仮面売りの少女
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あのニュースを見て以来、私は駅前のあの場所にお店を開かないことにした。
ネット販売の商品リストからも仮面を消した。
目撃者によって、もし私と迫さんが何らかの形で事件と結びつけられたら……。
それを恐れての行動。
ーーーー
少し離れた裏通り。
人通りの少ない、小さな商店街の軒下で私はひっそり新しいアクセサリーだけを並べていた。
もちろん、仮面は二度と並べない。
時間だけがゆっくり過ぎていった。
小さな売上と淡々とした毎日。
でも、過去と作る喜びだけは、胸の奥でくすぶったままだ。
そんなある曇り空の日。
1人の男性が私の店先に足を止めた。
「あの……以前、仮面を作っていませんでしたか?」
心臓が大きく跳ねた。
何気ない問いかけ、けれど私には逃げたくなるほど重い。
例のヴィランが着けていた仮面を、私が作っていたのを知っていての質問なのか、それともただ、昔の私のお店の前を通りかかったことのある人なのか。
その人は30代くらい。
天然パーマの黒髪に、どこか疲れたような目をしている。
けれど、目元には柔らかな優しさも滲み出ている。
そんな見知らぬ男性客。
「すみません、今は扱っていないです……し、これからも作る予定はないです」
自分でもぎこちなくなっているのが分かる。
男性は少し残念そうに目を細めた。
「そうですか……。つけ心地がよかったから、新しいのが欲しかったのですが……」
「え……?」
その瞬間、私は言葉を失った。
今まで仮面を売ったのは、迫さんただ1人。
まさか……。
でも……この声、この雰囲気、どこか既視感が……。
男性が静かに笑う。
どことなく伝わる、余裕と品のある声。
「初めてかな、君の前で素顔を見せるのは。驚かせたなら、すまない」
私の目の前にいたのは、ベージュのトレンチコートも黒のシルクハットも、もちろん仮面も着けていない“迫圧紘”さんその人だった。
「さ……迫さん……」
信じられないものを前にしたような言葉が、ぽつりとこぼれる。
迫さんは微笑みながら、真っ直ぐこちらを見ていた。
「覚えていてくれて嬉しいよ、●●さん。アナタの仮面が、本当に好きだった。アレは私の大義を果たすためには必要なモノだったんだ。だから、できれば、また……と思ってたんだけど……」
胸がじわりと熱くなる。
あんな事件の後、自分の仮面を欲しいという人が、この世に、本当にいたなんて。
しばらく言葉が出なかった。
だけど、私の気持ちは変わらない。
「ごめんなさい……それでも、もう……私は……」
迫さんは、静かに頷いた。
「そうか……残念だ」
「はい……」
少しの沈黙の後、迫さんはゆっくり口を開いた。
「では、最後のお願いを聞いてもらえないだろうか」
「……お願い?」
私が小さく首をかしげると、迫さんは優しい瞳でまっすぐこちらを見つめて言った。
「アナタを盗ませてもらえないだろうか」
「え……」
驚きで、思わず目を見開いてしまった。
だけど、迫さんの表情はどこまでも真剣で、冗談を言っているようには思えなかった。
「●●さんの仮面は、もう二度と手に入れることはできないのかもしれない。だけど、それ以上に、キミという人に心から惹かれてしまった。この気持ちは、きっともう誰にも止められそうにないんだ」
優しいけれど、どこか不器用な告白に、私はつい笑ってしまう。
「ふふっ……」
ああ、私は他の誰でもない、アナタに仮面を手に取ってもらったことが、何よりも嬉しかったんだ。
そんなアナタが私の仮面を着けているところをそばで見ていたい。
「盗まれるのは困ります。でも……一緒にならいてもいいかな」
迫さんは、子供のように素直な笑顔を見せて頷く。
「それでもいい」
曇り空の向こうに、ほんの少しだけ光が差し込む。
仮面作りを手放した私にも、新しい自分の物語が始まろうとしていた。
