせた。
ぐったりと横たわる姿。
肩は外れたまま。
だけど、いつまでもこのままってわけにもいかねぇ。
俺なら自分の肩の関節を何度も戻してきた経験がある。
静かに彼女の肩へ手を伸ばす。
俺とは全然違う。
驚くほど細くて、柔らかい骨と筋肉。
こんなに華奢な肩じゃ、力任せに戻したら逆に壊しかねない。
ゆっくりと、細心の注意を払いながら関節をはめ込んだ。
「……っ!」
ベネチアンはわずかに眉を寄せて、苦しそうな表情を浮かべる。
けれど、これで肩は元に戻ったはずだ。
後は彼女の意識が戻るまで席を外しておくか。
俺は静かに医務室のドアを開き、ふり返らずにその場を後にした。
選手控え室へ足を踏み入れると、見慣れないヤツが静かにベンチに座っていた。
薄暗い部屋には汗と男臭さがこもり、壁沿いには試合を待つ選手たちが無言でストレッチをしている。
その中で、ひときわ小柄な背中が妙に目立った。
……新人か。
それなら挨拶しないとな。
俺は遠慮なくソイツの隣へドスッと腰掛けた。
「……なあ、アンタ。ここは初めてか?」
「はい。アナタは?」
俺の質問に俯きながら答えるソイツ。
高い声。
まだ声変わりしてねぇ若造か?
ひとまず牽制がてら名乗っておくか。
「俺はラッパー。そうだな……ここの“王”とでも言っておこうか」
それから一言二言、言葉を交わしていると、係員が新人を呼びに来た。
「ベネチアン、スタンバイを!」
「はい」
コイツのリングネーム、ベネチアンって言うのか。
変な名前だ。
だけど、名前なんてどうでもいい。
俺が興味あるのは、コイツが強いかどうか、それだけだ。
立ち上がるベネチアンに、俺は少し口角を上げた。
「今度はリングで会おうや。消えるなよ」
不敵に笑いながら、ベネチアンの背中を見送る。
ーーーー
ベネチアンはその小さな体格にそぐわず、次々と対戦相手を倒し、ついには決勝にまで上がってきた。
いつも以上に興奮している俺がいる。
「対するは、神に逢っては神を殴り、仏にあっては仏を殴り、人に逢ったら死ぬまで殴る!制御不能の鉄拳機関車!20戦全勝──“
司会の大げさなコールが終わり、コイツが睨みつけてくる。
だから、俺も笑い飛ばして出迎えた。
「うおー!楽しく殴り合いしようや!」
だけど、返ってきたのは素っ気ない否定の一言。
ムっときたが、俺も闘いに集中する。
ゴングが鳴った瞬間、フルスロットルで初弾
パンチを何発も繰り出すけど、ベネチアンはまるで紙一重で全部かわしやがる。
パワーも体格も、普通なら俺に分があるはずなのに。
……おもしれぇ。
それに称賛してお前の攻撃を受けてやるよ。
ベネチアンは手刀で俺の肩口を狙ってきやがった。
普通なら肩が壊れる角度のピンポイントな突き。
だけどこの程度では俺は倒れない。
案の定、ベネチアンの顔にほんの少しだけ焦りが見えた。
俺はチャンスを逃さず、両腕をホールドした。
肩を壊すって言うのはこうやるんだよ。
手本を見せるように、ヤツの関節を軋ませながら捻じ切った。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁァァァッッッ!!」
会場にはベネチアンの叫び声が響く。
「さて、そろそろ終いにするか」
そして腕が上がらなくなって、ガードが疎かになったベネチアンの胸元に、渾身のパンチを叩き込む。
小さな身体は容易に吹き飛び、観客席との境目にある金網にまで吹き飛んだ。
観客は絶叫してる。
だが、俺の拳に妙な感触が残っていた。
男ではあり得ないくらいの柔らかさ。
ひょっとして、コイツは……。
「お、女だったのか、てめぇ……」
這うようにしてリングへ戻ってきたベネチアンに問いただした。
「だったら悪いか……?」
その目に負けを認める色はない。
タフな野郎だ。
ただ、これだけ殴っておいて何だけど、正直、女を殴る趣味はねぇ。
だから、これ以上痛みを長引かせず、静かに決着をつけてやる。
俺はベネチアンの間合いに素早く踏み込み、首元を手刀で軽く叩き、意識を飛ばす。
そして、崩れ落ちる彼女を抱きとめ、すぐさま医務室へと連れて行った。
ーーーー
医者に彼女の体を触らせると、性別がバレてしまう。
なぜ、そこまで隠したがるのか、俺の頭じゃ、サッパリ分からねぇ。
でも、何か理由があるんだろうと思い直し、医者が近付こうとするのを追っ払った。
「ここは俺がやる。アンタは下がれ」
薄暗い医務室。
他にも横になっている選手がいる。
ベネチアンをアイツらと同じようにベッドへ寝かせた。
ぐったりと横たわる姿。
肩は外れたまま。
だけど、いつまでもこのままってわけにもいかねぇ。
俺なら自分の肩の関節を何度も戻してきた経験がある。
静かに彼女の肩へ手を伸ばす。
俺とは全然違う。
驚くほど細くて、柔らかい骨と筋肉。
こんなに華奢な肩じゃ、力任せに戻したら逆に壊しかねない。
ゆっくりと、細心の注意を払いながら関節をはめ込んだ。
「……っ!」
ベネチアンはわずかに眉を寄せて、苦しそうな表情を浮かべる。
けれど、これで肩は元に戻ったはずだ。
後は彼女の意識が戻るまで席を外しておくか。
俺は静かに医務室のドアを開き、ふり返らずにその場を後にした。
