Interview with HERO
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取材1日目。
昨日と同じ、高層ビルの屋上。
半信半疑のまま、私は再びこの場所に立っていた。
見上げる空は相変わらず広く、どこまでも続いている。
まだ、彼の姿はない。
「まあ、約束をすっぽかされたら昨日の写真を売るだけ。データはしっかり保存してある……」
自分に言い聞かせるように呟き、私は鞄の奥から新品のボイスレコーダーを取り出した。
個性の弱点である音声を補うための必須アイテムだ。
彼が来る前に電源を入れ、ポケットに滑り込ませようとした、その時。
「ボイスレコーダーはなしね」
「……っっ!?」
耳元で囁かれた声と同時に、右手にあったはずの重みが消えた。
いつの間にか背後に降り立っていたホークスが、私の腕を掴み、レコーダーをひょいと取り上げていた。
相変わらずの、異常な速さ。
「急に現れて……。心臓に悪すぎるのよ、アナタは」
「アハハ、ごめんごめん。ひとまず、これ、一旦預かっとくね」
没収されたものは仕方がない。
私はため息を吐き、代わりに鞄からメモ帳とペンを取り出した。
アナログな手段なら文句はあるまい。
「メモも禁止」
「……はあ!?それじゃあ忘れちゃうし、情報を聞き出すなんて無理ですよ」
食い下がる私に、彼は困ったような、それでいて楽しそうな笑みを向ける。
「そこはプロとしての腕の見せ所でしょ?ほら、脳みそフル回転させて」
そもそも私はカメラマンであって、記者ではない。
だけど、ここで彼のご機嫌を損ねて、この貴重な15分間を不意にするワケにはいかない。
私は渋々、ペンを鞄にしまった。
……いいわ。
こうなれば、後で脳内のコマ送り写真を繋ぎ合わせて、無音の映像データでも作ってやる。
読唇術で会話を再現するなんて果てしない作業だけど、やるしかない。
私が内心で歯ぎしりしながら次の策を練っていると、彼は屋上の縁に腰掛け、ブラブラと足を揺らした。
「そんなに怖い顔しないで。単純にお喋りを楽しもうよ。ほら、リラックス」
余裕たっぷりの態度が、余計にこちらの焦りを煽る。
第一、この男の話が全て真実だという保証もない。
嘘を吐かれている可能性だって充分にあるのだ。
それならばと、私は手始めに基本から攻めることにした。
「……尊敬しているヒーローは誰ですか?」
「エンデヴァーさんだね。彼がいたから俺はヒーローを目指したんだ」
「では、どんな世の中にしたいですか?」
「ヒーローが暇を持て余す世の中、かな。俺たちがサボれるくらい平和なのが1番でしょ」
淀みない回答。
嘘偽りはないのだろうけれど、これくらいの情報ならネットで検索すればすぐに出てくる。
私の不満げな表情がお見通しなのか、ホークスはからかうように首を傾げた。
「そんな堅苦しい質問でいいの?もっとあるでしょ、世間が知りたがってること」
分かっている。
分かっているけれど、いざ本人を前にすると言葉が見つからない。
「……」
「ほら、恋人はいないんですか、とかさ」
「……じゃあ、恋人はいますか?」
誘導に乗る形になり、癪に思いつつも問いかけてみる。
すると、彼は事もなげに肩をすくめた。
「残念ながら、いないね」
……自分から聞くように仕向けておいて、それ!?
