コートの中と外
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放課後になり、私はミチコと揃って部活に向かった。
今日は生憎の雨のため、軽く筋トレをして終わる予定だ。
体育館の周りの屋根のあるスペースで、各々始める。
しとしとと降る雨の音に混じって、体育館からは男子バレーボール部の活気のある声が聞こえてきた。
私は柔軟体操をしつつも、自然と体育館の中へ視線を向ける。
そこには、生き生きとした表情で動いている夜久君の姿があった。
背の高いチームメイトに指示を出し、厳しい練習にも声を上げて応えている。
彼がレシーブの体勢に入る。
低く構えたその姿は、昼間のバスケコートで見た、不器用な動きとはかけ離れていた。
「なーに、ボサッとしてるの?」
私の視線に気が付いたミチコが声を上げる。
「えっと、ちょっと体育館の方を……」
「ああ、今日は男バレが使う日だっけ?どれどれ」
私たちはしばらく、その様子を並んで眺めた。
夜久君は、チームメイトが打ち込んだ強烈なスパイクに対し、迷いなく飛び込み、ボールを正確に弾き上げる。
その姿は、去年の秋に見た試合と同じ、まさにコートの中の守護神だった。
昼間の彼を弄んだ身長の差など、このコートの中では何の意味も持たない。
むしろ、低い体勢から瞬時に地面を蹴る機敏さに変わっている。
「やっぱり男バレ格好良いな〜」
ミチコの言葉に、私は静かに頷いた。
その時だった。
夜久君のチームメイトが放ったスパイクが、ネットのフチに当たって大きく軌道を変え、そのまま開いていた体育館の扉を通り抜け、私たちのいる方へと勢いよく飛んできた。
「わっ!」
ミチコが驚いて声を上げる。
ボールは弾みながら私たちの側で止まった。
私は反射的にかがみ込み、バレーボールを手に取った。
体育館の中からは、誰かがミスを責める声と、夜久君の、
「ドンマイ!」
という声が聞こえる。
私がボールを抱えたまま入り口を振り返ると、息を切らした夜久君が、こちらへ向かって走ってくるところだった。
「ごめん!ボールそっち行ったよな」
夜久君は入り口の段差でピタッと止まり、一瞬、目を見開いた。
そして、私の顔を見て少し口元を緩ませると、すぐにいつもの笑顔になった。
「はい、ボール」
「サンキューな、◯◯さん」
差し出したボールを受け取りながら、夜久君はそう言って笑った。
彼は私の名前を知っていた。
同じクラスなのだから、知っていても不思議ではない。
だけど、突然のことで私は驚いて固まってしまった。
すると、
「おーい夜久!早く戻ってこいよ!」
コートの中から声がかかる。
夜久君は、
「おう!」
と元気な返事をして、くるりと背を向けた。
「じゃあな!」
そう言って、夜久君は再びコートの中へと走り去っていく。
夜久君の後ろ姿を見送りながら、私の心臓はドクドクと大きく脈打っていた。
「あー、私がボール渡したかった!」
後ろからは興奮したミチコの声が聞こえた気がしたけれど、私の頭の中は彼の笑顔のことで一杯だった。
あの笑顔を、私は見たことがある。
それは、あの秋の大会で見た、コート上で輝く“守りの要”の笑顔そのものだった。
やっぱり夜久君はこうであってほしい。
そう思うのは、私のワガママなお願いなのだろうか。
ーーFinーー
今日は生憎の雨のため、軽く筋トレをして終わる予定だ。
体育館の周りの屋根のあるスペースで、各々始める。
しとしとと降る雨の音に混じって、体育館からは男子バレーボール部の活気のある声が聞こえてきた。
私は柔軟体操をしつつも、自然と体育館の中へ視線を向ける。
そこには、生き生きとした表情で動いている夜久君の姿があった。
背の高いチームメイトに指示を出し、厳しい練習にも声を上げて応えている。
彼がレシーブの体勢に入る。
低く構えたその姿は、昼間のバスケコートで見た、不器用な動きとはかけ離れていた。
「なーに、ボサッとしてるの?」
私の視線に気が付いたミチコが声を上げる。
「えっと、ちょっと体育館の方を……」
「ああ、今日は男バレが使う日だっけ?どれどれ」
私たちはしばらく、その様子を並んで眺めた。
夜久君は、チームメイトが打ち込んだ強烈なスパイクに対し、迷いなく飛び込み、ボールを正確に弾き上げる。
その姿は、去年の秋に見た試合と同じ、まさにコートの中の守護神だった。
昼間の彼を弄んだ身長の差など、このコートの中では何の意味も持たない。
むしろ、低い体勢から瞬時に地面を蹴る機敏さに変わっている。
「やっぱり男バレ格好良いな〜」
ミチコの言葉に、私は静かに頷いた。
その時だった。
夜久君のチームメイトが放ったスパイクが、ネットのフチに当たって大きく軌道を変え、そのまま開いていた体育館の扉を通り抜け、私たちのいる方へと勢いよく飛んできた。
「わっ!」
ミチコが驚いて声を上げる。
ボールは弾みながら私たちの側で止まった。
私は反射的にかがみ込み、バレーボールを手に取った。
体育館の中からは、誰かがミスを責める声と、夜久君の、
「ドンマイ!」
という声が聞こえる。
私がボールを抱えたまま入り口を振り返ると、息を切らした夜久君が、こちらへ向かって走ってくるところだった。
「ごめん!ボールそっち行ったよな」
夜久君は入り口の段差でピタッと止まり、一瞬、目を見開いた。
そして、私の顔を見て少し口元を緩ませると、すぐにいつもの笑顔になった。
「はい、ボール」
「サンキューな、◯◯さん」
差し出したボールを受け取りながら、夜久君はそう言って笑った。
彼は私の名前を知っていた。
同じクラスなのだから、知っていても不思議ではない。
だけど、突然のことで私は驚いて固まってしまった。
すると、
「おーい夜久!早く戻ってこいよ!」
コートの中から声がかかる。
夜久君は、
「おう!」
と元気な返事をして、くるりと背を向けた。
「じゃあな!」
そう言って、夜久君は再びコートの中へと走り去っていく。
夜久君の後ろ姿を見送りながら、私の心臓はドクドクと大きく脈打っていた。
「あー、私がボール渡したかった!」
後ろからは興奮したミチコの声が聞こえた気がしたけれど、私の頭の中は彼の笑顔のことで一杯だった。
あの笑顔を、私は見たことがある。
それは、あの秋の大会で見た、コート上で輝く“守りの要”の笑顔そのものだった。
やっぱり夜久君はこうであってほしい。
そう思うのは、私のワガママなお願いなのだろうか。
ーーFinーー
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