~第二章〜 寂しいのはどっち
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久しぶりに徹に会える。
部屋を整え、お気に入りの香りを焚いて待っていたのに、呼び鈴が鳴った瞬間に感じたのは、逃げ出したくなるような緊張だった。
「ごめん、遅れちゃった!」
ドアを開けた徹は、少し肩で息をしながら、いつもの屈託のない笑顔を見せた。
「それは全然いいけど……なんかトラブルでもあった?」
精一杯の笑顔を作って問いかける。
徹は一瞬、言葉を濁すように視線を泳がせた。
「あ……うん、まぁ……」
その歯切れの悪さに、胸のざわつきが大きくなる。
焦った私は、つい防衛本能で、一番言いたくない言葉を冗談に変えて口にしてしまった。
「あ、分かった!さては、可愛い子に告白でもされて、遅れちゃったんでしょー?」
ハハッ、と乾いた笑い声を添えて。
だけど、返ってきたのは、期待していた否定の言葉ではなかった。
「……実は、そうなんだよね。あ、でも、もちろん断ったけどね!」
徹は悪びれる様子もなく、直球で返してきた。
「あ、そ、そうなんだ。……やっぱり徹はモテるもんね」
私が余計なことを言わなければ、知らなくて済んだ真実。
自分で自分の首を絞めるなんて、なんて滑稽なんだ。
私の知らないところで繰り広げられる、徹の交友関係。
その事実が、今の曖昧な私との関係をさらに不安定にさせていくようだった。
いたたまれなくなり、私は彼をリビングへ促した。
「お茶用意するから、適当に座ってて」
「何か手伝う?」
「ううん、大丈夫。……待ってて」
キッチンに逃げ込み、お湯を沸かす音で自分の動揺をかき消す。
リビングに戻り、湯気の立つカップをテーブルに置いて、私は気になっていたことを尋ねた。
「ねえ、徹。……受験はどうするの?もう決めた?」
あわよくば、県内の大学だと嬉しい。
そんな淡い期待は、彼の次の言葉で無残に打ち砕かれた。
「俺、受験はしないよ」
「……え?」
「卒業したら、アルゼンチンのチームのトライアウトを受けるつもり」
アルゼンチン……。
地球の裏側。
あまりにも遠すぎるその響きに、目眩がしそうになった。
「だからさ、今はスペイン語の勉強をしてるんだ」
「そ、そっか……。大変だね……」
精一杯の、社会人としての聞き分けのいいフリをする。
徹が「付き合おう」と明言しなかった理由が、ようやく腑に落ちた。
彼は最初から、この場所を去るつもりだったんだ。
私のいない、遠い世界へ。
「うん、大変だけどね。でも、将来のためだから。全然、苦じゃないよ」
真っ直ぐに未来を見据えるその瞳。
そこに映し出される光景に、きっと私の居場所はないのだと悟った。
その日、彼を見送ってから、私の心にはぽっかりと穴が開いたままだった。
彼にとって、今は人生で一番大事な時期。
プロのバレーボール選手という夢を叶えるために、言葉の壁を越え、海を渡ろうとしている。
そこに寂しいなんて言葉を投げつけるのは、大人げない。
彼の重荷になるだけ。
私は、見守る立場なんだ。
幼なじみとして、年上のお姉さんとして。
そう自分に言い聞かせて、私は徹への連絡をぴたりと止めた。
部屋を整え、お気に入りの香りを焚いて待っていたのに、呼び鈴が鳴った瞬間に感じたのは、逃げ出したくなるような緊張だった。
「ごめん、遅れちゃった!」
ドアを開けた徹は、少し肩で息をしながら、いつもの屈託のない笑顔を見せた。
「それは全然いいけど……なんかトラブルでもあった?」
精一杯の笑顔を作って問いかける。
徹は一瞬、言葉を濁すように視線を泳がせた。
「あ……うん、まぁ……」
その歯切れの悪さに、胸のざわつきが大きくなる。
焦った私は、つい防衛本能で、一番言いたくない言葉を冗談に変えて口にしてしまった。
「あ、分かった!さては、可愛い子に告白でもされて、遅れちゃったんでしょー?」
ハハッ、と乾いた笑い声を添えて。
だけど、返ってきたのは、期待していた否定の言葉ではなかった。
「……実は、そうなんだよね。あ、でも、もちろん断ったけどね!」
徹は悪びれる様子もなく、直球で返してきた。
「あ、そ、そうなんだ。……やっぱり徹はモテるもんね」
私が余計なことを言わなければ、知らなくて済んだ真実。
自分で自分の首を絞めるなんて、なんて滑稽なんだ。
私の知らないところで繰り広げられる、徹の交友関係。
その事実が、今の曖昧な私との関係をさらに不安定にさせていくようだった。
いたたまれなくなり、私は彼をリビングへ促した。
「お茶用意するから、適当に座ってて」
「何か手伝う?」
「ううん、大丈夫。……待ってて」
キッチンに逃げ込み、お湯を沸かす音で自分の動揺をかき消す。
リビングに戻り、湯気の立つカップをテーブルに置いて、私は気になっていたことを尋ねた。
「ねえ、徹。……受験はどうするの?もう決めた?」
あわよくば、県内の大学だと嬉しい。
そんな淡い期待は、彼の次の言葉で無残に打ち砕かれた。
「俺、受験はしないよ」
「……え?」
「卒業したら、アルゼンチンのチームのトライアウトを受けるつもり」
アルゼンチン……。
地球の裏側。
あまりにも遠すぎるその響きに、目眩がしそうになった。
「だからさ、今はスペイン語の勉強をしてるんだ」
「そ、そっか……。大変だね……」
精一杯の、社会人としての聞き分けのいいフリをする。
徹が「付き合おう」と明言しなかった理由が、ようやく腑に落ちた。
彼は最初から、この場所を去るつもりだったんだ。
私のいない、遠い世界へ。
「うん、大変だけどね。でも、将来のためだから。全然、苦じゃないよ」
真っ直ぐに未来を見据えるその瞳。
そこに映し出される光景に、きっと私の居場所はないのだと悟った。
その日、彼を見送ってから、私の心にはぽっかりと穴が開いたままだった。
彼にとって、今は人生で一番大事な時期。
プロのバレーボール選手という夢を叶えるために、言葉の壁を越え、海を渡ろうとしている。
そこに寂しいなんて言葉を投げつけるのは、大人げない。
彼の重荷になるだけ。
私は、見守る立場なんだ。
幼なじみとして、年上のお姉さんとして。
そう自分に言い聞かせて、私は徹への連絡をぴたりと止めた。
