脂肪=幸せの量
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あれから何度か太志郎さんを家に招待しては、夜ご飯を振る舞うようになった。
「今日は生姜焼きとご飯、具沢山汁に、煮物を作ってみました!」
テーブルに並べた料理を見て、太志郎さんの顔がパッと輝く。
「うわー美味そう!」
「おかわりもありますから、遠慮なく言って下さいね!」
「昼も●●ちゃんの飯が食べれて、夜も食べられるなんて俺は幸せ者やな!」
屈託のない笑顔。
彼は「太った」なんて言葉を、ネガティブな意味で使うことは決してない。
むしろ、私の料理を吸い込むように平らげ、「幸せ太りや!」とお腹を擦りながら誇らしげに笑ってくれる。
だけど、食後の穏やかな時間は、いつも唐突に終わりを告げる。
「ほな、今日もご馳走さん!」
「お粗末様でした。……あ、太志郎さん、お茶淹れますね」
「すまん、●●ちゃん。せっかくやけど、もう行かんと。仕事が残っとるんや」
食器を洗い終えるのを待たずに、彼は椅子から立ち上がる。
お昼に店に来る時も、どこか疲れを滲ませていることがある。
夜もこうして、夜風に消えていくような忙しさ。
「……たまには、ゆっくりしていけばいいのに」
私の小さな独り言に、彼は玄関先で足を止め、申し訳なさそうに眉を下げた。
「そうしたいんやけどなぁ……こればっかりは……。すまんな!」
「次は、いつ来れますか?」
「うーん。突発で仕事が入るかもしれへんから、約束はできんのやけど、●●ちゃんさえええなら、俺は毎日でも来たいくらいや!……ってそないなこと言ったら、食費がエラいことなるか!」
冗談めかして笑う彼の服の裾を、私は無意識に指先で掴んでいた。
「……来てください」
「え?」
「いつでも、待っていますから」
俯きながら絞り出した声。
太志郎さんは一瞬だけ息を呑み、それから私の頭に、大きくて温かい掌をそっと乗せた。
「……そない可愛いこと言われるとな、ほんまに帰りたくなくなってまうわ」
低く、甘く響いた声。
だけど、その掌はすぐに離れてしまう。
「……またな」
結局、彼は夜の街へと消えて行った。
1人残された玄関で、私は動けずにいた。
部屋の中に残っているのは、生姜焼きの香ばしい匂いと、彼が座っていた場所の微かな体温だけ。
“毎日でも来たい”
“帰りたくない”
彼はそう言ってくれるけれど、叶うことは一度もなかった。
「……ズルいよ、太志郎さん」
いや、ズルいのは私の方なのかもしれない。
初めは、美味しく食べてくれるだけで幸せだと思っていたはずなのに。
欲張りになった私は、それだけでは満たされなくなっていた。
そのクセ、本心は隠したまま。
私の心は、まるで満腹を知らない怪物のようだ。
「今日は生姜焼きとご飯、具沢山汁に、煮物を作ってみました!」
テーブルに並べた料理を見て、太志郎さんの顔がパッと輝く。
「うわー美味そう!」
「おかわりもありますから、遠慮なく言って下さいね!」
「昼も●●ちゃんの飯が食べれて、夜も食べられるなんて俺は幸せ者やな!」
屈託のない笑顔。
彼は「太った」なんて言葉を、ネガティブな意味で使うことは決してない。
むしろ、私の料理を吸い込むように平らげ、「幸せ太りや!」とお腹を擦りながら誇らしげに笑ってくれる。
だけど、食後の穏やかな時間は、いつも唐突に終わりを告げる。
「ほな、今日もご馳走さん!」
「お粗末様でした。……あ、太志郎さん、お茶淹れますね」
「すまん、●●ちゃん。せっかくやけど、もう行かんと。仕事が残っとるんや」
食器を洗い終えるのを待たずに、彼は椅子から立ち上がる。
お昼に店に来る時も、どこか疲れを滲ませていることがある。
夜もこうして、夜風に消えていくような忙しさ。
「……たまには、ゆっくりしていけばいいのに」
私の小さな独り言に、彼は玄関先で足を止め、申し訳なさそうに眉を下げた。
「そうしたいんやけどなぁ……こればっかりは……。すまんな!」
「次は、いつ来れますか?」
「うーん。突発で仕事が入るかもしれへんから、約束はできんのやけど、●●ちゃんさえええなら、俺は毎日でも来たいくらいや!……ってそないなこと言ったら、食費がエラいことなるか!」
冗談めかして笑う彼の服の裾を、私は無意識に指先で掴んでいた。
「……来てください」
「え?」
「いつでも、待っていますから」
俯きながら絞り出した声。
太志郎さんは一瞬だけ息を呑み、それから私の頭に、大きくて温かい掌をそっと乗せた。
「……そない可愛いこと言われるとな、ほんまに帰りたくなくなってまうわ」
低く、甘く響いた声。
だけど、その掌はすぐに離れてしまう。
「……またな」
結局、彼は夜の街へと消えて行った。
1人残された玄関で、私は動けずにいた。
部屋の中に残っているのは、生姜焼きの香ばしい匂いと、彼が座っていた場所の微かな体温だけ。
“毎日でも来たい”
“帰りたくない”
彼はそう言ってくれるけれど、叶うことは一度もなかった。
「……ズルいよ、太志郎さん」
いや、ズルいのは私の方なのかもしれない。
初めは、美味しく食べてくれるだけで幸せだと思っていたはずなのに。
欲張りになった私は、それだけでは満たされなくなっていた。
そのクセ、本心は隠したまま。
私の心は、まるで満腹を知らない怪物のようだ。
