見た目じゃない
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
やってきたデート当日。
最初は治にお弁当を作ってもらおうかと思ったけど、自分が作っていないお弁当を絶賛されても嬉しくないし、今後もし深い関係になったら必ず料理を作る場面に遭遇するだろう。
その度に治に頼めないし、いずれバレるなら早めに言った方がいい。
私は意を決して自作のお弁当を用意した。
相変わらず、酷い色合い……。
お弁当箱の中身は、お世辞にもデート用とは言えない。
盛り付けのセンスは皆無で、全体がくすんだ茶色に染まっている。
思わず自嘲気味な笑いが漏れるけれど、味見はした。
見た目はアレでも、味は美味しいはず。
「木村君、喜んでくれるかな……」
待ち合わせ場所に着くと、木村君は既に待っていた。
「ごめんね、お待たせ」
「いいや、楽しみすぎて俺が早く来ただけだから。それより◯◯さんの私服姿、いつもと雰囲気が違っていて……その、素敵です」
照れくさそうに笑い、真っ直ぐに褒めてくれる彼。
「あ、ありがとう……。」
木村君ってこんなにも言葉をストレート伝えてくれる人だったんだ……。
仕事中とは違う一面を見た気がして、私は新しい発見に小さく胸を弾ませた。
「さっ、行こう」
自然に繋がれた手は、想像していたよりもずっと大きかった。
館内に入っても、「迷子にならないように」と言って手を離さない。
イルカショーでは見やすい席を譲ってくれたり、「疲れてない?」と何度も気遣ってくれたり……。
その紳士的な振る舞いに、私は「この人なら大丈夫かも」と、心のどこかで安堵していた。
「ペンギン可愛かったね」
「てちてち歩いている様とかね」
時計を見ると、針は12時を回っていた。
「そろそろ、お昼にしようか」
「そうだね」
屋外の休憩エリアにある、パラソル付きのベンチ。
風が心地いい席で、私は意を決して保冷バッグを取り出した。
「……あの、前も言ったけど、見た目は本当に悪いから。でも、味は自信あるから食べてみて」
予防線を張ってから、2人分のお弁当箱を差し出す。
「またまた謙遜しちゃって。それじゃあ、オープン……」
期待に満ちた顔で蓋を開けた木村君。
だけど、その瞬間に彼の表情からすべての光が消えたのを、私は見逃さなかった。
「は?ブタの餌?それとも嫌がらせ?」
「え……」
耳を疑った。
聞いたこともない冷たく、突き放すような声。
一瞬、何を言われたのか理解できず、思考が停止する。
「あ、あのね、見た目はこうだけど、本当に味は……」
「はー、騙されたわ。あんなに旨いおにぎり作れるから期待してたのに、中身これ?引くんだけど」
「だ、騙してなんてないよ……!」
必死に声を絞り出すけれど、彼はもう私を見ていなかった。
あんなに優しかった眼差しは消え、そこには侮蔑と不快感に満ちた他人が立っていた。
だけど、お弁当の見映えが悪いのは事実。
「お弁当……食べなくていいよ。もう、いいから」
「当たり前だろ。食中毒でも起こしたらどうすんだよ」
木村君はお弁当に指1本触れることなく、乱暴に席を立った。
「どこに行くの?」
「帰るんだよ。時間の無駄。あーあ、チケット代もったいねーな」
ぶつぶつと毒づきながら、彼は一度も振り返ることなく出口へと向かっていく。
繋がれていた手の温もりが、嘘のように冷えていくのを感じた。
「……」
手付かずの2人分のお弁当を前に、惨めさが込み上げてくる。
せっかく早起きして作ったのに……。
味は美味しいはずなのに……。
ゆっくりと蓋を閉め、保冷バッグに入れ直す。
「……私も、帰ろ」
2人でくぐったゲートを、1人で出る。
