食べたい、食べられたい
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いつものようにお昼時間を過ごしていたとき。
小さなお弁当はすぐに食べ終わり、私は残りの時間を次の授業の予習に充てていた。
そんなとき、ガタッと目の前の空席に誰かが座ってきた。
席の持ち主が戻ってきたのだろう。
そう思っていると、その人物は私の机に片肘を付くようにもたれ掛かり、話しかけてきた。
「◯◯さん、最近お弁当全然食べてへんやろ?どっか悪いん?」
心臓が跳ねた。
驚いて顔を上げると、治君だった。
「えっ、あ……っ」
不意打ちすぎる。
お弁当を小さくしたことに気付いてほしいとは思っていたけれど、いざ真っ直ぐに見つめられると、言葉が出てこない。
今は健康のためだけれど、元々は「治君に米俵だと思われたくなくて、ダイエットを始めました」なんて、死んでも言えるはずがなかった。
「あ、いや……その、体調が悪いワケじゃないから……」
心配させたくなくて、それだけを絞り出すように伝えると、彼は「ふーん」と喉を鳴らし、少しだけ目を細めた。
「ほうか、それやったらええんやけど。……でも、ちゃんと食べた方がええで」
「え……?」
「階段から落ちそうになったとき、俺、受け止めたやろ。あんとき思ったんやけど……◯◯さん、抱き枕みたいで触り心地が良かってん。飯食べんと、その魅力が半減してまう」
混乱で頭が真っ白になる。
こんなにだらしがない身体が、心地良い……?
それは、あまりにストレートで、かなりデリカシーのない言葉だった。
だけど、治君の瞳はどこか真剣に見えた。
「なんで、そんなこと……」
だって、デブは嫌だって言っていたのに……。
消え入りそうな声で呟くと、治君は周囲を警戒するようにキョロキョロと見渡してから、椅子を寄せてきた。
「……俺、◯◯さんのこと好きやねん」
耳元に吹き込まれた吐息混じりの低い声。
「はあ!? えっ!!」
「声でかっ」
治君が可笑しそうに肩を揺らして笑うけれど、こっちはそれどころではない。
「だ、だって……彼女、いるでしょ? 」
「彼女?おらへんよ」
私の必死な訴えに、彼はしっくりきていないのか、一瞬きょとんとしている。
「北村君とマルちゃんって名前の彼女さんの話をしているの、聞いちゃったんだけど……」
「……ああ!」
納得がいったように、治君はスマホを取り出した。
「マルちゃんってのは、これや」
差し出された画面に映っていたのは、真っ白でフワフワした毛並みの猫だった。
「近所のペットショップにおる子や。なんや知らんけど、懐かれてん。北村が勝手に彼女とか呼んどるだけで、俺に特定の女はおらへんよ」
勘違いだった。
穴があったら入りたい。
あまりの恥ずかしさから、顔が火を噴くように熱くなる。
「せやから◯◯さん。もし嫌やなければ……1回……いや、3回だけでええから、後ろから抱きつかせて!」
「えっ、嫌だけど!」
「そこをなんとか!あの感触が忘れられへんねん!」
「嫌だってば!」
両手を合わせて拝むように懇願してくる治君。
いくら好きな相手だからとはいえ「はい、どうぞ」とさせるほど、私は恋愛経験もなければノリもよくない。
どうやって諦めてもらうか……。
その時、タイミングよく午後の授業を告げる予鈴が鳴り響いた。
「ほら、チャイム鳴ったから!治君も席に戻りなよ!」
「ちぇっ……。せやけど、考えといてな?」
不貞腐れたように唇を尖らせて去っていく、彼の広い背中。
考えておいて、なんて……。
冗談に決まってる。
きっと、あの階段での出来事が彼の中で面白おかしく変換されているだけだ。
案の定、その日はそれ以上治君から変なことを言われることはなかった。
小さなお弁当はすぐに食べ終わり、私は残りの時間を次の授業の予習に充てていた。
そんなとき、ガタッと目の前の空席に誰かが座ってきた。
席の持ち主が戻ってきたのだろう。
そう思っていると、その人物は私の机に片肘を付くようにもたれ掛かり、話しかけてきた。
「◯◯さん、最近お弁当全然食べてへんやろ?どっか悪いん?」
心臓が跳ねた。
驚いて顔を上げると、治君だった。
「えっ、あ……っ」
不意打ちすぎる。
お弁当を小さくしたことに気付いてほしいとは思っていたけれど、いざ真っ直ぐに見つめられると、言葉が出てこない。
今は健康のためだけれど、元々は「治君に米俵だと思われたくなくて、ダイエットを始めました」なんて、死んでも言えるはずがなかった。
「あ、いや……その、体調が悪いワケじゃないから……」
心配させたくなくて、それだけを絞り出すように伝えると、彼は「ふーん」と喉を鳴らし、少しだけ目を細めた。
「ほうか、それやったらええんやけど。……でも、ちゃんと食べた方がええで」
「え……?」
「階段から落ちそうになったとき、俺、受け止めたやろ。あんとき思ったんやけど……◯◯さん、抱き枕みたいで触り心地が良かってん。飯食べんと、その魅力が半減してまう」
混乱で頭が真っ白になる。
こんなにだらしがない身体が、心地良い……?
それは、あまりにストレートで、かなりデリカシーのない言葉だった。
だけど、治君の瞳はどこか真剣に見えた。
「なんで、そんなこと……」
だって、デブは嫌だって言っていたのに……。
消え入りそうな声で呟くと、治君は周囲を警戒するようにキョロキョロと見渡してから、椅子を寄せてきた。
「……俺、◯◯さんのこと好きやねん」
耳元に吹き込まれた吐息混じりの低い声。
「はあ!? えっ!!」
「声でかっ」
治君が可笑しそうに肩を揺らして笑うけれど、こっちはそれどころではない。
「だ、だって……彼女、いるでしょ? 」
「彼女?おらへんよ」
私の必死な訴えに、彼はしっくりきていないのか、一瞬きょとんとしている。
「北村君とマルちゃんって名前の彼女さんの話をしているの、聞いちゃったんだけど……」
「……ああ!」
納得がいったように、治君はスマホを取り出した。
「マルちゃんってのは、これや」
差し出された画面に映っていたのは、真っ白でフワフワした毛並みの猫だった。
「近所のペットショップにおる子や。なんや知らんけど、懐かれてん。北村が勝手に彼女とか呼んどるだけで、俺に特定の女はおらへんよ」
勘違いだった。
穴があったら入りたい。
あまりの恥ずかしさから、顔が火を噴くように熱くなる。
「せやから◯◯さん。もし嫌やなければ……1回……いや、3回だけでええから、後ろから抱きつかせて!」
「えっ、嫌だけど!」
「そこをなんとか!あの感触が忘れられへんねん!」
「嫌だってば!」
両手を合わせて拝むように懇願してくる治君。
いくら好きな相手だからとはいえ「はい、どうぞ」とさせるほど、私は恋愛経験もなければノリもよくない。
どうやって諦めてもらうか……。
その時、タイミングよく午後の授業を告げる予鈴が鳴り響いた。
「ほら、チャイム鳴ったから!治君も席に戻りなよ!」
「ちぇっ……。せやけど、考えといてな?」
不貞腐れたように唇を尖らせて去っていく、彼の広い背中。
考えておいて、なんて……。
冗談に決まってる。
きっと、あの階段での出来事が彼の中で面白おかしく変換されているだけだ。
案の定、その日はそれ以上治君から変なことを言われることはなかった。
