乱暴で優しい拳
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「……あの、お礼をしたいので。家、すぐそこなんです。汚い場所ですけど……」
蚊の鳴くような声で誘うと、乱波さんは、
「あァ?」
と眉を寄せながらも、大人しく私の後ろを付いてきてくれた。
だけど、辿り着いたその場所に、私の家はなかった。
散乱した段ボールの破片と、立ち入り禁止テープ。
「……あ。私の家が……」
行政が定期的に行う“清掃”という名の強制撤去。
唯一の居場所も、貯めていたわずかな小銭も、全て消えていた。
私には命の恩人にお礼をするどころか、明日を生きるための力も残されていない。
張り詰めていた糸が切れ、私はその場に崩れ落ちた。
「……まあ、なんだ」
沈黙を破ったのは、乱波さんのぶっきらぼうな声だった。
彼は頭をガリガリと掻き、困ったように視線を彷徨わせた後、私の目の前に大きな掌を差し出した。
「元気出せ……っつーても無理か。……なら、俺に付いてくるか?」
それは、さっき男を殴り飛ばした、鋼のように硬い拳。
「飯は食わせてやるし、寝床もある。その代わり……いつかお前の怪我が治ったら、その時は俺が殴りたくなるような、強え面 を見せろ」
彼なりの、不器用すぎる言葉。
その拳は乱暴だけれど優しかった。
「お前、名前は?」
「……●●です」
「そうか、●●か!良い名だな!」
豪快に笑う彼の声が、冷え切った路地裏に響く。
私は、その大きな掌に自分の小さな手を重ねた。
「私、……どこまでも付いていきます。乱波さん」
マスクの下で、私は個性の化粧を使おうとして、指を止めた。
もう、取り繕う必要なんてない。
この人となら、ボロボロのままの自分で歩いていけるかもしれない。
そんな予感がしたから。
ーーFinーー
蚊の鳴くような声で誘うと、乱波さんは、
「あァ?」
と眉を寄せながらも、大人しく私の後ろを付いてきてくれた。
だけど、辿り着いたその場所に、私の家はなかった。
散乱した段ボールの破片と、立ち入り禁止テープ。
「……あ。私の家が……」
行政が定期的に行う“清掃”という名の強制撤去。
唯一の居場所も、貯めていたわずかな小銭も、全て消えていた。
私には命の恩人にお礼をするどころか、明日を生きるための力も残されていない。
張り詰めていた糸が切れ、私はその場に崩れ落ちた。
「……まあ、なんだ」
沈黙を破ったのは、乱波さんのぶっきらぼうな声だった。
彼は頭をガリガリと掻き、困ったように視線を彷徨わせた後、私の目の前に大きな掌を差し出した。
「元気出せ……っつーても無理か。……なら、俺に付いてくるか?」
それは、さっき男を殴り飛ばした、鋼のように硬い拳。
「飯は食わせてやるし、寝床もある。その代わり……いつかお前の怪我が治ったら、その時は俺が殴りたくなるような、強え
彼なりの、不器用すぎる言葉。
その拳は乱暴だけれど優しかった。
「お前、名前は?」
「……●●です」
「そうか、●●か!良い名だな!」
豪快に笑う彼の声が、冷え切った路地裏に響く。
私は、その大きな掌に自分の小さな手を重ねた。
「私、……どこまでも付いていきます。乱波さん」
マスクの下で、私は個性の化粧を使おうとして、指を止めた。
もう、取り繕う必要なんてない。
この人となら、ボロボロのままの自分で歩いていけるかもしれない。
そんな予感がしたから。
ーーFinーー
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