その男、盗賊につき
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ーーおまけ(Mr.コンプレスside)ーー
終電もとうに過ぎた夜の公園。
こんな時間の中、ベンチで休むスーツ姿の女性が目に入った。
うつむいて肩を落としたその横顔は、生気がなく、疲れ果てたように見える。
暇潰しに挨拶でもするか。
あわよくば金品を……。
シルクハットを深くかぶり直し、気配を消して彼女の側へ近寄った。
「やあやあ、お嬢さん。ずいぶんお疲れみたいだね」
彼女が驚いて振り返る。
その反応に小さく口元が緩む。
「よければ、ちょっとしたマジックでも見ていかないかい?」
さて、今夜のお客人はどんなリアクションを見せてくれるだろう。
懐から1つ、ビー玉を取り出す。
街灯のきらめきを映したそれを指の間で遊ばせてみせれば、彼女の視線がぴたりとビー玉を追い始めた。
ゆっくりと数を増やしていく。
手品用のトリック……いや、私の個性。
『圧縮』させた物体を、ビー玉に閉じ込めたものだ。
「凄い……」
素直な感想。
また1つ、彼女の目に光が戻った気がした。
「驚くのはまだ早いよ?」
首をかしげる彼女に、私はさらなるマジックを披露する。
「最後にキミの悩み、全部圧縮しちゃうぜ?」
そう言って、そっと鞄に触れる。
この中に彼女の悩みと共に財布が入っているはず。
それが一瞬にしてビー玉へと変化する。
そしてもう1つのビー玉を取り出す。
指を鳴らせば、すぐさまそれは鮮やかな花束へと変化した。
この花束はいざという時のために、私が元々ビー玉に封じ込めていた本物の花束だ。
まさかこんなところで役に立つとは。
「どうぞ、お嬢さん」
小さく頭を下げて差し出すと、彼女は目を丸くしながらも花束を受け取った。
「あ、ありがとうござまいます」
そうだ、それでいい。
後はここから立ち去るだけ。
背を向けて歩きだそうとした矢先、
「あ、あの……!」
引き止められてしまった。
「お代は結構。こんな夜に大したことはできないからさ」
私は冗談めかして言ってみせる。
しかし、彼女は首を横に振った。
「そうじゃなくて、鞄……返してもらえませんか?」
……これは、ごまかしきれなかったか。
仕方がない。
今晩は見逃してあげよう。
「すまない。てっきり仕事に行きたくなくて、不要なのかと思ったから」
私は肩をすくめ、ポケットから取り出したビー玉を鞄に戻してから、彼女の元へ返した。
「ありがとうございます。あの……アナタのお名前は?」
名前だって?
私はキミの鞄を盗もうとした盗賊だぜ?
だけど、目を輝かせている彼女に真実を言えなかった。
「おじさんは名乗るほどの者じゃないよ。……まあ、強いて言うなら、しがない紳士、かな?」
たまには本物の紳士になるのも悪くはない。
そう思いながら、シルクハットのつばを軽く指でつまみ、夜風と共に静かにその場を後にした。
終電もとうに過ぎた夜の公園。
こんな時間の中、ベンチで休むスーツ姿の女性が目に入った。
うつむいて肩を落としたその横顔は、生気がなく、疲れ果てたように見える。
暇潰しに挨拶でもするか。
あわよくば金品を……。
シルクハットを深くかぶり直し、気配を消して彼女の側へ近寄った。
「やあやあ、お嬢さん。ずいぶんお疲れみたいだね」
彼女が驚いて振り返る。
その反応に小さく口元が緩む。
「よければ、ちょっとしたマジックでも見ていかないかい?」
さて、今夜のお客人はどんなリアクションを見せてくれるだろう。
懐から1つ、ビー玉を取り出す。
街灯のきらめきを映したそれを指の間で遊ばせてみせれば、彼女の視線がぴたりとビー玉を追い始めた。
ゆっくりと数を増やしていく。
手品用のトリック……いや、私の個性。
『圧縮』させた物体を、ビー玉に閉じ込めたものだ。
「凄い……」
素直な感想。
また1つ、彼女の目に光が戻った気がした。
「驚くのはまだ早いよ?」
首をかしげる彼女に、私はさらなるマジックを披露する。
「最後にキミの悩み、全部圧縮しちゃうぜ?」
そう言って、そっと鞄に触れる。
この中に彼女の悩みと共に財布が入っているはず。
それが一瞬にしてビー玉へと変化する。
そしてもう1つのビー玉を取り出す。
指を鳴らせば、すぐさまそれは鮮やかな花束へと変化した。
この花束はいざという時のために、私が元々ビー玉に封じ込めていた本物の花束だ。
まさかこんなところで役に立つとは。
「どうぞ、お嬢さん」
小さく頭を下げて差し出すと、彼女は目を丸くしながらも花束を受け取った。
「あ、ありがとうござまいます」
そうだ、それでいい。
後はここから立ち去るだけ。
背を向けて歩きだそうとした矢先、
「あ、あの……!」
引き止められてしまった。
「お代は結構。こんな夜に大したことはできないからさ」
私は冗談めかして言ってみせる。
しかし、彼女は首を横に振った。
「そうじゃなくて、鞄……返してもらえませんか?」
……これは、ごまかしきれなかったか。
仕方がない。
今晩は見逃してあげよう。
「すまない。てっきり仕事に行きたくなくて、不要なのかと思ったから」
私は肩をすくめ、ポケットから取り出したビー玉を鞄に戻してから、彼女の元へ返した。
「ありがとうございます。あの……アナタのお名前は?」
名前だって?
私はキミの鞄を盗もうとした盗賊だぜ?
だけど、目を輝かせている彼女に真実を言えなかった。
「おじさんは名乗るほどの者じゃないよ。……まあ、強いて言うなら、しがない紳士、かな?」
たまには本物の紳士になるのも悪くはない。
そう思いながら、シルクハットのつばを軽く指でつまみ、夜風と共に静かにその場を後にした。
2/2ページ