視界が少しだけ滲んで、真っ先に思い浮かんだのは、この茶色いご飯をいつも「旨い」と言って食べてくれる、あのおちゃらけた男の顔だった。
最初は治にお弁当を作ってもらおうかと思ったけど、自分が作っていないお弁当を絶賛されても嬉しくないし、今後もし深い関係になったら必ず料理を作る場面に遭遇するだろう。
その度に治に頼めないし、いずれバレるなら早めに言った方がいい。
私は意を決して自作のお弁当を用意した。
相変わらず、酷い色合い……。
お弁当箱の中身は、お世辞にもデート用とは言えない。
盛り付けのセンスは皆無で、全体がくすんだ茶色に染まっている。
思わず自嘲気味な笑いが漏れるけれど、味見はした。
見た目はアレでも、味は美味しいはず。
「木村君、喜んでくれるかな……」
待ち合わせ場所に着くと、木村君は既に待っていた。
「ごめんね、お待たせ」
「いいや、楽しみすぎて俺が早く来ただけだから。それより◯◯さんの私服姿、いつもと雰囲気が違っていて……その、素敵です」
照れくさそうに笑い、真っ直ぐに褒めてくれる彼。
「あ、ありがとう……。」
木村君ってこんなにも言葉をストレート伝えてくれる人だったんだ……。
仕事中とは違う一面を見た気がして、私は新しい発見に小さく胸を弾ませた。
「さっ、行こう」
自然に繋がれた手は、想像していたよりもずっと大きかった。
館内に入っても、「迷子にならないように」と言って手を離さない。
イルカショーでは見やすい席を譲ってくれたり、「疲れてない?」と何度も気遣ってくれたり……。
その紳士的な振る舞いに、私は「この人なら大丈夫かも」と、心のどこかで安堵していた。
「ペンギン可愛かったね」
「てちてち歩いている様とかね」
時計を見ると、針は12時を回っていた。
「そろそろ、お昼にしようか」
「そうだね」
屋外の休憩エリアにある、パラソル付きのベンチ。
風が心地いい席で、私は意を決して保冷バッグを取り出した。
「……あの、前も言ったけど、見た目は本当に悪いから。でも、味は自信あるから食べてみて」
予防線を張ってから、2人分のお弁当箱を差し出す。
「またまた謙遜しちゃって。それじゃあ、オープン……」
期待に満ちた顔で蓋を開けた木村君。
だけど、その瞬間に彼の表情からすべての光が消えたのを、私は見逃さなかった。
「は?ブタの餌?それとも嫌がらせ?」
「え……」
耳を疑った。
聞いたこともない冷たく、突き放すような声。
一瞬、何を言われたのか理解できず、思考が停止する。
「あ、あのね、見た目はこうだけど、本当に味は……」
「はー、騙されたわ。あんなに旨いおにぎり作れるから期待してたのに、中身これ?引くんだけど」
「だ、騙してなんてないよ……!」
必死に声を絞り出すけれど、彼はもう私を見ていなかった。
あんなに優しかった眼差しは消え、そこには侮蔑と不快感に満ちた他人が立っていた。
だけど、お弁当の見映えが悪いのは事実。
「お弁当……食べなくていいよ。もう、いいから」
「当たり前だろ。食中毒でも起こしたらどうすんだよ」
木村君はお弁当に指1本触れることなく、乱暴に席を立った。
「どこに行くの?」
「帰るんだよ。時間の無駄。あーあ、チケット代もったいねーな」
ぶつぶつと毒づきながら、彼は一度も振り返ることなく出口へと向かっていく。
繋がれていた手の温もりが、嘘のように冷えていくのを感じた。
「……」
手付かずの2人分のお弁当を前に、惨めさが込み上げてくる。
せっかく早起きして作ったのに……。
味は美味しいはずなのに……。
ゆっくりと蓋を閉め、保冷バッグに入れ直す。
「……私も、帰ろ」
2人でくぐったゲートを、1人で出る。
視界が少しだけ滲んで、真っ先に思い浮かんだのは、この茶色いご飯をいつも「旨い」と言って食べてくれる、あのおちゃらけた男の顔だった。
