Interview with HERO
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〜Interview with HERO〜
私の仕事はフリーのカメラマン。
だけど、私の首に一眼レフがぶら下がることはない。
趣味のバードウォッチングならぬヒーローウォッチングを兼ねて、今日も現場へと繰り出す。
観察場所は、鳥がいそうな大自然や山々ではなく、事件が起こりそうな街。
特に、高層ビルの屋上なんかは最適だ。
冷たい風が吹き抜けるビルの屋上に、持ち込みの折り畳み椅子を設置する。
片手には双眼鏡。
傍から見れば、ただの不審者だろう。
「さて、今日はどんなヒーローが飛んでいるかな……」
レンズ越しにプロヒーローたちの動向を追う。
カメラを持たない理由は、私の個性『瞬間記憶』にある。
目に写った光景を、シャッターを切るように脳に焼き付ける。
特注の受信機をパソコンに繋げば、私の脳内の記憶は、そのままデジタルデータとして送信できるのだ。
唯一の欠点は、瞬間記憶したものは24時間でノイズがかかったように思い出せなくなる。
そのため、残したいものは、その日の内に保存しなければならない。
これは、脳のパンクを防ぐための防衛本能。
そして、この個性は視覚に特化しているため、音は記録できないうえに、私自身の記憶力は一般人と変わらない。
こうして得た決定的瞬間のデータを、マスコミに売りさばく。
それが私の仕事だ。
先週、世間を騒がせた“スカイヒーロー、お忍び空中デート?!”のスクープ写真。
あれも、私の個性で撮った物の1つである。
その時だった。
鋭い風切り音と共に、視界に何かが横切った。
「来たっ!」
反射的に個性を発動させる。
脳裏に刻まれたのは、ウィングヒーローのホークスの姿。
そして、その腕に抱き抱えられている、制服姿の女子高生。
「これはスクープだ!」
思わず口角が上がる。
スカイヒーローなんて比ではない。
私の脳内では、見出しが駆け巡った。
“速すぎる男ホークス、ついにJKに手を出す?!”
「粘ってもこれ以上の獲物はないわよね。さっさと帰って、1番映えるコマを現像しないと」
満足感に浸りながら、帰り支度を始めた、その直後。
背後から凄まじい風圧を感じた。
振り返ると、そこには先程まで空の彼方にいたはずの男が、音もなく着地していた。
「えっ……ホークス……?」
「ねえ、聞きたいんだけど」
涼しげな顔をして、彼は私に尋ねてきた。
心臓が跳ね上がる。
まさか、撮られたことに気付いた?
いや、大丈夫。
私の手元にはカメラもスマホもない。
ただの双眼鏡を持った一般人を装えばいい。
「は、はい。何でしょうか」
精一杯のしらばっくれを演じようとした私に、彼は全てを見透かすような瞳を向けた。
「お姉さん、フリーのカメラマンの◯◯●●さんでしょ」
「……っ!」
喉の奥が引き攣る。
素性まで割れている。
この男、速いだけじゃない。
単刀直入に言うけどさ。今の写真、消してくれない?」
「ぐっ……」
直球すぎる要求に言葉が詰まる。
だけど、こちらもプロだ。
タダで引き下がるワケにはいかない。
私は椅子を片付ける手を止め、開き直って彼を見据えた。
「逆に伺いますけど。あの女子高生を抱き抱えていたのは、何か後ろめたい理由でもあるんですか?やましいことがなければ、撮られても困らないはずでしょう」
ホークスは困ったように黄土色の髪の頭を掻き回し、深く、長いため息を吐き出した。
「あの子は怪我をしてたから、急いで病院まで運んだだけ」
「それなら、なおさら消す必要はないのでは?」
「俺がいくら真実を話そうがさ、お姉さんがあることないこと書いてマスコミに流しちゃえば、世間にとってはそれが真実になっちゃうでしょ?だから、根源から絶っておきたいワケ」
ヒーローとしての危うさを、彼は誰よりも理解していた。
だけど、私にだって譲れない一線がある。
「消すことによって、私に何かメリットがあるんですか?こっちだって、生活がかかっているんですよ」
「うーん……そうだよねぇ……」
ホークスは顎に手を当て、しばらく空を仰いで考え込んでいた。
やがて、彼は何かを思いついたように不敵な笑みを浮かべる。
「……じゃあ、代わりに別の情報をあげるよ」
「情報?」
「それは、お姉さんのカメラマンとしての腕を見せてよ。明日から1週間、この場所、この時間に、15分だけ寄ることにする。そこで俺とお喋りしよう」
「はあ……?」
「だからさ、その会話の中で、俺から特ダネを引き出してみなよ。お姉さんの手腕次第で、今のJKの写真よりずっと価値のあるネタが手に入るかもしれないよ?」
耳を疑った。
現役のトップヒーローが、自ら情報を切り売りすると提案してきたのだ。
おそらく、彼は私がカメラマンであることは知っていても、私の眼がカメラそのものであることまでは気付いていない。
今日の画像はひとまずパソコンに保存しておき、もし彼から有益な話が引き出せなければ、その時は予定通りマスコミに売ればいいだけの話だ。
良心が痛まない、と言えば嘘になるけれど、これはリスク管理を怠ったホークスの責任。
「……分かりました。明日、この時間にここで」
「交渉成立。物分かりが良くて助かるよ。じゃ、また明日」
そう言い残すと、彼は再び翼を広げた。
そして、瞬き1つする間もなく、彼の姿は見えなくなった。
「速っ……!」
残されたのは、片付け途中の折りたたみ椅子のみ。
私は自分の瞳を指先でなぞりながら、明日の取材をシミュレーションした。
「……ボイスレコーダー、最新のやつを用意しなきゃ」
夕暮れに染まり始めた夜空を背に、私も屋上を後にした。
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