食べたい、食べられたい
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〜食べたい、食べられたい~
BMIなんて信じない。
日本肥満学会の判定基準は18.5~24.9が普通体重と言っているけれど、少なくとも21の私は太って見える。
「世間一般ではデブ扱いだ」と声を大にして言いたい。
もちろん、肥えたのは全て私の責任。
1年生の頃は、部活の過酷な練習量がすべてを解決してくれていた。
山盛りの白米を食べても、その分だけ動けば数字は動かなかった。
だけど、2年生になって先輩という立場に居座り、雑用を後輩に譲るようになってから、動く量は格段に減った。
それなのに、ご飯の量が変わらなければ体重も増えるに決まっている。
ちぎって、誰かにあげることができたらいいのに……。
制服越しに、お腹の脂肪を指先でギュッと摘まむ。
そんなことをしながら、移動教室への階段を上っている、その時だった。
「あっ……」
階段を踏み損ねた右足が、虚空を蹴った。
手摺りにも掴まれず、視界は天井を捉える。
私の体は、スローモーションの様に倒れていった。
ヤバい、痛いのは嫌だ、死にたくない……!
ギュッと目を瞑り、衝撃に備えて全身を硬くした。
だけど、数秒経っても一向に痛みはやってこない。
代わりに感じたのは、背中と膝裏を支える、優しい手の感触だった。
「……?」
恐る恐る目を開けると、すぐ目の前に端正な顔立ちがあった。
「危なかったー!間一髪、セーフやな!」
同じクラスの宮治君だ。
彼は私をお姫様抱っこのような形で、いとも容易く受け止めていた。
「ご、ごめん!重かったよね、すぐ降りるから……!」
パニックになりながら謝る私を、彼は一瞬だけ、何かを値踏みするようにじっと見つめた。
そのわずかな間に、心臓が跳ね上がる。
やっぱり重いんだ。
きっと米俵みたいだって思われたんだ。
「……いや、大丈夫やで」
治君は、フッと柔らかく目を細めて笑った。
私は慌てて彼の手を離れ、手摺りにしがみついた。
「足首、捻ってへんか?どっか痛いとこは?」
「うん……大丈夫。踏み外して、びっくりしただけだから」
「そっか。それやったら良かったわ」
彼は何事もなかったかのように、軽く手を振って階段を上っていく。
その後ろ姿を見送りながら、私は自分の胸元を押さえた。
トクントクンと耳の奥まで響くような鼓動が止まらない。
優しくて逞しい腕の感触。
鼻先をかすめた、お日様のような匂い。
そして、あの至近距離で響いた、少し低くて心地よい声。
ときめくなと言う方が無理がある。
ただ、私はこの現象を知っている。
典型的な吊り橋効果。
階段から落ちそうになった恐怖と、助けられた安堵。
その興奮が、脳内で勝手に恋愛のドキドキに変換されているだけだ。
恋なんかじゃない。
ましてや、治君みたいなイケている男子が、私のような体型の女子を対象として見るはずがない。
「勘違いするな、私……」
頬に集まった熱を冷ますように、私は両手で顔を覆った。
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