コートの中と外
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〜コートの中と外〜
高校2年の、まだ少し暑さが残る秋口だった。
一度だけ、友達のミチコに強引に誘われて男子バレー部の大会へ足を運んだことがある。
体育館の空気は外の涼しさとはかけ離れ、異様なまでの熱気で暑くさえも感じた。
汗と、微かに漂う湿布の匂い。
その空気感に、ただでさえ低い私のテンションは更に下がった。
そんな私とは反対に、ミチコは楽しそうにコートを指差した。
「ほら、あそこで音駒の試合してるよ!……あれ?3年生がいない」
「そうなんだ」
どうやら、うちの高校は3年生が引退したばかりの新チームらしい。
つまり、コートに立っているのは1、2年生。
だけど、同じ学年なのにも関わらず、見知った顔はほとんどなく、私は彼らの多くの名前すら知らないまま過ごしていた。
だって、中学と違って高校は生徒数が多くなる上、2年生から文理選択をしなければならないため、関わる生徒に制限がかかるから。
名前を知らない生徒なんてザラだ。
試合の流れをぼんやりと目で追っていると、ふと、ある一点に視線が留まった。
「ねぇ、なんで彼だけユニフォーム違うの?」
応援に熱を入れているミチコに、素朴な疑問を投げかけた。
他は皆、赤を基調としたユニフォームなのに、1人だけ目立つ白色を着ている選手がいる。
ミチコは得意げに顔を上げ、私の視線の先にいる小さな選手を指さした。
「夜久衛輔君ね。私たちと同じ2年生だよ。夜久君は、リベロっていうポジションで、頻繁にコートの出入りを繰り返すから、目立つようにユニフォームの色が違うんだって」
「へぇ〜」
質問をしておいて、私はいかにもやる気のない相槌をした。
バレーボールという競技自体に、私の中に熱い想いは全く湧かなかったから。
ミチコが目を輝かせているのとは対照的に、私はただ座っているだけ。
それでも、確かに試合を見ていると、その姿は格好良いと思った。
特に、ミチコがリベロだと教えてくれた、あの選手。
私とさほど変わらない背丈なのに、コートの中では異様なほどの存在感を放っている。
彼の機敏な動きと鋭い反射神経で、地面に落ちるかと思われたボールをいくつも拾い上げ、チームの命綱のように繋いでいた。
「ねぇ、●●今の見た!?あんなの絶対無理だと思ったのに、よく拾ったよね!」
ミチコは興奮したように私の腕を掴んだ。
「そうだね。凄いね」
私は平坦な声で答える。
「えー、それだけ?もっとキャーってならないの?」
ミチコは口を尖らせた。
「うん……まあ、格好良いとは思うけど。でも、私バレーとかあんまりよく分かんないし」
「もう!勿体ないなー。この熱量を共有したいのに!」
「あはは……」
私は小さく笑うしかなかった。
私にとってバレーは、体育の授業でかろうじて触れたことがある程度。
仲良くしているバレー部員がいるワケでも、心から応援したいという感情があるワケでもなく、ミチコとの熱量の差は開く一方だった。
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