Interview with HERO
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取材6日目。
さすがに一晩寝れば、風邪くらい治っているだろう。
そう自分に言い聞かせ、私はいつもは持ち込まない重いクーラーボックスを肩に提げて屋上へ向かった。
快気祝い。
そんな名目があれば、もう少し彼と踏み込んだ時間が過ごせるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら、2人分の折り畳み椅子を並べ終えたところで、赤い翼が空から舞い降りた。
「あ、ホークス……。風邪、治った?」
「……うん。それ、何?」
「椅子」
「そうじゃなくて……」
困惑する彼を無視して、私は半ば強引にその背中を押し、椅子へと座らせた。
「快気祝いよ、快気祝い。さあ、何飲む?お茶、コーヒー、ジュース……ノンアルのカクテルもあるよ」
「……じゃあ、コーヒーで」
「おっけー」
私は自分用に、冷えた缶ビールを手に取った。
「はーい、乾杯!」
ガシャン、と音を立てて缶をぶつける。
夕暮れの屋上、吹き抜ける風が心地いい。
「体調はもう大丈夫なの?」
「まあ、ハードな立ち回りはきついけど、通常業務なら支障ないよ」
「そっか。あ、そういえば昨日の黒い羽の子は?」
「ああ、彼は事務所に職場体験に来た学生だよ」
なるほど、職場体験を理由にパシらされた、と。
その後、他愛のない雑談に花を咲かせた。
アルコールのせいか、少しだけ気が大きくなっている。
「あ、ビール空いちゃった」
クーラーボックスに入っている2本目に手を伸ばし、プルタブを引き抜いた。
プシュッ!
「あ、やばっ……!」
運ぶ途中で振動を与えすぎたのか、白い泡が勢いよく噴き出した。
「ちょっと、ホークス!鞄の中にタオルが入ってるから、取ってもらっていい!?」
「はいはい、てか飲みすぎだよ……」
溢れた泡を拭おうと手元に集中していた私に、不意に冷ややかな声が突き刺さった。
「……●●さん」
その温度の低さに、心臓が跳ね上がる。
顔を上げると、タオルを取ろうとしていたはずの彼の手に、1枚の写真が握られていた。
それは、あの日、私が自分だけのために現像した、雨の日の彼の横顔。
「……あ」
一瞬で、酔いが冷めた。
嫌な汗が背中を伝う。
「この写真……一昨日のですよね」
「……」
「あの時、カメラ持っていませんでしたよね?●●さんの個性で盗撮したものですか?」
口調こそ丁寧だけれど、その瞳に宿る光は鋭い。
彼に隠していた撮影方法。
その答えが、最悪の形で暴かれてしまった。
静寂が痛い。
ピリつく空気が肌を刺す。
「……ごめんなさい」
絞り出すような声で、それしか言えなかった。
「その写真も、最初の女子高生の写真も、マスコミに渡しません。データの消去も、今すぐします。……もう明日の雑談も、しなくていいです」
「……」
「本当に……ごめんなさい」
逃げ出したかった。
彼の失望したような眼差しに耐えられず、私は鞄とクーラーボックスをひったくるように掴むと、振り返らずに屋上の出口へと走り出した。
私の足の速さなんて、彼からすれば止まっているようなものだ。
追いかけてこようと思えば、一瞬で先回りされるはず。
なのに、背後から誰もやって来なかった。
それが、何よりも辛かった。
ビルの階段を駆け下りる。
視界が急に滲んで、足元が危うくなる。
「こんなつもりじゃ……なかったのに……」
ネタの対象を……ヒーローを好きになってしまうなんて、カメラマン失格だ。
「……折り畳み椅子、置いてきちゃったな」
冷たい鉄の手すりを握りしめ、私は嗚咽を堪えるようにしてビルを後にした。
さすがに一晩寝れば、風邪くらい治っているだろう。
そう自分に言い聞かせ、私はいつもは持ち込まない重いクーラーボックスを肩に提げて屋上へ向かった。
快気祝い。
そんな名目があれば、もう少し彼と踏み込んだ時間が過ごせるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら、2人分の折り畳み椅子を並べ終えたところで、赤い翼が空から舞い降りた。
「あ、ホークス……。風邪、治った?」
「……うん。それ、何?」
「椅子」
「そうじゃなくて……」
困惑する彼を無視して、私は半ば強引にその背中を押し、椅子へと座らせた。
「快気祝いよ、快気祝い。さあ、何飲む?お茶、コーヒー、ジュース……ノンアルのカクテルもあるよ」
「……じゃあ、コーヒーで」
「おっけー」
私は自分用に、冷えた缶ビールを手に取った。
「はーい、乾杯!」
ガシャン、と音を立てて缶をぶつける。
夕暮れの屋上、吹き抜ける風が心地いい。
「体調はもう大丈夫なの?」
「まあ、ハードな立ち回りはきついけど、通常業務なら支障ないよ」
「そっか。あ、そういえば昨日の黒い羽の子は?」
「ああ、彼は事務所に職場体験に来た学生だよ」
なるほど、職場体験を理由にパシらされた、と。
その後、他愛のない雑談に花を咲かせた。
アルコールのせいか、少しだけ気が大きくなっている。
「あ、ビール空いちゃった」
クーラーボックスに入っている2本目に手を伸ばし、プルタブを引き抜いた。
プシュッ!
「あ、やばっ……!」
運ぶ途中で振動を与えすぎたのか、白い泡が勢いよく噴き出した。
「ちょっと、ホークス!鞄の中にタオルが入ってるから、取ってもらっていい!?」
「はいはい、てか飲みすぎだよ……」
溢れた泡を拭おうと手元に集中していた私に、不意に冷ややかな声が突き刺さった。
「……●●さん」
その温度の低さに、心臓が跳ね上がる。
顔を上げると、タオルを取ろうとしていたはずの彼の手に、1枚の写真が握られていた。
それは、あの日、私が自分だけのために現像した、雨の日の彼の横顔。
「……あ」
一瞬で、酔いが冷めた。
嫌な汗が背中を伝う。
「この写真……一昨日のですよね」
「……」
「あの時、カメラ持っていませんでしたよね?●●さんの個性で盗撮したものですか?」
口調こそ丁寧だけれど、その瞳に宿る光は鋭い。
彼に隠していた撮影方法。
その答えが、最悪の形で暴かれてしまった。
静寂が痛い。
ピリつく空気が肌を刺す。
「……ごめんなさい」
絞り出すような声で、それしか言えなかった。
「その写真も、最初の女子高生の写真も、マスコミに渡しません。データの消去も、今すぐします。……もう明日の雑談も、しなくていいです」
「……」
「本当に……ごめんなさい」
逃げ出したかった。
彼の失望したような眼差しに耐えられず、私は鞄とクーラーボックスをひったくるように掴むと、振り返らずに屋上の出口へと走り出した。
私の足の速さなんて、彼からすれば止まっているようなものだ。
追いかけてこようと思えば、一瞬で先回りされるはず。
なのに、背後から誰もやって来なかった。
それが、何よりも辛かった。
ビルの階段を駆け下りる。
視界が急に滲んで、足元が危うくなる。
「こんなつもりじゃ……なかったのに……」
ネタの対象を……ヒーローを好きになってしまうなんて、カメラマン失格だ。
「……折り畳み椅子、置いてきちゃったな」
冷たい鉄の手すりを握りしめ、私は嗚咽を堪えるようにしてビルを後にした。