私はそっと、迫さんの手を取った。
その温もりは、今でも手に残っている。
ーーFinーー
ネット販売の商品リストからも仮面を消した。
目撃者によって、もし私と迫さんが何らかの形で事件と結びつけられたら……。
それを恐れての行動。
ーーーー
少し離れた裏通り。
人通りの少ない、小さな商店街の軒下で私はひっそり新しいアクセサリーだけを並べていた。
もちろん、仮面は二度と並べない。
時間だけがゆっくり過ぎていった。
小さな売上と淡々とした毎日。
でも、過去と作る喜びだけは、胸の奥でくすぶったままだ。
そんなある曇り空の日。
1人の男性が私の店先に足を止めた。
「あの……以前、仮面を作っていませんでしたか?」
心臓が大きく跳ねた。
何気ない問いかけ、けれど私には逃げたくなるほど重い。
例のヴィランが着けていた仮面を、私が作っていたのを知っていての質問なのか、それともただ、昔の私のお店の前を通りかかったことのある人なのか。
その人は30代くらい。
天然パーマの黒髪に、どこか疲れたような目をしている。
けれど、目元には柔らかな優しさも滲み出ている。
そんな見知らぬ男性客。
「すみません、今は扱っていないです……し、これからも作る予定はないです」
自分でもぎこちなくなっているのが分かる。
男性は少し残念そうに目を細めた。
「そうですか……。つけ心地がよかったから、新しいのが欲しかったのですが……」
「え……?」
その瞬間、私は言葉を失った。
今まで仮面を売ったのは、迫さんただ1人。
まさか……。
でも……この声、この雰囲気、どこか既視感が……。
男性が静かに笑う。
どことなく伝わる、余裕と品のある声。
「初めてかな、君の前で素顔を見せるのは。驚かせたなら、すまない」
私の目の前にいたのは、ベージュのトレンチコートも黒のシルクハットも、もちろん仮面も着けていない“迫圧紘”さんその人だった。
「さ……迫さん……」
信じられないものを前にしたような言葉が、ぽつりとこぼれる。
迫さんは微笑みながら、真っ直ぐこちらを見ていた。
「覚えていてくれて嬉しいよ、●●さん。アナタの仮面が、本当に好きだった。アレは私の大義を果たすためには必要なモノだったんだ。だから、できれば、また……と思ってたんだけど……」
胸がじわりと熱くなる。
あんな事件の後、自分の仮面を欲しいという人が、この世に、本当にいたなんて。
しばらく言葉が出なかった。
だけど、私の気持ちは変わらない。
「ごめんなさい……それでも、もう……私は……」
迫さんは、静かに頷いた。
「そうか……残念だ」
「はい……」
少しの沈黙の後、迫さんはゆっくり口を開いた。
「では、最後のお願いを聞いてもらえないだろうか」
「……お願い?」
私が小さく首をかしげると、迫さんは優しい瞳でまっすぐこちらを見つめて言った。
「アナタを盗ませてもらえないだろうか」
「え……」
驚きで、思わず目を見開いてしまった。
だけど、迫さんの表情はどこまでも真剣で、冗談を言っているようには思えなかった。
「●●さんの仮面は、もう二度と手に入れることはできないのかもしれない。だけど、それ以上に、キミという人に心から惹かれてしまった。この気持ちは、きっともう誰にも止められそうにないんだ」
優しいけれど、どこか不器用な告白に、私はつい笑ってしまう。
「ふふっ……」
ああ、私は他の誰でもない、アナタに仮面を手に取ってもらったことが、何よりも嬉しかったんだ。
そんなアナタが私の仮面を着けているところをそばで見ていたい。
「盗まれるのは困ります。でも……一緒にならいてもいいかな」
迫さんは、子供のように素直な笑顔を見せて頷く。
「それでもいい」
曇り空の向こうに、ほんの少しだけ光が差し込む。
仮面作りを手放した私にも、新しい自分の物語が始まろうとしていた。
私はそっと、迫さんの手を取った。
その温もりは、今でも手に残っている。
ーーFinーー
