~第一章〜 振り回すのはどっち
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〜振り回すのはどっち〜
仕事終わりに、職場の同期であるマユリと居酒屋で飲むことになった。
聞いてほしい話があるんだとか。
賑やかな駅前の居酒屋。
彼女は右手のジョッキを決して離さず、空いている方で手振り身振りをし、熱弁する。
「それでねー!もう本当にありえないのー!」
「うんうん」
マユリの恋愛の愚痴を延々と聞かされ、私は疲れるくらい首を縦に振り続けた。
彼氏のあそこが嫌いだ、だとか、ここが許せないだとか。
だけど否定的な言葉が続いたかと思えば、最終的にそれでも好きだ、と呟く。
本当に恋愛って大変だと思う。
「マユリ、そろそろお酒控えた方がいいんじゃない?水頼む?」
いくら明日が休みとは言え、明らかに度を超えている。
しばらくして、私はお財布を取り出し、彼女の腕を掴んだ。
「ほら、タクシー呼んだから。帰るよ」
「えー、まだ飲み足りないのに……」
口を尖らせていじけるマユリの腕を引き、私は会計を済ませた。
外に出ると、冷たい夜風が頬を撫でた。
火照った体には丁度いい。
「マユリ、歩ける?」
「ん~」
返事はするけれど、この調子だと意識はないのに等しい。
そんな彼女を連れて、駅のロータリーにあるタクシー乗り場で待った。
その時、ふと視線を感じた。
同じくタクシー乗り場で待っている1人の男性が、やたらこちらを見ている気がしてならない。
学校のジャージを着ている男性。
学生の知り合いなんていないはずだ。
私はできるだけその男性を意識しないように、夜空を見上げたり、マユリに話しかけたりしてやり過ごした。
やがて、タクシーが到着する。
「タクシー来たよ!」
私はベロベロに酔っ払って呂律の回らないマユリを、そっと後部座席に押し込んだ。
「すみません、彼女をお願いします」
運転手さんに住所を伝えた後、扉を閉めた。
走り出したタクシーを見届け、私のミッションは遂行された。
ふう、と息を吐く。
それにしても、マユリの話を聞くので一生懸命になって、あまりご飯を食べられなかった。
今からでも1人でどこかお店に入ろうかな。
そう思っていると、
「……◯◯●●さん?」
「はい?」
名前を呼ばれ振り返ると、そこにいたのは先程までタクシー乗り場でこちらを見ていた男性だった。
どうして私の名前を……?
次の瞬間、私の思考が追い付く前に、彼は私に駆け寄った。
「ずっと会いたかった!」
そして、私は知らない男性にギュッと抱き締められた。
「んん゛?!」
突然のことで戸惑いが隠せない。
それにしても、良い匂い……じゃなくて、
「人違いでは?!離してください!」
私は慌てて抱きついてきた男性を、勢いよくベリっと引き剥がした。
彼は少し寂しそうな顔をして、困ったように笑った。
「覚えていないの?俺だよ、徹」
「と、おる……?」
「ほら、●●ちゃんの家の近所に住んでいた、及川徹」
言われてみれば、面影があるかもしれない。
「本当に徹なの?!」
私は驚きのあまり、声が裏返ってしまった。
「思い出してくれた?」
徹はイタズラっぽく笑う。
久しぶりの再会で積もる話がある。
だけど、話を続けようとしたところで、冷たい風が私の体を突き刺した。
少し前までは心地よかったのに。
これでは風邪を引いてしまう。
「徹、今時間ある?場所変えて話さない?」
私はスマホを取り出して、近くの飲食店を探した。
「いいね」
その返事を合図に、私は彼の手を引いて、先程調べた飲食店の道のりを歩き始めた。
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