共犯者
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全面戦争の傷跡は、世界の歴史に刻まれた。
瓦礫の山が片付けられ、街の復興が叫ばれる中、私が店を構えていた裏路地は、忘れ去られたように放置されている。
だから、今は一時的に仮設住宅での避難生活を強いられている。
そんな私の元に、一通の依頼が舞い込んだ。
重々しい刻印の押された封書。
呼び出された建物は、冷たいコンクリートの塊だった。
受付を済ませ、重厚なセキュリティを抜け、無機質な廊下の突き当たり。
案内された部屋には、机を挟んで2つの椅子があるだけだった。
片方の椅子には、左腕のない1人の見知らぬ男性が座っていた。
彼が私に気付き、ゆっくりと顔を上げる。
「やあ、●●さん。わざわざこんな場所まで、ご苦労様です」
聞き覚えのある優雅な声、欠損した左腕。
素顔は初めて見たけれど、誰なのかはすぐに分かった。
「仕事ですから……。Mr.コンプレスさん」
私は淡々と答え、持参した工具鞄を机に置いた。
今日は、囚われの身となった彼の義手をメンテナンスするために、この特殊刑務所までやってきたのだ。
「左腕を見せてください」
彼が大人しく差し出した肩口には、あの日、私が丹精込めて作り上げた義手はなかった。
無理やり引き剥がされたのか、接続端子の跡が無惨に残っている。
部屋の隅に立つ刑務官へ視線を投げると、彼はその意図を察し、短く応じた。
「収監時、装着されていた義手は大破しており、凶器になり得ると判断して外させてもらった。現物を確認したいのなら持ってくるが」
「ええ、お願いするわ」
刑務官は無線を取り出し、どこかへ連絡を入れた。
「例の物を……は?無理?……俺が?」
無線を切ると、彼は軽く舌打ちをかまし、険しい表情でこちらを向いた。
「すまない。少し席を外すが、大丈夫か?」
「問題ないです」
人手不足が深刻で、監視役の彼が取りに行かないといけなくなったのだろう。
本来なら許されない状況だけれど、彼は「すぐに戻る」と言い捨て、部屋を飛び出していった。
2人きりの空間。
Mr.コンプレスは、拘束されながらも不敵な笑みを崩さない。
その余裕が、少しだけ私の意地悪な好奇心に火をつけた。
「……アナタを、ここから逃がしてあげましょうか?」
「なっ……!」
完璧だった彼のポーカーフェイスが、初めて崩れた。
目を見開き、驚いた顔で私を見つめる。
「冗談よ。私に壁を壊すような力はないもの。……だけど」
私は身を乗り出し、彼の耳元で囁くように言葉を続けた。
「本当に出たいのなら、考えなくもないわ」
「……本気かい?」
「ええ……。後日、アナタの好きそうな本を差し入れするわ。そこに脱獄計画を記したメッセージを忍ばせておく。アナタがそれに気付けば、外に出してあげる」
それは、ただの義肢装具士の域を超えた、危険な契約。
だけど、私が作り上げた義手をぞんざいに扱った刑務所に、我慢がならなかった。
彼は、しばしの沈黙の後、残された右手をゆっくりと差し出した。
「……期待しているよ」
「ええ。次は、もっと高くつきますから」
私は、差し出された彼の手をしっかりと握り返した。
繋いだ手の温もりは、確かな“共犯”の証だった。
ーーFinーー
瓦礫の山が片付けられ、街の復興が叫ばれる中、私が店を構えていた裏路地は、忘れ去られたように放置されている。
だから、今は一時的に仮設住宅での避難生活を強いられている。
そんな私の元に、一通の依頼が舞い込んだ。
重々しい刻印の押された封書。
呼び出された建物は、冷たいコンクリートの塊だった。
受付を済ませ、重厚なセキュリティを抜け、無機質な廊下の突き当たり。
案内された部屋には、机を挟んで2つの椅子があるだけだった。
片方の椅子には、左腕のない1人の見知らぬ男性が座っていた。
彼が私に気付き、ゆっくりと顔を上げる。
「やあ、●●さん。わざわざこんな場所まで、ご苦労様です」
聞き覚えのある優雅な声、欠損した左腕。
素顔は初めて見たけれど、誰なのかはすぐに分かった。
「仕事ですから……。Mr.コンプレスさん」
私は淡々と答え、持参した工具鞄を机に置いた。
今日は、囚われの身となった彼の義手をメンテナンスするために、この特殊刑務所までやってきたのだ。
「左腕を見せてください」
彼が大人しく差し出した肩口には、あの日、私が丹精込めて作り上げた義手はなかった。
無理やり引き剥がされたのか、接続端子の跡が無惨に残っている。
部屋の隅に立つ刑務官へ視線を投げると、彼はその意図を察し、短く応じた。
「収監時、装着されていた義手は大破しており、凶器になり得ると判断して外させてもらった。現物を確認したいのなら持ってくるが」
「ええ、お願いするわ」
刑務官は無線を取り出し、どこかへ連絡を入れた。
「例の物を……は?無理?……俺が?」
無線を切ると、彼は軽く舌打ちをかまし、険しい表情でこちらを向いた。
「すまない。少し席を外すが、大丈夫か?」
「問題ないです」
人手不足が深刻で、監視役の彼が取りに行かないといけなくなったのだろう。
本来なら許されない状況だけれど、彼は「すぐに戻る」と言い捨て、部屋を飛び出していった。
2人きりの空間。
Mr.コンプレスは、拘束されながらも不敵な笑みを崩さない。
その余裕が、少しだけ私の意地悪な好奇心に火をつけた。
「……アナタを、ここから逃がしてあげましょうか?」
「なっ……!」
完璧だった彼のポーカーフェイスが、初めて崩れた。
目を見開き、驚いた顔で私を見つめる。
「冗談よ。私に壁を壊すような力はないもの。……だけど」
私は身を乗り出し、彼の耳元で囁くように言葉を続けた。
「本当に出たいのなら、考えなくもないわ」
「……本気かい?」
「ええ……。後日、アナタの好きそうな本を差し入れするわ。そこに脱獄計画を記したメッセージを忍ばせておく。アナタがそれに気付けば、外に出してあげる」
それは、ただの義肢装具士の域を超えた、危険な契約。
だけど、私が作り上げた義手をぞんざいに扱った刑務所に、我慢がならなかった。
彼は、しばしの沈黙の後、残された右手をゆっくりと差し出した。
「……期待しているよ」
「ええ。次は、もっと高くつきますから」
私は、差し出された彼の手をしっかりと握り返した。
繋いだ手の温もりは、確かな“共犯”の証だった。
ーーFinーー
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