食べると言う字
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やってきた9月29日。
ソワソワしてしまい、待ち合わせの30分前に公園に着いてしまった。
さすがにこの時間は子供たちもいない。
私は暇をつぶすためにブランコに腰掛ける。
キィーと古びた鎖の鳴く音。
昔はよく公園で遊んだものだ。
待ち合わせの15分前になって、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
顔を上げて音の方を見ると、福永さんの姿があった。
暑いのか少し額に汗をかいている。
私はブランコから立ち上がり彼に声をかけた。
「こんばんは」
「早いね。じゃあ行こうか」
てっきりここで話すのかと思っていたのに。
どうやら場所を移動するようだ。
私はそのまま福永さんの後ろを着いていく。
……。
…………。
着いた先は年季の入ったアパートだった。
2階に上がっていき、一番奥の部屋の前で止まると、ガチャっと鍵を開けた。
ここは福永さんの家なのかな?
彼に促されるまま中に入る。
「お、お邪魔します……」
中は外装からは想像できないくらい綺麗にリノベーションされていた。
通されたリビング。
彼は座布団を私に渡しながら、
「座って待ってて」
そう言うと部屋から出ていってしまった。
取り敢えず言われた通り大人しく座って待つことに。
時計の秒針の音がやけに響いている気がした。
そして待つこと15分後。
扉の向こうから徐々に良い匂いが漂ってきた。
トマトの酸味がかった匂いに、香ばしい魚介の匂いだ。
最近この匂いを嗅いだことがある。
すると扉が開いた。
そこには赤いエプロンを着た福永さんが美味しそうなパエリアを持って登場した。
私の前に食事を置き、もう一度キッチンの方に戻る。
今度は取り皿と飲み物を持ってきた。
そしてシュルリとエプロンを脱いだ彼は私の向かい側に座った。
私も慌てて姿勢を正す。
「召し上がれ」
一体どう言う状況なのか、理解が追いつかない。
いきなり家に招待されて、突然パエリアを振る舞われる。
だけれど、お腹は空いているわけで、ひとまず頂くことにした。
「い、いただきます……」
一口食べると、魚介の旨味が口いっぱいに広がり、トマトの酸味が味を引き締めている。
お店で食べた味と同じだ。
やっぱりあの時も福永さんが作ってくれていたんだ。
「美味しい……」
思わず溢れた言葉に、彼は満足そうに自分の分のパエリアをお皿によそい始めた。
ふと、用意された飲み物に目が行った。
私のはパエリアに合う白ぶどうジュースだったけれど、福永さんの方には白ワインが用意されていた。
確か19歳って言っていたのに、なんで。
「福永さん、お酒……」
「今日、誕生日」
福永さんはそれだけ言うと、またパエリアを口に運んだ。
……え、なんて?誕生日?
「早めに言ってくれればプレゼント用意したのに!」
つい声を荒げてしまった。
でも、自分の誕生日に自分で料理を作って、それを私と一緒に食べるって……。
益々福永さんが何を考えているのか分からない。
私が何も言えずにいると、福永さんはスプーンを置いてポツポツと話し出した。
「本当はお笑い1本で頑張りたかった」
テレビで見る限りでは掛け持ちバイトをしている芸人さんがほとんどだ。
売れてからようやくお笑い1本でやっていけるようになった、と報告するほどに。
「だけど、現実は厳しい」
先日のウケなかった、と言っていたことだろうか。
「●●さんが仕事は納豆の様に粘り強くって言うから、バイトを始めた」
もしかして、そのせいで忙しくてお店に来れなかった、とか?
ライブも誘ってくれなかったんじゃなくて、バイトをしていて出ていなかったから、誘えなかった?
「だとしても、せめて連絡くらいはしてほしかったです」
「……」
「……」
「食べると言う字は人が良くなると書く」
「?」
急に何を言い出すんだろう。
いや、急じゃなくてこれまでもよく分からないことを言っていた。
「飲食のバイトを始めて、賄いでよく食べるようになって、そしたら本当に気持ちも前向きになれた。まさに病は飯から」
「……」
「これも全て◯◯さんのおかげ。今日はそのお礼」
「私は何も……」
ただ応援しただけ。
頑張ったのは福永さん自身なんだし。
でも、福永さんが前向きになってくれたのなら良かった。
それに、私の言葉もちゃんと伝わっていたみたいだし。
「それから……」
私の手を取り、真っ直ぐ目を見る福永さん。
「これからも俺を支えて欲しい」
それはまるでプロポーズでもされているかのよう。
もちろん、そういう意味じゃないんだろうけど。
私の答えなんて決まっている。
握られていた手を握り返し、こう答えた。
「もちろん!」
ーーFinーー
ソワソワしてしまい、待ち合わせの30分前に公園に着いてしまった。
さすがにこの時間は子供たちもいない。
私は暇をつぶすためにブランコに腰掛ける。
キィーと古びた鎖の鳴く音。
昔はよく公園で遊んだものだ。
待ち合わせの15分前になって、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
顔を上げて音の方を見ると、福永さんの姿があった。
暑いのか少し額に汗をかいている。
私はブランコから立ち上がり彼に声をかけた。
「こんばんは」
「早いね。じゃあ行こうか」
てっきりここで話すのかと思っていたのに。
どうやら場所を移動するようだ。
私はそのまま福永さんの後ろを着いていく。
……。
…………。
着いた先は年季の入ったアパートだった。
2階に上がっていき、一番奥の部屋の前で止まると、ガチャっと鍵を開けた。
ここは福永さんの家なのかな?
