頑固ちゃんと不真面目君
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〜頑固ちゃんと不真面目君〜
「サヤカちゃん本当に可愛いね〜」
私の席の隣で、朝から息を吸うように他クラスの女の子を口説いている彼は、矢巾秀君。
彼は可愛い女の子を見かけると、こうやってすぐに声を掛ける。
いわゆる、チャラ男だ。
1つ上の学年にも及川先輩という絶対的なモテ男がいるけれど、矢巾君のそれは少し違う。
なぜなら、矢巾君はどこか背伸びをして、無理をしているように見えるから。
私はといえば、そんな彼のナンパ対象には掠りもしない。
授業中、ふとした瞬間に視線を感じることはあっても、彼が私に声をかけてくることはない。
今も、私はただ、教科書を眺めているフリをしながら、彼が昨日とは違う女の子と弾ませる会話に耳を澄ませるだけ。
「もー秀ったらー!」
「嘘じゃないって!」
「おだてても何も出ないんだからね!」
女の子が顔を赤らめ、嬉しそうにしていると、予鈴が鳴り響いた。
「あ、そろそろ戻らないと」
「うん、またね」
彼女が去っていく背中にひらひらと手を振る矢巾君の横顔を見て、私はたまらず口を開いた。
「ねえ、矢巾君」
「ん、何?◯◯さんから話しかけてくるなんて珍しいね」
矢巾君は意外そうに目を丸くし、椅子をくるりと回転させて私に向き直った。
「矢巾君はもっと真面目になった方がいいよ。昨日も違う子に可愛いって言ってたよね?」
「聞いていたの?◯◯さんのえっち」
矢巾君はわざとらしく両手で自分の胸を隠す仕草をして、茶化すように笑った。
だけど、その瞳の奥は笑っていない。
「……まあ、冗談は置いといて、俺は可愛いと思ったから素直に口にしただけ。そういう◯◯さんこそ、もっと笑った方がいいよ」
彼は不意に身を乗り出し、私の顔を覗き込んできた。
かすかな制汗剤の香りが鼻をくすぐる。
「その方が周りと打ち解けられるし、絶対好かれると思うけどな」
……つまり、今の私は可愛くないし、好かれないと言いたいのだろうか。
胸の奥がチクリと痛む。
私は逃げるように視線を落とし、強がった言葉を口にした。
「私は無理して好かれようとは思わない」
私のことを好きな人とだけ関わっていたいから。
もちろん、そんなのは理想論。
上手いこといかないのは分かっている。
「そっか……。俺は多少無理をしてでも好かれたいけどね。◯◯さんって意外と頑固だよね」
「が、頑固……」
予想外の指摘に、言葉に詰まる。
自分のことを素直だとは思っていなかったけれど、彼のような不真面目な人間に断定されると、否定できない悔しさが込み上げてきた。
そのとき、本鈴が鳴り響き、前の扉から先生が入ってきた。
「おーい、席に着けー」
「ほらほら、授業始まるよ。頑固ちゃん」
「……っ!」
矢巾君は軽やかに前を向き、何事もなかったかのようにノートを広げる。
恥ずかしさで赤くなった頬を隠すように、私も勢いよく前を向いた。
今日のところは、このくらいにしてあげる……。
そんな謎の対抗心を剥き出しにして、授業に集中した。
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