今日も啓悟が起きる前に、ハローワークへ足を運ぼうと静かに支度をしているときのこと。


「どこに行くの？」

「えっ」


先程までぐっすりと寝ていたはずの啓悟が私の後ろに立っていた。


「ハローワークに行くだけだよ。ほら、疲れているだろうし、二度寝してきたら？」

「眠くない。それよりこんな時間に行っても営業時間前だろ」

「えーっと、適当なところで朝ご飯を食べようかと思って」


実際は仕事を辞めてから貯金を切り崩しているため、カフェなんかに入ることはできず、営業時間まで公園で時間を潰す予定だ。


「それなら今日はお休みして、俺と一緒にいてよ」

「でも……」

「それとも、ハローワークなんて嘘で俺に言えない人と会っているのか？」

「そんなことない！……そんなことないもん……」


啓悟に気を遣っていたつもりが、あらぬ誤解を生んでいたとは。
どうすれば誤解が解けるのか。

言葉に詰まっていると、


「じゃあ、今日はハローワーク休んで、朝ご飯一緒に食べよう」


啓悟はそれだけ言うとキッチンの方へと向かい、朝食の用意を始めた。

トースターにパンを入れて、フライパンでスクランブルエッグとウインナーを焼いていく。

程なくしてリビングのテーブルに置かれた。


「どうぞ」

「いただきます……」


久しぶりに一緒に食べる朝食。
ふっくらしたトーストにトロトロのスクランブルエッグ、パリパリのウインナー。
どれも美味しい。

食べ終わり、ホットコーヒーで一息ついていると、


「それで、俺に誤解を与えてまでして何で避けていたの？」

「えっ……」


説明もしていないのに、なんで誤解だと断言しているのか。


「パトロールがてら●●がハローワークへ入っていくのを毎日見届けているから。もちろんその前に公園に寄っていることも知っている」


どうやら啓悟は私が嘘を付いていないことを本当に分かっているようだ。


「で、何で避けていたの？」

「それは……」


頭が切れる啓悟に隠していてもそのうちバレてしまうかもしれない。
私は正直に話すことにした。


「中々転職先の決まらない私に嫌気を差されちゃったんじゃないかと思って……。私の顔なんて見たくないだろうって避けていました……」

「え？！なんでそうなるの？」

「だって啓悟、目を合わせてくれなくなったし、その……えっちの時も様子が変だし……」

「……」

「啓悟は……私のことを嫌いになっちゃった？」

「いや、●●は悪くない。どちらかと言わず俺の方が……」

「俺の方が？」


啓悟はなるほど、そう言うことか、と一人納得した様子だった。


「引かないで聞いて欲しいんだけど……」

「うん？」

「転職が上手くいかなくて落ち込んでいる●●の顔が……泣きそうな顔が……可哀想で可愛くてたまらないんだ……」

「え？」

「●●のこと大好きなのに……笑っていて欲しいのに……後ろめたくて泣きそうな●●の顔に興奮している自分が嫌になって……それで目をそらしていた」


まさかの発言に言葉を失った。


「だから、●●のことが重荷になったとか嫌いになったとかではないから。それだけは勘違いしないで欲しい」

「……」

「●●の可哀想な顔をもっと俺に見せてくれないか？」


あんな辛気臭くて、周りまで暗い気持ちにさせてしまいそうな顔がいいの？
そんなのが見たいの？


「それで泣いても、嫌がっても、本気で抵抗しても、イっても止めないで、ずっと気持ち良くさせるセックスがしたい」


そう言えば、いつも私が先に落ちてしまうけど、啓悟はちゃんとイけているのだろうか。
満足していたのだろうか。

自己嫌悪でどうにかなりそうな啓悟を受け入れたら、私はどうなってしまうんだろう。

試してみたい。


「いいよ……」

「本当？やめるなら今だよ」

「うん。だって啓悟のことが好きだから」

「●●……」


私は啓悟の唇を……舌を受け入れた。