彼に促されるまま中に入る。
「お、お邪魔します……」
中は外装からは想像できないくらい綺麗にリノベーションされていた。
通されたリビング。
彼は座布団を私に渡しながら、
「座って待ってて」
そう言うと部屋から出ていってしまった。
取り敢えず言われた通り大人しく座って待つことに。
時計の秒針の音がやけに響いている気がした。
そして待つこと15分後。
扉の向こうから徐々に良い匂いが漂ってきた。
トマトの酸味がかった匂いに、香ばしい魚介の匂いだ。
最近この匂いを嗅いだことがある。
すると扉が開いた。
そこには赤いエプロンを着た福永さんが美味しそうなパエリアを持って登場した。
私の前に食事を置き、もう一度キッチンの方に戻る。
今度は取り皿と飲み物を持ってきた。
そしてシュルリとエプロンを脱いだ彼は私の向かい側に座った。
私も慌てて姿勢を正す。
「召し上がれ」
一体どう言う状況なのか、理解が追いつかない。
いきなり家に招待されて、突然パエリアを振る舞われる。
だけれど、お腹は空いているわけで、ひとまず頂くことにした。
「い、いただきます……」
一口食べると、魚介の旨味が口いっぱいに広がり、トマトの酸味が味を引き締めている。
お店で食べた味と同じだ。
やっぱりあの時も福永さんが作ってくれていたんだ。
「美味しい……」
思わず溢れた言葉に、彼は満足そうに自分の分のパエリアをお皿によそい始めた。
ふと、用意された飲み物に目が行った。
私のはパエリアに合う白ぶどうジュースだったけれど、福永さんの方には白ワインが用意されていた。
確か19歳って言っていたのに、なんで。
「福永さん、お酒……」
「今日、誕生日」
福永さんはそれだけ言うと、またパエリアを口に運んだ。
……え、なんて?誕生日?
「早めに言ってくれればプレゼント用意したのに!」
つい声を荒げてしまった。
でも、自分の誕生日に自分で料理を作って、それを私と一緒に食べるって……。
益々福永さんが何を考えているのか分からない。
私が何も言えずにいると、福永さんはスプーンを置いてポツポツと話し出した。
「本当はお笑い1本で頑張りたかった」
テレビで見る限りでは掛け持ちバイトをしている芸人さんがほとんどだ。
売れてからようやくお笑い1本でやっていけるようになった、と報告するほどに。
「だけど、現実は厳しい」
先日のウケなかった、と言っていたことだろうか。
「●●さんが仕事は納豆の様に粘り強くって言うから、バイトを始めた」
もしかして、そのせいで忙しくてお店に来れなかった、とか?
ライブも誘ってくれなかったんじゃなくて、バイトをしていて出ていなかったから、誘えなかった?
「だとしても、せめて連絡くらいはしてほしかったです」
「……」
「……」
「食べると言う字は人が良くなると書く」
「?」
急に何を言い出すんだろう。
いや、急じゃなくてこれまでもよく分からないことを言っていた。
「飲食のバイトを始めて、賄いでよく食べるようになって、そしたら本当に気持ちも前向きになれた。まさに病は飯から」
「……」
「これも全て◯◯さんのおかげ。今日はそのお礼」
「私は何も……」
ただ応援しただけ。
頑張ったのは福永さん自身なんだし。
でも、福永さんが前向きになってくれたのなら良かった。
それに、私の言葉もちゃんと伝わっていたみたいだし。
「それから……」
私の手を取り、真っ直ぐ目を見る福永さん。
「これからも俺を支えて欲しい」
それはまるでプロポーズでもされているかのよう。
もちろん、そういう意味じゃないんだろうけど。
私の答えなんて決まっている。
握られていた手を握り返し、こう答えた。
「もちろん!」
ーーFinーー
