遮るものは何もない
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数週間前のこと。
仕事が終わり、会社を出るとまだ外は明るかった。
最近はますます日の入り時間が遅くなった。
少しだけ得をした気分になる。
「ん〜〜」
背伸びをしたついでに腕時計を見ると、あと数分で乗りたい電車の到着時間だった。
走れば間に合う。
私は少しだけ急ぎ足で駅へ向かった。
そんなとき、不意に建物の視界から勢いよく女性が歩いてきて、ぶつかりそうになった。
「すみません……!」
「あっ、ごめんなさい!」
お互いにペコリと頭を下げ合い、そのまますれ違う。
危ない、危ない。
気を付けないと。
「……就活生かな」
余裕のない表情に、着慣れていないようなリクルートスーツを身に纏っていた。
去年まで私もあんなふうに走り回っていたため、彼女の気持ちがなんとなく分かる。
懐かしんでいると、ふと足元に違和感を覚えて視線を下ろす。
地面に、可愛い柄の小さな財布が落ちていた。
「これ……もしかして!」
さっきぶつかった女性の物だ。
思わずくるりと振り向くと、彼女はすでにバスに乗り込んでいた。
「待って!落とし物!」
慌てて声を張り上げて手を振ったけれど、ちょうどバスのドアが閉まる。
そして、間に合わないまま、バスはゆっくり走り出した。
……どうしよう。
でもこのまま返さなかったら困るよね。
とにかく走るしかないと、私は夢中でバスを追いかけた。
坂道も、人混みも、気にする暇はない。
だけど、思ったよりバスは速いし、坂はきつい。
息が切れて、汗が滲む。
いつの間に、こんなにも体力が落ちていたのか。
私が乗りたかった電車はとうに発車してしまったけれど、そんなことは関係なく、必死でバスを追いかけた。
すると、
「……っ、きゃっ!!」
躓いて、思いきり転んだ。
膝がじりっと熱くなる。
破れたストッキングからは派手に血が出ていた。
そうこうしている間にも、バスはどんどん走っていく。
手を差し伸べる人もいなく、ただ好奇な視線だけが刺さる。
痛み、情けなさ、惨め。
色々な感情が合わさってほんの少し涙が出そうだった。
その時、上からふんわりと声が降ってきた。
「よく頑張ったね」
「え……?」
顔を上げると、目の前に大きな赤い翼。
テレビやネットでしか見たことのないヒーロー。
ホークスが降り立った。
「それ、落とし物?」
「ぁ……、っっ」
喉がカラカラでうまく言葉が出ない。
代わりに、私は財布を握りしめて頷いた。
「落ち着いて話して?」
呼吸を整えるまで、彼は静かに待ってくれた。
「さっきぶつかった女性のものなんです。……あのバス……ってもう見えなくなっちゃったけど、間に合わなくて……」
「そっか、じゃあ後は俺に任せて」
優しい笑顔に、ほっと力が抜ける。
「お願いします」
私は財布を渡しながら頭を下げた。
ホークスはひょい、と飛びあがると、赤い翼を大きく広げてあっという間に空へ飛び立った。
「もう見えなくなっちゃった……」
さすが“速すぎる男”の名は伊達じゃない。
やっと一息ついたら、転んだ膝小僧がジリジリと痛みだした。
だけど、これは頑張った証。
あの就活生も、きっと助かったはずだ。
そう思いながら、フラフラと帰路についた。
仕事が終わり、会社を出るとまだ外は明るかった。
最近はますます日の入り時間が遅くなった。
少しだけ得をした気分になる。
「ん〜〜」
背伸びをしたついでに腕時計を見ると、あと数分で乗りたい電車の到着時間だった。
走れば間に合う。
私は少しだけ急ぎ足で駅へ向かった。
そんなとき、不意に建物の視界から勢いよく女性が歩いてきて、ぶつかりそうになった。
「すみません……!」
「あっ、ごめんなさい!」
お互いにペコリと頭を下げ合い、そのまますれ違う。
危ない、危ない。
気を付けないと。
「……就活生かな」
余裕のない表情に、着慣れていないようなリクルートスーツを身に纏っていた。
去年まで私もあんなふうに走り回っていたため、彼女の気持ちがなんとなく分かる。
懐かしんでいると、ふと足元に違和感を覚えて視線を下ろす。
地面に、可愛い柄の小さな財布が落ちていた。
「これ……もしかして!」
さっきぶつかった女性の物だ。
思わずくるりと振り向くと、彼女はすでにバスに乗り込んでいた。
「待って!落とし物!」
慌てて声を張り上げて手を振ったけれど、ちょうどバスのドアが閉まる。
そして、間に合わないまま、バスはゆっくり走り出した。
……どうしよう。
でもこのまま返さなかったら困るよね。
とにかく走るしかないと、私は夢中でバスを追いかけた。
坂道も、人混みも、気にする暇はない。
だけど、思ったよりバスは速いし、坂はきつい。
息が切れて、汗が滲む。
いつの間に、こんなにも体力が落ちていたのか。
私が乗りたかった電車はとうに発車してしまったけれど、そんなことは関係なく、必死でバスを追いかけた。
すると、
「……っ、きゃっ!!」
躓いて、思いきり転んだ。
膝がじりっと熱くなる。
破れたストッキングからは派手に血が出ていた。
そうこうしている間にも、バスはどんどん走っていく。
手を差し伸べる人もいなく、ただ好奇な視線だけが刺さる。
痛み、情けなさ、惨め。
色々な感情が合わさってほんの少し涙が出そうだった。
その時、上からふんわりと声が降ってきた。
「よく頑張ったね」
「え……?」
顔を上げると、目の前に大きな赤い翼。
テレビやネットでしか見たことのないヒーロー。
ホークスが降り立った。
「それ、落とし物?」
「ぁ……、っっ」
喉がカラカラでうまく言葉が出ない。
代わりに、私は財布を握りしめて頷いた。
「落ち着いて話して?」
呼吸を整えるまで、彼は静かに待ってくれた。
「さっきぶつかった女性のものなんです。……あのバス……ってもう見えなくなっちゃったけど、間に合わなくて……」
「そっか、じゃあ後は俺に任せて」
優しい笑顔に、ほっと力が抜ける。
「お願いします」
私は財布を渡しながら頭を下げた。
ホークスはひょい、と飛びあがると、赤い翼を大きく広げてあっという間に空へ飛び立った。
「もう見えなくなっちゃった……」
さすが“速すぎる男”の名は伊達じゃない。
やっと一息ついたら、転んだ膝小僧がジリジリと痛みだした。
だけど、これは頑張った証。
あの就活生も、きっと助かったはずだ。
そう思いながら、フラフラと帰路についた。
