福永君は福耳になりたい
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜福永君は福耳になりたい〜
「う〜ん……」
朝の光が薄く差し込む洗面台の前で、私は葛藤していた。
朝ごはんも食べ終え、髪も整えた。
だけど、どうしても上手くいかないことがひとつ。
「イヤリング、難しい……」
昨日、友達と一緒に買いに行ったイヤリング。
早速着けて行こうと思ったのに、自分の耳たぶと相性が悪いのか、はたまた私が不器用なのか、うまく着けられない。
何度目かの挑戦で、
「あ、着いた!」
と思っても、
「ああっ!」
イヤリングはするりと外れて、床にカランと音を立てた。
もう一度鏡を覗き込みながら、挑戦していると、
「●●ー?遅刻するわよ?」
母の声が響く。
その声にハッとして時計へ目をやる。
「え、もうそんな時間?!」
長らく格闘していたことに今さら気付き、慌ててイヤリングをポケットにしまう。
そして、鞄を肩に掛け家を飛び出した。
ーーーー
「おはよー、●●」
「アヤ、おはよう」
自分の席に鞄を置くと、隣の席へアヤがすっと座ってきた。
「あれ、イヤリング着けてこなかったの?」
アヤは昨日、一緒にイヤリング選びに付き合ってくれた友達だ。
「うん、着けようかと思ったんだけど、何回やっても落ちちゃって……」
そう言って、私はイヤリングをポケットから取り出した。
赤色の猫目石をあしらった可愛いイヤリング。
このデザインを選んだのは、好きな人をイメージしたものに近かったから。
隣の席の福永招平君。
朝練中なのか、まだ教室には来ていない。
「着けてあげるよ」
「本当?!助かるー!」
アヤが優しい表情で手を差し伸べた。
イヤリングを託すと、彼女は丁寧にネジ部分を調節し始めた。
「着けても落ちるってことは……●●の耳たぶが薄いのかもね。」
なるほど、そうやって締め具合を調節できたんだ。
朝の苦戦を思い出し、少し恥ずかしくなる。
「はい、耳出して~」
右耳の髪をそっとかき上げる。
アヤは慣れた手つきで、手早くイヤリングを留めてくれた。
「これで、……よしっと。どう?」
私はそっと首を振ってみた。
落ちない。
しっかりと耳に収まっている。
「おおー!全然落ちない!」
「ふふ、じゃあ左も出して」
ちょうど向きを変えようとしたそのとき、不意に低い声が聞こえてきた。
「おはよ……」
そこには、部活終わりなのか、少しだけ額に汗を浮かばせた福永君の姿があった。
「ふ、福永君っ!おはよう……」
少しどもりながら挨拶を返すと、福永君は隣の席を指差す。
「そこ、俺の席……」
「あ!ここ福永の席だったのか!」
アヤは悪びれもせずに言った。
「うん。先生、もうすぐ来るよ」
ちょうどそのタイミングで、教室の扉がガラガラと開いた。
先生が入ってきて声を上げる。
「おーい、席に着け~」
「やっば。じゃあ、また後でね」
アヤは慌てて自分の席に戻る。
その間に福永君がようやく自分の席へ腰を下ろした。
先生がゆっくりと出席簿を開き、静かな朝のホームルームが始まる。
そんな中、右側から妙な気配を感じた。
横目でチラリと確認すると、福永君がじっとこちらを見つめていた。
気になって先生の話が入ってこない。
痺れを切らした私は、小さな声でそっと尋ねた。
「私の顔に、なんか付いてる?福永君、さっきからずっと見てくるけど……」
彼は一瞬まばたきをして、目線を耳に移した。
「……耳」
「耳?……ああ、これ?」
キラキラと輝く猫目石のイヤリング。
「うん」
「アヤに着けてもらったんだ。自分じゃ全然うまくいかなくて。ほら、片方しか着いてないでしょ。なんか、私、耳たぶが薄いんだって」
「ふ~ん」
何げなく左の髪を掻き上げて耳を見せたその瞬間、福永君が、ごく自然な様子でふにふにと私の耳たぶに触れてきた。
「なっ……え、はっ……」
あまりに唐突で、頭の中が真っ白になる。
息を飲んで固まる私をよそに、福永君は淡々と呟いた。
「本当だ。俺より薄いね」
その言葉も、その落ち着いた表情も、今の私にはうまく呑み込めない。
唖然としているうちに、チャイムが鳴った。
「あ、ホームルーム終わった。1限は移動だったよね」
福永君は、いつもの調子で立ち上がり、さっさと教材を持って教室を後にした。
私はと言うと、未だに動揺していて、動けずにいた。
ぼーっとしていると、視界に手が現れて、上下に揺れる。
「●●、何ボーッとしてるの?行かないの?」
アヤの声に、ようやく我に返る。
「あ、うん……」
私は慌てて立ち上がった。
福永君って、サラッとああいうことしてくるんだから。
本当に、心臓に悪い……。
そう思いながら、私も教室を出た。
1/3ページ
