不器用ちゃんと世話焼き君
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〜不器用ちゃんと世話焼き君〜
私は人より手先が不器用な自信がある。
制服のリボンは何度結んでも縦結びになるし、折り紙をしようものなら、紙くずが出来上がる。
それはつい先日、学校の出来事でも証明された。
……。
…………。
「みんな悪い!今から配るプリントに訂正箇所があるから、各自直しておいてくれ」
担任の威勢のいい声が響く。
私は配られたプリントの該当箇所に、シャープペンの芯を走らせた。
えっと、ここと……あとはここかな……。
あ、書き間違えた!
私は慌てて消しゴムを手に取り、プリントの文字を擦った。
ビリッ!!
静かな教室に嫌な音が響く。
「……っ!」
消す力が強すぎたのだ。
プリントの真ん中には、大きな裂け目。
おまけに紙はくしゃりと醜いシワが寄っている。
これでは、訂正箇所どころか、その周辺の文字すら読めない。
仕方ない、後で誰かに見せてもらおう……。
そう思っていると、目の前の背中が微かに揺れているのに気が付いた。
前の席の古森元也君だ。
彼は肩を震わせ、必死に笑いを堪えている。
……もしかして、気付かれた?
だとしても、笑わなくてもいいじゃない。
私が頬を膨らませて彼を睨みつけたその時。
古森君はひとしきり笑い終えると、スッと手を挙げた。
「先生、プリント破っちゃったんで、予備もらえませんか」
「なんだ古森、お前らしくないな。ほら、取りに来い」
「すみませーん」
クラスメイトから「お前、しっかりしろよなー!」なんて野次を飛ばされながら、古森君は照れくさそうに教壇へ歩いていく。
戻ってきた彼は、席に座るなり、ひょいと私の方へ右手を差し出した。
「……はい。これ、あげる」
手渡されたのは、先ほど貰ったばかりの新品なプリント。
てっきり彼も破いたのだと思っていた。
だけど、彼の机の上には、破れどころかシワひとつないプリントが置かれている。
もしかして私のために……?
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして」
彼は悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。
「おい古森、いつまでも後ろ向いてるな!」
「あ、すみません先生!」
私のせいでまた怒られている古森君。
申し訳ない気持ちとは裏腹に、彼は満足げに前に向き直した。
ひとまず、これで綺麗なプリントは手に入った。
さっさと訂正箇所を記入してしまおう。
そう思った矢先、指先に痛みが走った。
「……っ!」
見れば、人差し指の腹からぷつりと赤い血が滲んでいる。
嘘、今度は指を切るなんて……。
これ以上、彼にドジなところを見せるワケにはいかない。
私はバレないように、こっそりと鞄からティッシュを探した。
ガサゴソと鞄を漁っていると、いつの間にか、机の端に1枚の絆創膏が置かれていた。
え……?
顔を上げると、古森君の後頭部が見えた。
彼は前を向いたまま、片手でペンを回している。
やっぱり、気付かれていたんだ。
正直、これくらいの怪我は日常茶飯事だ。
でも、彼のさりげない優しさが、今はたまらなく嬉しかった。
私は、ありがたく絆創膏を使うことにした。
……。
…………。
ホームルームが終わり、椅子を引く音が教室に響き渡る。
私は意を決して、彼の背中を指先でつついた。
「古森君。プリントと、あと……絆創膏も、本当にありがとう」
古森君はゆっくりと振り返り、私の顔を見てふっと口角を上げた。
「◯◯さんって、本当に不器用だよね」
彼は私の右手をひょいと指差した。
そこには、私が悪戦苦闘して貼った絆創膏。
……案の定、シワだらけで、しかも肝心の傷口から斜めにズレて留まっている。
「……あっ」
恥ずかしくなって、咄嗟に左手でその指を包むようにして隠した。
だって、片手で綺麗に貼るなんて、私には至難の業なんだから。
「ふふっ。なんか放っとけないんだよな、見てて」
古森君が声を立てて笑う。
西日に照らされたその笑顔は、あまりに眩しくて、優しくて……。
「反則だよ……」
たまらず溢れた呟きは、情けないほど小さかった。
「え、何か言った?」
ふいに笑い声を止めた彼が、不思議そうにこちらを覗き込む。
そのあまりに真っ直ぐな視線に、私は慌てて顔を背けた。
「何でもない!」
熱くなった頬を隠すように握っていた指に力を込める。
この日を境に、何かと古森君は私を気に掛けるようになった。
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