「ほんでなー、──が──で！」

「ふふふっ」


ファットガムさんのユニークなお話を聞きながら歩いていると、


「あっ」

「っ痛ぇな！」


すれ違った男性とぶつかってしまった。
顔は赤く、仄かにお酒臭い男性。
その証拠に右手には空になった酒瓶が握られている。
泥酔しているせいで、彼の方がよろけて私にぶつかってきたんだ。

明らかに相手が悪いけれど、大ごとにしたくなくて急いで謝った。


「す、すみません！」


だけど、相手の男性は怒りが収まらないようで、


「骨折したかもしれない。どう責任取ってくれるんだ？あ゛あん？」

「っ……！」


骨折なんて嘘だと分かるけれど、気迫に負けて言葉が出ない。
そんな私を見て、ファットガムさんが代わりに対応してくれた。


「兄ちゃん、堪忍な」

「ふざけんなよ！こっちはプロのボクサー。選手生命がかかってんの。分かる？」


そう言うと男性はシュッシュッと言いながらシャドーボクシングを始めた。
元気そうじゃん。


「分かった。気ぃ済むまで兄ちゃんのパンチを俺が受け止めるから、それで許してくれへんか？」

「俺の個性は『マッスルパワー』。この個性で放たれたパンチを受け切れるかな？」


ファットガムがいくらプロヒーローとは言え、無抵抗でプロのボクサーのパンチを何度も受けることができるのだろうか。
少なくともタダでは済まない。


「ファットガムさん……」


心配でファットガムさんの服の袖を引っ張った。


「安心しいや。俺は大丈夫やで！」


そう言うと、ファットガムさんは男性に向かって両腕を広げた。


「俺もなめられたもんだな！覚悟しろよ！」


叫び声と共に繰り広げられるパンチ。

男性は酔っぱらいとは言えプロのボクサー。
パンチの一発一発が重たく、風圧がこちらまで感じられた。


「オラオラオラオラオラオラアアア！！」


あの巨体のファットガムさんがジリジリと押されている。


「ファットガムさん……」


殴られる度にどことなく縮んでいるように見える。
まるで脂肪が削ぎ落とされているような。


「これで終わりだアア！！」」


最後に渾身の一撃を受けたファットガムさんは湯気のような蒸気を放っていた。


「お前……ゼェゼェ……俺の攻撃を喰らって立っていられるとは……ゼェゼェ……中々やるな。お前の忍耐力に免じて許してやるよ」


そう言うと男性はフラフラと去っていった。