話が全く広がらない。
なんとかして、彼の素顔を崩すような“YES”の回答を導き出したいのに。
その後も必死に言葉を重ねたけれど、結局、核心に触れるような有力な情報は得られなかった。
「あ、時間だ。ごめんね、仕事に戻らないと」
私の別れの挨拶を待つこともなく、彼はふわりと浮き上がった。
「それじゃあ、また明日。次はもっと面白い質問、期待してるよ」
瞬く間に遠ざかる背中。
相変わらず速い。
私は1人、静かになった屋上で大きく息を吐き出した。
明日はもっと、彼を追い込むような質問を考えておかないと……。
その前に、今日のデータの整理が先かな。
そう思いながら荷物をまとめていると、ジャケットのポケットに違和感を覚えた。
手を突っ込むと、そこにはいつの間にか、没収されたはずのボイスレコーダーが静かに戻されていた。
「……本当に、速いんだから」
返されたレコーダーを握りしめ、彼が消えた夕暮れの空を、私はしばらく見つめた。
昨日と同じ、高層ビルの屋上。
半信半疑のまま、私は再びこの場所に立っていた。
見上げる空は相変わらず広く、どこまでも続いている。
まだ、彼の姿はない。
「まあ、約束をすっぽかされたら昨日の写真を売るだけ。データはしっかり保存してある……」
自分に言い聞かせるように呟き、私は鞄の奥から新品のボイスレコーダーを取り出した。
個性の弱点である音声を補うための必須アイテムだ。
彼が来る前に電源を入れ、ポケットに滑り込ませようとした、その時。
「ボイスレコーダーはなしね」
「……っっ!?」
耳元で囁かれた声と同時に、右手にあったはずの重みが消えた。
いつの間にか背後に降り立っていたホークスが、私の腕を掴み、レコーダーをひょいと取り上げていた。
相変わらずの、異常な速さ。
「急に現れて……。心臓に悪すぎるのよ、アナタは」
「アハハ、ごめんごめん。ひとまず、これ、一旦預かっとくね」
没収されたものは仕方がない。
私はため息を吐き、代わりに鞄からメモ帳とペンを取り出した。
アナログな手段なら文句はあるまい。
「メモも禁止」
「……はあ!?それじゃあ忘れちゃうし、情報を聞き出すなんて無理ですよ」
食い下がる私に、彼は困ったような、それでいて楽しそうな笑みを向ける。
「そこはプロとしての腕の見せ所でしょ?ほら、脳みそフル回転させて」
そもそも私はカメラマンであって、記者ではない。
だけど、ここで彼のご機嫌を損ねて、この貴重な15分間を不意にするワケにはいかない。
私は渋々、ペンを鞄にしまった。
……いいわ。
こうなれば、後で脳内のコマ送り写真を繋ぎ合わせて、無音の映像データでも作ってやる。
読唇術で会話を再現するなんて果てしない作業だけど、やるしかない。
私が内心で歯ぎしりしながら次の策を練っていると、彼は屋上の縁に腰掛け、ブラブラと足を揺らした。
「そんなに怖い顔しないで。単純にお喋りを楽しもうよ。ほら、リラックス」
余裕たっぷりの態度が、余計にこちらの焦りを煽る。
第一、この男の話が全て真実だという保証もない。
嘘を吐かれている可能性だって充分にあるのだ。
それならばと、私は手始めに基本から攻めることにした。
「……尊敬しているヒーローは誰ですか?」
「エンデヴァーさんだね。彼がいたから俺はヒーローを目指したんだ」
「では、どんな世の中にしたいですか?」
「ヒーローが暇を持て余す世の中、かな。俺たちがサボれるくらい平和なのが1番でしょ」
淀みない回答。
嘘偽りはないのだろうけれど、これくらいの情報ならネットで検索すればすぐに出てくる。
私の不満げな表情がお見通しなのか、ホークスはからかうように首を傾げた。
「そんな堅苦しい質問でいいの?もっとあるでしょ、世間が知りたがってること」
分かっている。
分かっているけれど、いざ本人を前にすると言葉が見つからない。
「……」
「ほら、恋人はいないんですか、とかさ」
「……じゃあ、恋人はいますか?」
誘導に乗る形になり、癪に思いつつも問いかけてみる。
すると、彼は事もなげに肩をすくめた。
「残念ながら、いないね」
……自分から聞くように仕向けておいて、それ!?
話が全く広がらない。
なんとかして、彼の素顔を崩すような“YES”の回答を導き出したいのに。
その後も必死に言葉を重ねたけれど、結局、核心に触れるような有力な情報は得られなかった。
「あ、時間だ。ごめんね、仕事に戻らないと」
私の別れの挨拶を待つこともなく、彼はふわりと浮き上がった。
「それじゃあ、また明日。次はもっと面白い質問、期待してるよ」
瞬く間に遠ざかる背中。
相変わらず速い。
私は1人、静かになった屋上で大きく息を吐き出した。
明日はもっと、彼を追い込むような質問を考えておかないと……。
その前に、今日のデータの整理が先かな。
そう思いながら荷物をまとめていると、ジャケットのポケットに違和感を覚えた。
手を突っ込むと、そこにはいつの間にか、没収されたはずのボイスレコーダーが静かに戻されていた。
「……本当に、速いんだから」
返されたレコーダーを握りしめ、彼が消えた夕暮れの空を、私はしばらく見つめた。
