遮るものは何もない
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〜遮るものは何もない〜
蝉の声が容赦なく降り注ぐ。
空気はねっとりと肌にまとわりつき、気だるい暑さが全身を包む。
街のあちこちからは、子どもたちのはしゃぎ声が聞こえる。
学生たちはすっかり夏休みモードだ。
昨年までは私もあの中のひとりだったのに。
社会人になった今では、そんな浮かれた季節感はとうに縁遠い存在になってしまった。
今日もジリジリと照りつける日差しの中、汗を滲ませながら駅のホームで電車を待っている。
「ふー……暑っ……」
ただでさえ億劫な通勤が、夏の暑さだけでさらに重く感じられる。
ようやく現れた電車に乗り込むと、車内の冷房が汗を引かせてくれた。
少しだけ気持ちに余裕が戻ってきて、周りに目を向ける。
ふと、車内の広告スペースに貼られているポスターが目にとまった。
色とりどりの浴衣、夜空に咲く大きな花火、それを見上げて笑い合うカップルや家族たち。
屋台の明かりに照らされてみんな楽しそうだ。
……夏祭り、か。
ポスターのすみっこに書かれた場所と日付けをそっと確認してみると、偶然にも私の次の休みと重なっていた。
心の奥が、少しだけ騒つく。
私も誰かと夏祭りに行きたい。
そう思う相手が、私にもいる。
ホークス……。
ヒーロービルボードチャートJPでは3位に入る、有名なヒーローだ。
そんな彼と私は昔からの知り合いでも、幼馴染でもない。
もちろん恋人なんてもってのほか。
だけど、先日思いがけず知り合って、それからたまに他愛ない連絡を取るようになった。
私の一方的な片想いだ。
だから、私から誘わない限り、彼から誘ってくれる可能性はゼロ。
鞄からスマホを取り出して、画面を開く。
指先が何度も迷いながら、彼の名前をタップする。
思い切ってメッセージを入力し始めた。
“今週末、都合が良ければ、一緒にお祭りに行きませんか?”
最後に笑顔の絵文字をつけようか迷って、結局そっと消す。
送信ボタンを押した指先が、妙に熱く感じられる。
返信、来るといいな……。
電車に揺られながら、私の視線は自然と膝の小さな傷へと落ちていった。
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