Interview with HERO
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取材7日目。
本来なら、今日が期限の最終日になるはずだった。
だけど、昨日のあんな別れ方をして、私が「明日の雑談はしなくていい」と拒絶したのだ。
今日この場所に来たのは、未練があるからじゃない。
ただ、昨日忘れていった折り畳み椅子の回収。
それだけだ。
自分にそう言い聞かせ、重い鉄の扉に手をかける。
キイィィ……
恐る恐る屋上への扉を開けると、錆びついた異音が響き渡る。
「誰もいない……よね?」
隙間から覗く限り、そこには人の気配も、赤い翼もいない。
「ふー良かった!」
安堵と共に扉を全開にして屋上へ足を踏み入れた、その直後。
「何がそんなに良かったんだ?」
「……っ!?」
頭上から降ってきた軽やかな声に、心臓が跳ね上がる。
見上げれば、逆光の中に浮かぶ大きな翼。
予想通りの、けれど1番会いたくなかった、そして1番会いたかった人物がそこにいた。
「ホークス……」
ホークスは、私が逃げ出すのを防ぐように、扉と私の間に音もなく着地した。
そして、そのまま背後の扉を、カチャリと閉めた。
「なんでここに……」
「●●さんに会えると思ったから」
「……え?」
ドクン、と胸が跳ねる。
彼はいつもの調子で言っているだけ……。
そう分かっていても、自意識が暴走してうまく言葉が見つからない。
「……何か忘れてない?」
「えっと……昨日、椅子を忘れちゃって」
絶対に違う。
私が今、彼に言うべきなのはそんな事務的なことじゃない。
気まずさに耐えられず、私は視線を地面に落とした。
すると、不意に上から柔らかな笑い声が降ってくる。
「ふっ、ははは」
「……?」
恐る恐る顔を上げると、そこには怒りなど微塵も感じさせない、穏やかな瞳があった。
「椅子はあそこにまとめてあるよ」
指差す先には、丁寧に畳まれた私の椅子。
彼が片付けておいてくれたのだろう。
「……ありがとう。じゃあ、それを受け取って帰ります」
そそくさとその場を去ろうとした私の背中に、彼の声が追い付いてくる。
「俺はさ、●●さんに言い忘れたことがあるんだけど」
足が止まる。
振り返ると、彼は少しだけ真面目な顔をして、私を見つめていた。
「俺、実は●●さんの写真を前から結構見てきたんだよね。先週の週刊誌に載った、スカイヒーローの写真もさ」
思いもよらない告白に、私は目を丸くした。
「スカイヒーローだって、俺には負けるけど中々の速さだ。それなのにブレずに、かつ相手の女性の顔は絶対に映さない絶妙なアングル。どうやってこんな写真を撮ったんだろうって、ずっと気になってたんだ」
「……」
さすが見るところが違う。
そう、あくまで私はヒーローが撮りたいワケで、お相手を撮りたいワケではない。
更に、そのお相手が一般人だとそのまま公開できない。
だけど、目線やモザイクをかけるのもプライドが許さない。
こうして、試行錯誤して撮って選んだ写真が週刊誌に載ったものだ。
「それで●●さんに興味が湧いたんです。いつか俺も撮ってもらいたいって」
そんな風に思ってくれていたなんて……。
驚きで、息をすることさえ忘れてしまいそうになる。
だって、大抵の人は私が撮る写真だから、ではなく、写真に写っている人物が何をしているのか、にしか興味がないから。
「まあ、現実は女子高生を抱き抱えてる際どい写真だったワケだけどさ」
「それは……」
「でも、雨の日のあの写真。あれは良かった。……正直、撮られてたのはショックだったけど、自分でもあんな顔ができるんだって驚いたよ。……やっぱり、●●さんに撮ってもらえて、俺は嬉しかったんだ」
勝手に盗撮したのに、嬉しかった?
