辛くて甘い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それからというもの、授業後は爆豪君と鬼の特訓の日々が始まった。
特訓は、日を追うごとに激しさを増していく。
そして、終わると彼は必ずご飯に誘ってきた。
だけど、プライベートまで彼と一緒にいたくない私は、言い訳を重ねて外食を断った。
「ご飯、親が作ってくれてるから。お金もかかるし、悪いから今日は帰るね」
こうして1週間、必死に彼に食らいついた。
泥にまみれ、肺を酷使し、私は以前よりずっと俊敏に動けるようになった。
爆豪君に認めてもらえる日も近いかもしれない。
それなのに、特訓が終わったある日のこと。
「モブ、最近顔色悪くねェか」
肩で息をする私を、爆豪君が値踏みするような低い声で呼び止めた。
「気のせいじゃないかな?ちゃんと寝てるし、ご飯も食べてるし……」
実際、あんなに億劫だった特訓も前より意欲的に取り組めている。
ときたま、胃がキリキリと引き攣るような痛みはあるけれど、それ以外は好調だった。
「……」
彼は何も言わず、疑うような視線で私を凝視し続ける。
それが堪らず不快で、私は思わず口走っていた。
「それなら、ちゃんとしてるって証明するから、家に来てよ。ご飯作る」
「分かった」
断られると思っていたのに、二つ返事だった。
その帰り道、夕暮れのスーパー。
カゴを手に食材を選ぶ私の後ろを、爆豪君が終始無言で付いてくる。
この生活感溢れる空間に爆豪勝己がいるという異質さに、喉の奥から笑いが込み上げそうになった。
ーーーー
「ここが私の家」
何の変哲もない一軒家。
まさか爆豪君を招待する日が来るとは、少し前の私が聞いたら驚くだろう。
「どうぞ」
「……お邪魔します」
玄関で、彼は意外なほど礼儀正しく挨拶をし、脱いだ靴を綺麗に揃えた。
てっきり乱暴で、不躾な人だと思っていたのに。
ふと思い出す。
1度食事に行った時も、彼は驚くほど綺麗に完食していた。
人は見かけによらない、とはこのこと。
そんな当たり前の言葉が、ストンと腑に落ちた。
「親は?」
「今日は帰りが遅いから、私が作る日なの。適当にリビングで寛いでて」
私は制服の上からエプロンを締め、キッチンに立った。
献立は麻婆豆腐。
彼が好きだと言っていたから。
だけど、正直辛ければ何でもよかった。
手際よく仕上げ、湯気の立つ皿をテーブルに並べる。
「はい、どうぞ。召し上がれ」
「……いただきます」
律儀に両手を合わせる彼。
やっぱり礼儀はちゃんとしている。
その横顔を盗み見ながら、私は彼の反応を待った。
レンゲで麻婆豆腐を口に運んだ爆豪君が、小さく喉を鳴らす。
「どうかな」
「……。チッ、意外と旨ェわ」
意外は余計だと思ったけれど、口に合ったようで良かった。
よし、私も食べよう。
いつもの調子で、私は卓上の唐辛子パウダーを手に取り、真っ赤な麻婆豆腐をさらに赤くする。
「……おい、かけ過ぎだろ」
「いつもこのくらいかけてるよ」
「お前、もうやめろ。胃がイカれるぞ」
「これくらいかけないと、辛いと思わないんだよね」
「だとしても、それは異常だ」
唐辛子を振る私の手を、彼が横から強引に掴み取った。
「手、離してよ」
「……」
睨みつけても、掴む力は緩まない。
それどころか、彼の瞳に宿る力がこもる。
「……いつからだ」
「え?」
「いつから、そんなに辛い物食うようになった」
「……雄英に入って、すぐかな」
それと何が関係あるのか。
爆豪君は少し考える素振りをしたかと思えば、直ぐに口を開いた。
「ストレスで辛いもん詰め込んでる自覚、あんのか」
冷水を浴びせられたような気がした。
ストレス……?
