コートの中と外
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始業式から数日が経ち、クラスメイトの顔と名前がようやく一致し始めた頃。
休み時間に手洗い場から教室へ戻ると、何やら夜久君の周りが騒がしかった。
背の高い男子生徒が、夜久君とじゃれ合っている。
「夜久〜、新しい筆箱買ったんだ?色合いがシャレてんじゃん」
その男子生徒は、夜久君が机の上に置いていた真新しい筆箱をひょいと手に取った。
「おい、勝手に触るな!」
夜久君は慌てて手を伸ばすけれど、筆箱を持った男子生徒はそれをヒラリとかわす。
「おっと、危ねっ」
男子生徒はそのまま筆箱を頭上に掲げた。
夜久君はムッとした顔で、必死に手を伸ばしてジャンプしたけれど、指先がかすめることもない。
「いい加減にしろ!返せって!」
「ちょっと借りてるだけだって。てか、そんなに必死に飛び跳ねても、届かないのかな〜?」
周りの男子生徒たちも面白がって笑っている。
悔しそうに顔を真っ赤にして、何度も背伸びを繰り返す夜久君。
コートの中では、どんなボールにも食らいつき、絶対に地面に落とさないと信じさせてくれる、頼れる守護神だった。
なのに、コートの外では、ほんの少しの身長差に弄ばれている。
「ほらほら、次こそ届くといいな?」
男子生徒は楽しそうに言いながら、さらに筆箱を高く持ち上げた。
「くそっ!」
夜久君が再び勢いよくジャンプする。
今度は、先程までとは違う跳躍力。
その姿は、まるでコートの中にいる時のような目つきだった。
その瞬間、周りの笑いが止まったように感じた。
だけど、その必死な努力も、男子生徒の余裕の笑みに打ち消される。
「残念、届きませんでした〜」
「あ゛ー!!」
イタズラを通り越してイジメのように思えるそのやり取りを、見ていられなかった。
助けたい。
夜久君の悔しそうな顔を見るのは嫌だ。
だけど、夜久君とさほど変わらない背丈の私が出ていったところで、筆箱に届くはずがない。
むしろ、場の空気が悪くなるだけだ。
そう思うと、足どころか、やめるよう仲裁する声すら出せなかった。
その時、予鈴が鳴り響いた。
「チッ、時間切れかよ」
男子生徒はそう言いながら、筆箱をひょいと夜久君の机の上に、ぞんざいに放り投げた。
「じゃあな、夜久。また遊ぼうぜ」
そう言って、彼は軽薄な笑みを浮かべながら自席に戻っていく。
夜久君は、自分の席に置かれた筆箱を、ぐっと掴んだ。
その表情は、まだ怒りと悔しさに歪んでいる。
私は予鈴が鳴って事態が収束したことに安堵しながらも、彼を助けられなかった自分に、強い罪悪感を覚えた。
休み時間に手洗い場から教室へ戻ると、何やら夜久君の周りが騒がしかった。
背の高い男子生徒が、夜久君とじゃれ合っている。
「夜久〜、新しい筆箱買ったんだ?色合いがシャレてんじゃん」
その男子生徒は、夜久君が机の上に置いていた真新しい筆箱をひょいと手に取った。
「おい、勝手に触るな!」
夜久君は慌てて手を伸ばすけれど、筆箱を持った男子生徒はそれをヒラリとかわす。
「おっと、危ねっ」
男子生徒はそのまま筆箱を頭上に掲げた。
夜久君はムッとした顔で、必死に手を伸ばしてジャンプしたけれど、指先がかすめることもない。
「いい加減にしろ!返せって!」
「ちょっと借りてるだけだって。てか、そんなに必死に飛び跳ねても、届かないのかな〜?」
周りの男子生徒たちも面白がって笑っている。
悔しそうに顔を真っ赤にして、何度も背伸びを繰り返す夜久君。
コートの中では、どんなボールにも食らいつき、絶対に地面に落とさないと信じさせてくれる、頼れる守護神だった。
なのに、コートの外では、ほんの少しの身長差に弄ばれている。
「ほらほら、次こそ届くといいな?」
男子生徒は楽しそうに言いながら、さらに筆箱を高く持ち上げた。
「くそっ!」
夜久君が再び勢いよくジャンプする。
今度は、先程までとは違う跳躍力。
その姿は、まるでコートの中にいる時のような目つきだった。
その瞬間、周りの笑いが止まったように感じた。
だけど、その必死な努力も、男子生徒の余裕の笑みに打ち消される。
「残念、届きませんでした〜」
「あ゛ー!!」
イタズラを通り越してイジメのように思えるそのやり取りを、見ていられなかった。
助けたい。
夜久君の悔しそうな顔を見るのは嫌だ。
だけど、夜久君とさほど変わらない背丈の私が出ていったところで、筆箱に届くはずがない。
むしろ、場の空気が悪くなるだけだ。
そう思うと、足どころか、やめるよう仲裁する声すら出せなかった。
その時、予鈴が鳴り響いた。
「チッ、時間切れかよ」
男子生徒はそう言いながら、筆箱をひょいと夜久君の机の上に、ぞんざいに放り投げた。
「じゃあな、夜久。また遊ぼうぜ」
そう言って、彼は軽薄な笑みを浮かべながら自席に戻っていく。
夜久君は、自分の席に置かれた筆箱を、ぐっと掴んだ。
その表情は、まだ怒りと悔しさに歪んでいる。
私は予鈴が鳴って事態が収束したことに安堵しながらも、彼を助けられなかった自分に、強い罪悪感を覚えた。
