約束はこの場所で
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ーー相澤sideーー
医務室を出てからずっと考えていた。
実習生が倒れかけた。
俺のせいだとは言い切れないけれど、それでも心に凝りが残った。
お詫びに何かできないか。
でも、何をすればいいのか分からない。
そんなとき、彼女が飲んでいたドリンクを思い出した。
「そうだ、鉄分……」
昼休み。
教室で白雲と山田にそれとなく聞いてみた。
「2人はさ、鉄分って言ったら、どんな食べ物が思い浮かぶ?」
白雲がニヤりとする。
「急にどうしたんだよ、ショータ。……まあ、でも、鉄分って言ったらひじきの煮物かな。中学のときの調理実習で作ったことがあるから」
「俺も、ひじきだな。それかほうれん草」
と、山田も即答する。
2人が口を揃えるものだから、間違いないだろう、とその時は思った。
その帰り道、スーパーの食材売り場でひじきと人参と油揚げ、こんにゃくをカゴに突っ込んだ。
帰宅後、親が帰ってくる前に作り終えるため、急いで台所に立つ。
食材を切り、鍋でコトコト煮る。
慣れない台所に立つ時間は不思議と悪くなかった。
出来上がったひじきの煮物をタッパに詰める。
我ながら上手くできたと思った。
これなら喜んでもらえる。
ーーーー
だけど渡した時、
「ひじきって、実は鉄分ないんだよ」
と、説明されるなんて……。
「話が違うじゃねぇか……」
白雲、山田……。
2人のことを思い浮かべながら、小声が溢れた。
それが聞こえたのか、実習生は肩を小さく揺らして笑っていた。
「気持ちは凄く嬉しいよ!だから、ありがたく頂きます」
その言葉に肩の力が抜けた。
俺はそっぽを向いたまま、なんだか耳が熱い気がする。
「……おう、好きなだけ持っていけ」
そう答えるのが精一杯だった。
医務室での静かな時間、ふと気になっていた疑問が頭をよぎる。
俺、この実習生の名前を知らない。
別に直接授業の教科を担当するワケでもないし、どうせ1ヶ月たらずの実習期間。
これまでも、名前を聞かずにいつの間にかいなくなっていた実習生を見てきた。
だから、今回も名前を聞かずに終わるんだろうと思っていた。
それなのに、実習生は俺の名前を知っていた。
生徒名簿を見た……のは個人情報だから、ただの実習生が見るなんてあり得ない。
と、なるとリカバリーガールから聞いたのか、他の生徒が俺のことを呼んだのを覚えていたのか。
そういえば、リカバリーガールが実習生のことを名前で呼んでいた気がする。
思い出せ……。
あれは確か……先日医務室を訪れた時……。
“それじゃあ、最後は……相澤君。●●ちゃんに診てもらって”
そうだ、●●だ。
普段は特に気にも留めなかった呼び名。
だけど、どこか心の奥に、今さらのようにその名前がしっくりと馴染む。
少ししてから、改めて声を掛けた。
「……あの、●●……さん」
不自然に聞こえていないだろうか。
妙に緊張してしまう。
すると彼女が何事もないかのように振り返った。
「はい?どうかしましたか、相澤君」
「いや、……その、タッパ、返すのいつでもいいから」
「本当?量が多いから助かります」
彼女はにこっと笑いながら返事をした。
名前で呼ぶって、案外悪くない。
静かな医務室の午後、ほんの少しだけ彼女との距離が縮まった気がした。
医務室を出てからずっと考えていた。
実習生が倒れかけた。
俺のせいだとは言い切れないけれど、それでも心に凝りが残った。
お詫びに何かできないか。
でも、何をすればいいのか分からない。
そんなとき、彼女が飲んでいたドリンクを思い出した。
「そうだ、鉄分……」
昼休み。
教室で白雲と山田にそれとなく聞いてみた。
「2人はさ、鉄分って言ったら、どんな食べ物が思い浮かぶ?」
白雲がニヤりとする。
「急にどうしたんだよ、ショータ。……まあ、でも、鉄分って言ったらひじきの煮物かな。中学のときの調理実習で作ったことがあるから」
「俺も、ひじきだな。それかほうれん草」
と、山田も即答する。
2人が口を揃えるものだから、間違いないだろう、とその時は思った。
その帰り道、スーパーの食材売り場でひじきと人参と油揚げ、こんにゃくをカゴに突っ込んだ。
帰宅後、親が帰ってくる前に作り終えるため、急いで台所に立つ。
食材を切り、鍋でコトコト煮る。
慣れない台所に立つ時間は不思議と悪くなかった。
出来上がったひじきの煮物をタッパに詰める。
我ながら上手くできたと思った。
これなら喜んでもらえる。
ーーーー
だけど渡した時、
「ひじきって、実は鉄分ないんだよ」
と、説明されるなんて……。
「話が違うじゃねぇか……」
白雲、山田……。
2人のことを思い浮かべながら、小声が溢れた。
それが聞こえたのか、実習生は肩を小さく揺らして笑っていた。
「気持ちは凄く嬉しいよ!だから、ありがたく頂きます」
その言葉に肩の力が抜けた。
俺はそっぽを向いたまま、なんだか耳が熱い気がする。
「……おう、好きなだけ持っていけ」
そう答えるのが精一杯だった。
医務室での静かな時間、ふと気になっていた疑問が頭をよぎる。
俺、この実習生の名前を知らない。
別に直接授業の教科を担当するワケでもないし、どうせ1ヶ月たらずの実習期間。
これまでも、名前を聞かずにいつの間にかいなくなっていた実習生を見てきた。
だから、今回も名前を聞かずに終わるんだろうと思っていた。
それなのに、実習生は俺の名前を知っていた。
生徒名簿を見た……のは個人情報だから、ただの実習生が見るなんてあり得ない。
と、なるとリカバリーガールから聞いたのか、他の生徒が俺のことを呼んだのを覚えていたのか。
そういえば、リカバリーガールが実習生のことを名前で呼んでいた気がする。
思い出せ……。
あれは確か……先日医務室を訪れた時……。
“それじゃあ、最後は……相澤君。●●ちゃんに診てもらって”
そうだ、●●だ。
普段は特に気にも留めなかった呼び名。
だけど、どこか心の奥に、今さらのようにその名前がしっくりと馴染む。
少ししてから、改めて声を掛けた。
「……あの、●●……さん」
不自然に聞こえていないだろうか。
妙に緊張してしまう。
すると彼女が何事もないかのように振り返った。
「はい?どうかしましたか、相澤君」
「いや、……その、タッパ、返すのいつでもいいから」
「本当?量が多いから助かります」
彼女はにこっと笑いながら返事をした。
名前で呼ぶって、案外悪くない。
静かな医務室の午後、ほんの少しだけ彼女との距離が縮まった気がした。