困惑し、立ち尽くす私に、彼は1歩近付いて、優しく問いかける。
「それで、●●さんは俺に言い忘れたことはない?」
「私……」
心臓が破裂しそうなくらい速く打つ。
彼がこれほどまでに自分を曝け出してくれたのだ。
もう、嘘や誤魔化しで逃げることはできない。
私が言い忘れたこと……。
「えっと……あの……私、カメラマンとして……失格かもしれないけど……」
「うん」
上手く言葉が出ない私に、ホークスは優しく頷いてくれた。
それはまるで、ゆっくりでいいよ、と言っているみたいに。
「撮影対象の人を……好きになってしまいました」
「撮影対象の人って、誰のこと?」
彼は、答えを知っているクセに、意地悪く私の唇から言葉が出るのを待っている。
私は、真っ直ぐにその金色の瞳を見据えて、答えた。
「……ホークス。アナタのことです」
満足げに目を細めた彼は、子供をあやすような手つきで、私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「よく言えました。……さて、これからどうする?空のデートでもしてみる?」
ずっと願っていたこと。
晴れた日、澄み渡る空を、彼の腕の中で見てみたい。
明日になれば、私が“速すぎる男と空のお忍びデート!?”なんて見出しで週刊誌に載るかもしれない。
だけど、今はそんなこと、どうでもよかった。
私は、溢れんばかりの笑顔で、彼の手を取った。
「する!」
赤い翼が大きく広がり、私たちは空高く舞い上がった。
ーーFinーー
本来なら、今日が期限の最終日になるはずだった。
だけど、昨日のあんな別れ方をして、私が「明日の雑談はしなくていい」と拒絶したのだ。
今日この場所に来たのは、未練があるからじゃない。
ただ、昨日忘れていった折り畳み椅子の回収。
それだけだ。
自分にそう言い聞かせ、重い鉄の扉に手をかける。
キイィィ……
恐る恐る屋上への扉を開けると、錆びついた異音が響き渡る。
「誰もいない……よね?」
隙間から覗く限り、そこには人の気配も、赤い翼もいない。
「ふー良かった!」
安堵と共に扉を全開にして屋上へ足を踏み入れた、その直後。
「何がそんなに良かったんだ?」
「……っ!?」
頭上から降ってきた軽やかな声に、心臓が跳ね上がる。
見上げれば、逆光の中に浮かぶ大きな翼。
予想通りの、けれど1番会いたくなかった、そして1番会いたかった人物がそこにいた。
「ホークス……」
ホークスは、私が逃げ出すのを防ぐように、扉と私の間に音もなく着地した。
そして、そのまま背後の扉を、カチャリと閉めた。
「なんでここに……」
「●●さんに会えると思ったから」
「……え?」
ドクン、と胸が跳ねる。
彼はいつもの調子で言っているだけ……。
そう分かっていても、自意識が暴走してうまく言葉が見つからない。
「……何か忘れてない?」
「えっと……昨日、椅子を忘れちゃって」
絶対に違う。
私が今、彼に言うべきなのはそんな事務的なことじゃない。
気まずさに耐えられず、私は視線を地面に落とした。
すると、不意に上から柔らかな笑い声が降ってくる。
「ふっ、ははは」
「……?」
恐る恐る顔を上げると、そこには怒りなど微塵も感じさせない、穏やかな瞳があった。
「椅子はあそこにまとめてあるよ」
指差す先には、丁寧に畳まれた私の椅子。
彼が片付けておいてくれたのだろう。
「……ありがとう。じゃあ、それを受け取って帰ります」
そそくさとその場を去ろうとした私の背中に、彼の声が追い付いてくる。
「俺はさ、●●さんに言い忘れたことがあるんだけど」
足が止まる。
振り返ると、彼は少しだけ真面目な顔をして、私を見つめていた。
「俺、実は●●さんの写真を前から結構見てきたんだよね。先週の週刊誌に載った、スカイヒーローの写真もさ」
思いもよらない告白に、私は目を丸くした。
「スカイヒーローだって、俺には負けるけど中々の速さだ。それなのにブレずに、かつ相手の女性の顔は絶対に映さない絶妙なアングル。どうやってこんな写真を撮ったんだろうって、ずっと気になってたんだ」
「……」
さすが見るところが違う。
そう、あくまで私はヒーローが撮りたいワケで、お相手を撮りたいワケではない。
更に、そのお相手が一般人だとそのまま公開できない。
だけど、目線やモザイクをかけるのもプライドが許さない。
こうして、試行錯誤して撮って選んだ写真が週刊誌に載ったものだ。
「それで●●さんに興味が湧いたんです。いつか俺も撮ってもらいたいって」
そんな風に思ってくれていたなんて……。
驚きで、息をすることさえ忘れてしまいそうになる。
だって、大抵の人は私が撮る写真だから、ではなく、写真に写っている人物が何をしているのか、にしか興味がないから。
「まあ、現実は女子高生を抱き抱えてる際どい写真だったワケだけどさ」
「それは……」
「でも、雨の日のあの写真。あれは良かった。……正直、撮られてたのはショックだったけど、自分でもあんな顔ができるんだって驚いたよ。……やっぱり、●●さんに撮ってもらえて、俺は嬉しかったんだ」
勝手に盗撮したのに、嬉しかった?
困惑し、立ち尽くす私に、彼は1歩近付いて、優しく問いかける。
「それで、●●さんは俺に言い忘れたことはない?」
「私……」
心臓が破裂しそうなくらい速く打つ。
彼がこれほどまでに自分を曝け出してくれたのだ。
もう、嘘や誤魔化しで逃げることはできない。
私が言い忘れたこと……。
「えっと……あの……私、カメラマンとして……失格かもしれないけど……」
「うん」
上手く言葉が出ない私に、ホークスは優しく頷いてくれた。
それはまるで、ゆっくりでいいよ、と言っているみたいに。
「撮影対象の人を……好きになってしまいました」
「撮影対象の人って、誰のこと?」
彼は、答えを知っているクセに、意地悪く私の唇から言葉が出るのを待っている。
私は、真っ直ぐにその金色の瞳を見据えて、答えた。
「……ホークス。アナタのことです」
満足げに目を細めた彼は、子供をあやすような手つきで、私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「よく言えました。……さて、これからどうする?空のデートでもしてみる?」
ずっと願っていたこと。
晴れた日、澄み渡る空を、彼の腕の中で見てみたい。
明日になれば、私が“速すぎる男と空のお忍びデート!?”なんて見出しで週刊誌に載るかもしれない。
だけど、今はそんなこと、どうでもよかった。
私は、溢れんばかりの笑顔で、彼の手を取った。
「する!」
赤い翼が大きく広がり、私たちは空高く舞い上がった。
ーーFinーー
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