見た目じゃない
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「おはようございます」
滑り込むようにオフィスに入り、デスクに鞄を置く。
時計の針は始業時間の数分前。
ギリギリセーフだ。
「おはよ。今日、珍しく遅かったじゃん」
隣の席から、ひょいと顔を出したのは木村君だ。
「あはは……」
思わず苦笑いをしてしまった。
こうなったのも、治がゆっくりご飯を食べたせいだ。
「食べに来るならもっと早く来て」と今度釘を刺しておかないと。
……いや、これじゃあまるで、早く来れば食べていいと言っているみたいじゃない。
自問自答しながら、私は逃げるようにパソコンを立ち上げた。
ーーーー
仕事が一段落し、時計を見るとちょうどお昼時間だった。
資料ファイルを保存してから、足元に置いていた保冷バッグに手を伸ばした、そのとき。
「◯◯さん、お昼一緒に行かない?近くに定食屋ができたんだ」
椅子を回転させてこちらを覗き込んできたのは、またしても木村君だった。
「あー、ごめんね。私、お弁当持ってきてるから」
「◯◯さんっていつもお弁当だよね。自炊してるなんて偉いなあ」
「大した物は作ってないよ。昨日の残り物を詰めただけだし、人様に見せるようなもんじゃないから」
本当に茶色いだけのお弁当で、お世辞なしに誰にも見せられない。
「そんなこと言わずにさ、どれどれ〜」
悪戯っぽく笑いながら、木村君の手が私のお弁当箱に伸びてくる。
「っ……!見せませーん」
慌てて蓋を両手で押さえ、抱え込むようにして取り上げた。
その必死な様子に、木村君は肩をすくめて笑う。
「残念」
食や外食派が多いこの部署で、私はいつもデスクの隅でこっそりお弁当を食べている。
この、残念なお弁当を極力誰にも見られないために。
それは、今日も今日とて変わらない。
「それじゃあ、今度は前もって誘うから、そのときは予定空けといてくれよ」
木村君が少しだけ椅子を近付けた。
「俺、◯◯さんともっと仲良くなりたいし」
「あ、うん。……分かった」
少し照れたように笑う彼のせいで、私は戸惑いながら頷くことしかできなかった。
「じゃあ、昼行ってくるわ」
軽やかな足取りでオフィスを出ていく背中を見送りながら、私は抱えていたお弁当箱をそっと机に置いた。
……仲良くなりたい?
隣の席のよしみじゃなくて、もしかして、それ以上の意味?
今まで木村君をそういう目で見たことはなかった。
そもそも、異性を特別視することも長らくしていなかった。
……あー!もうっ!
誰かにこのモヤモヤを聞いてほしい。
真っ先に思い浮かんだのは、今朝も私のご飯を茶色いと文句を言っていたあの男の顔だった。
確か、ご飯を奢ってくれるって言っていた。
早速、今晩にでもお邪魔しよう。
私の口はすっかりおにぎり宮の気分になっていた。
滑り込むようにオフィスに入り、デスクに鞄を置く。
時計の針は始業時間の数分前。
ギリギリセーフだ。
「おはよ。今日、珍しく遅かったじゃん」
隣の席から、ひょいと顔を出したのは木村君だ。
「あはは……」
思わず苦笑いをしてしまった。
こうなったのも、治がゆっくりご飯を食べたせいだ。
「食べに来るならもっと早く来て」と今度釘を刺しておかないと。
……いや、これじゃあまるで、早く来れば食べていいと言っているみたいじゃない。
自問自答しながら、私は逃げるようにパソコンを立ち上げた。
ーーーー
仕事が一段落し、時計を見るとちょうどお昼時間だった。
資料ファイルを保存してから、足元に置いていた保冷バッグに手を伸ばした、そのとき。
「◯◯さん、お昼一緒に行かない?近くに定食屋ができたんだ」
椅子を回転させてこちらを覗き込んできたのは、またしても木村君だった。
「あー、ごめんね。私、お弁当持ってきてるから」
「◯◯さんっていつもお弁当だよね。自炊してるなんて偉いなあ」
「大した物は作ってないよ。昨日の残り物を詰めただけだし、人様に見せるようなもんじゃないから」
本当に茶色いだけのお弁当で、お世辞なしに誰にも見せられない。
「そんなこと言わずにさ、どれどれ〜」
悪戯っぽく笑いながら、木村君の手が私のお弁当箱に伸びてくる。
「っ……!見せませーん」
慌てて蓋を両手で押さえ、抱え込むようにして取り上げた。
その必死な様子に、木村君は肩をすくめて笑う。
「残念」
食や外食派が多いこの部署で、私はいつもデスクの隅でこっそりお弁当を食べている。
この、残念なお弁当を極力誰にも見られないために。
それは、今日も今日とて変わらない。
「それじゃあ、今度は前もって誘うから、そのときは予定空けといてくれよ」
木村君が少しだけ椅子を近付けた。
「俺、◯◯さんともっと仲良くなりたいし」
「あ、うん。……分かった」
少し照れたように笑う彼のせいで、私は戸惑いながら頷くことしかできなかった。
「じゃあ、昼行ってくるわ」
軽やかな足取りでオフィスを出ていく背中を見送りながら、私は抱えていたお弁当箱をそっと机に置いた。
……仲良くなりたい?
隣の席のよしみじゃなくて、もしかして、それ以上の意味?
今まで木村君をそういう目で見たことはなかった。
そもそも、異性を特別視することも長らくしていなかった。
……あー!もうっ!
誰かにこのモヤモヤを聞いてほしい。
真っ先に思い浮かんだのは、今朝も私のご飯を茶色いと文句を言っていたあの男の顔だった。
確か、ご飯を奢ってくれるって言っていた。
早速、今晩にでもお邪魔しよう。
私の口はすっかりおにぎり宮の気分になっていた。
