共犯者
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〜共犯者〜
一般人が立ち寄らないような裏路地。
その奥まった場所にひっそりと佇む、小さなお店。
ギシリと古びた床が不快な音を立てながら、扉が開いた。
久しぶりの来客だ。
私はカウンターから顔を上げると、そこに立っていたのは、最近ニュースで何度も見た顔だった。
奇妙な仮面を被り、丈の長いトレンチコートと羽飾りのついたシルクハットを身に付けた男性。
確か名前は、ヴィラン連合のMr.コンプレスだったか。
「いらっしゃいませ」
「義手を作ってもらいたいんだが……」
彼のコートの腕を見ると、中身のない袋のようにぺしゃんこに潰れているため、欠損していることは明らかだった。
「今、他に掛け持っている仕事がないので、直ぐに作れますよ」
“義肢装具士”。
これが私の仕事だ。
私の個性『接続』は無機物だろうが有機物だろうが、繋ぎ合わせることができる。
そのため、義肢装具士は私にとって天職だった。
客を問わず、依頼されたらどんな相手の義肢でも作る。
私のあまりに事務的な反応に、彼は面食らったのか、少しだけ慌てたような声色で尋ねてきた。
「……お嬢さん、失礼だが、私が誰だか知っているかね?」
私は特に感情を込めることなく、確認するように繰り返した。
「あー、最近よくニュースで取り上げられている、ヴィラン連合のMr.コンプレスさん、でしたっけ?」
彼のような大物は、この辺りのお店ではよく来る。
珍しくもなんともない。
「いかにも、私はMr.コンプレスだ」
彼は一転して、芝居がかった仕草で胸を張った。
「しかし、不思議だ。お嬢さんは私が怖くないのかい?」
普通の人ならここで逃げ出すか、叫ぶか、少なくとも動揺するだろう。
だけど、私が求めているのは金だ。
そして、彼は金を持っている。
それ以上の情報は、義肢を作る上ではノイズでしかない。
「ヴィランだとか盗賊だとかどうでもいいです。私はお金さえもらえれば作る。ただそれだけですので」
私は型取り用の石膏とメジャーを準備しながら、視線もくれずに答える。
「命の危険は感じないのかい?」
彼の声から、道化のような軽やかさが消えた。
一歩間違えれば、この作業場ごと、私もろとも消されてしまうかもしれない。
今までだって脅してくる輩はいた。
だけど、彼らの目的はあくまで義肢だ。
そんな相手に効く言葉を、私は知っている。
「殺してもいいですけど、義手、どうするんですか?」
私は作業台に手をつき、仮面の奥にあるはずの瞳を見据えた。
私には自信があった。
自分で言うのもなんだけれど、私のお店はヴィラン御用達と言っても過言ではない。
その上、巷では有名である。
義手にも種類がある。
装飾、作業用、能動、筋電。
人々はそれらを用途別に付け替えたりもする。
つまり、現代の技術では全ての用途を網羅させる義手がない。
そんな中、私は個性を活かし、神経をダイレクトに義手に接続させるため、1本で本物の手と同じ、いや、それ以上の力を可能にさせる。
そんな私を消そうものなら、代わりを務める義肢装具士なんて、早々見つからないだろう。
だから、私は殺されない。
「……」
「……」
一瞬の沈黙。
私はふっと口角を上げた。
「まあ、いざという時は私の個性でアナタの体を建物に接続して動けなくさせますので」
Mr.コンプレスは、私の返答に小さく、しかし心から楽しそうに笑った。
「いいね、気に入った。お嬢さん、最高の作品を期待しているよ」
「お嬢さんじゃなくて、●●です。では、腕を見せてください」
私の声に、Mr.コンプレスは一瞬ためらうような仕草を見せ、それから観念したように丈の長いトレンチコートの左側を広げた。
「失礼します」
露わになったのは、肩の直ぐ下がごっそり失われた断面だった。
ただ、肩関節は残されているため、上腕義手でよさそうだ。
また、応急処置もよかったのか、切断面は割と綺麗。
これなら上手く接続できそう。
「ずいぶん派手にやらかしたんですね」
私が特に感情を込めずにそう言うと、
「……まあね。少々、高くついた授業料さ」
彼は遠い目をして肩をすくめる。
「採型しますので、硬化するまで動かないでくださいね」
「ああ……」
私は左肩に、石膏をまぶしたギプス包帯を巻き付け、型取りを始めた。
硬化するのを待っている間、採寸用のメジャーを手に取り、健常な右肩から指先までの長さを測る。
「素材は何にしますか?機能性重視か、軽さや丈夫さを取るか……」
「そうだな……。キミに全て任せるよ」
この手の任せる発言は正直嫌いだ。
出来上がった義肢を見せると、リテイクしてくるヤツがいるから。
まあ、その分、追加料金を取るけど。
「いいですけど、作り直しやリテイクはその都度金額割り増ししますよ?」
「構わない」
ヴィランの中には金銭を狙うものと、己の信念のために悪事を働くものがいる。
この金額を問わない態度、ヴィラン連合は儲かっているのか。
そう思ったのも束の間、彼のトレンチコートの裾をよく見ると、ボロボロでほつれが目立った。
これはきっと後者に違いない。
支払いを誤魔化されるのが一番厄介だから、できればリテイクせずに一発で納得のいく義手を作らないと。
「あ、そうそう、言い忘れていました」
私はメジャーを巻き取りながら、わざと意地悪く付け加えた。
「義手の接続の際には激しい痛みが伴いますので」
義肢を本物の腕のように接続させるには、それ相応の痛みが伴う。
それは、義肢の神経回路が肉体の神経へと強制的に馴染まされるために起こる、一種の拒絶反応だ。
「……」
それまで雄弁に語っていた彼が、ピタリと固まった。
「もしかして、怖いんですか?」
ヴィランなのに珍しい。
「……ぜ、善処するよ」
ようやく絞り出された声は、か細かった。
「ふふふっ……」
その情けなさに、私は思わず笑ってしまった。
すると、彼は言い訳するように急にペラペラと話し始めた。
「わ、私はいわゆるサポート役で、戦闘には不向きなんだ!だから、痛みにも弱い!」
「はいはい、分かりました。そういう事にしておきますね」
必死に言い訳を並べる彼をあしらいながら、私は次の工程へと移る。
ギプス包帯が硬化したことを確認すると、私は型を取り外した。
「うん、いい感じ。完成までは、最短で1週間見ておいてください」
私はギプス包帯と採寸結果を記したメモをカウンターの上に置いた。
Mr.コンプレスは、どこか疲れた様子でシルクハットを少し持ち上げ、頭を軽く下げた。
「分かった。では、また1週間後」
「はい。忘れずにお金を持ってきてくださいね」
私の素っ気ない見送りに、彼は仮面の奥で苦笑したような気がした。
そして、シルクハットを深くかぶり直し、長いトレンチコートの裾を翻して古びた店から出て行った。
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