そんな、まさか。
だけど、ストレスのせいならば、全て辻褄が合う。
ヒーロー科への羨望。
C組での焦燥感。
胃がキリキリと痛み始めた時期。
そして、辛いものを食べないと心が落ち着かなくなっていた、あの感覚。
「……その顔、自覚あんだな」
力なくコクリと頷いた。
私は辛い物が好きなんじゃなくて、ストレスで辛い物が食べたくなっていたんだ。
その痛みで、心の中の不安を麻痺させていただけなんだ。
「……ストレス、発散させてやろうか」
「爆豪君……?」
聞き返そうとした瞬間、視界が彼の影に覆われた。
強引に唇が塞がれる。
唐辛子のピリピリとした刺激が残っているはずなのに、彼の唇から伝わるものは驚くほど甘く感じた。
身体の力が抜けていく。
「少しは効果あったみてェだな」
顔を離した爆豪君が、意地の悪い笑みを浮かべて私を見下ろす。
だけど、1度味わった快感を、私はさらに欲していた。
「まだ……」
「あ゛あ?」
「まだ、足りない。……もっとちょうだい」
「……へッ。どうなっても知らねェからな」
爆豪君は低く、愉しげにほくそ笑んだ。
特訓は、日を追うごとに激しさを増していく。
そして、終わると彼は必ずご飯に誘ってきた。
だけど、プライベートまで彼と一緒にいたくない私は、言い訳を重ねて外食を断った。
「ご飯、親が作ってくれてるから。お金もかかるし、悪いから今日は帰るね」
こうして1週間、必死に彼に食らいついた。
泥にまみれ、肺を酷使し、私は以前よりずっと俊敏に動けるようになった。
爆豪君に認めてもらえる日も近いかもしれない。
それなのに、特訓が終わったある日のこと。
「モブ、最近顔色悪くねェか」
肩で息をする私を、爆豪君が値踏みするような低い声で呼び止めた。
「気のせいじゃないかな?ちゃんと寝てるし、ご飯も食べてるし……」
実際、あんなに億劫だった特訓も前より意欲的に取り組めている。
ときたま、胃がキリキリと引き攣るような痛みはあるけれど、それ以外は好調だった。
「……」
彼は何も言わず、疑うような視線で私を凝視し続ける。
それが堪らず不快で、私は思わず口走っていた。
「それなら、ちゃんとしてるって証明するから、家に来てよ。ご飯作る」
「分かった」
断られると思っていたのに、二つ返事だった。
その帰り道、夕暮れのスーパー。
カゴを手に食材を選ぶ私の後ろを、爆豪君が終始無言で付いてくる。
この生活感溢れる空間に爆豪勝己がいるという異質さに、喉の奥から笑いが込み上げそうになった。
ーーーー
「ここが私の家」
何の変哲もない一軒家。
まさか爆豪君を招待する日が来るとは、少し前の私が聞いたら驚くだろう。
「どうぞ」
「……お邪魔します」
玄関で、彼は意外なほど礼儀正しく挨拶をし、脱いだ靴を綺麗に揃えた。
てっきり乱暴で、不躾な人だと思っていたのに。
ふと思い出す。
1度食事に行った時も、彼は驚くほど綺麗に完食していた。
人は見かけによらない、とはこのこと。
そんな当たり前の言葉が、ストンと腑に落ちた。
「親は?」
「今日は帰りが遅いから、私が作る日なの。適当にリビングで寛いでて」
私は制服の上からエプロンを締め、キッチンに立った。
献立は麻婆豆腐。
彼が好きだと言っていたから。
だけど、正直辛ければ何でもよかった。
手際よく仕上げ、湯気の立つ皿をテーブルに並べる。
「はい、どうぞ。召し上がれ」
「……いただきます」
律儀に両手を合わせる彼。
やっぱり礼儀はちゃんとしている。
その横顔を盗み見ながら、私は彼の反応を待った。
レンゲで麻婆豆腐を口に運んだ爆豪君が、小さく喉を鳴らす。
「どうかな」
「……。チッ、意外と旨ェわ」
意外は余計だと思ったけれど、口に合ったようで良かった。
よし、私も食べよう。
いつもの調子で、私は卓上の唐辛子パウダーを手に取り、真っ赤な麻婆豆腐をさらに赤くする。
「……おい、かけ過ぎだろ」
「いつもこのくらいかけてるよ」
「お前、もうやめろ。胃がイカれるぞ」
「これくらいかけないと、辛いと思わないんだよね」
「だとしても、それは異常だ」
唐辛子を振る私の手を、彼が横から強引に掴み取った。
「手、離してよ」
「……」
睨みつけても、掴む力は緩まない。
それどころか、彼の瞳に宿る力がこもる。
「……いつからだ」
「え?」
「いつから、そんなに辛い物食うようになった」
「……雄英に入って、すぐかな」
それと何が関係あるのか。
爆豪君は少し考える素振りをしたかと思えば、直ぐに口を開いた。
「ストレスで辛いもん詰め込んでる自覚、あんのか」
冷水を浴びせられたような気がした。
ストレス……?
そんな、まさか。
だけど、ストレスのせいならば、全て辻褄が合う。
ヒーロー科への羨望。
C組での焦燥感。
胃がキリキリと痛み始めた時期。
そして、辛いものを食べないと心が落ち着かなくなっていた、あの感覚。
「……その顔、自覚あんだな」
力なくコクリと頷いた。
私は辛い物が好きなんじゃなくて、ストレスで辛い物が食べたくなっていたんだ。
その痛みで、心の中の不安を麻痺させていただけなんだ。
「……ストレス、発散させてやろうか」
「爆豪君……?」
聞き返そうとした瞬間、視界が彼の影に覆われた。
強引に唇が塞がれる。
唐辛子のピリピリとした刺激が残っているはずなのに、彼の唇から伝わるものは驚くほど甘く感じた。
身体の力が抜けていく。
「少しは効果あったみてェだな」
顔を離した爆豪君が、意地の悪い笑みを浮かべて私を見下ろす。
だけど、1度味わった快感を、私はさらに欲していた。
「まだ……」
「あ゛あ?」
「まだ、足りない。……もっとちょうだい」
「……へッ。どうなっても知らねェからな」
爆豪君は低く、愉しげにほくそ笑んだ。
