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ーーおまけ(白布side)ーー
今から2年前のことだ。
高校受験を目前に控え、俺は毎日図書館にこもっていた。
放課後の静かな図書館で勉強を終えるのが、当時の日課だった。
志望校は白鳥沢。
付属中から内部進学する生徒がいる中で、外部から入学するには、それ相応の努力が必要だった。
そんなある日。
いつも通り参考書を鞄にしまい、図書館を出た瞬間、俺は思わず立ち止まった。
信じられないほどの土砂降り。
大粒の雨が地面を叩きつける。
天気予報は、確かに晴れだった。
だから当然、傘など持っていない。
両親は仕事で帰りが遅い。
連絡してもすぐにどうこうなるわけではないし、近くのコンビニまで行ったとしても、その短い距離を行く間にずぶ濡れになるのは回避できそうになかった。
この大事な時期に風邪なんか引いたら、それこそ致命的だ。
途方に暮れて、図書館の軒先から激しい雨を眺めていると、1人の女子生徒に声をかけられた。
「ねえ、キミ」
「はい……?」
振り返ると、そこにいたのは、俺がこれから受験しようとしている白鳥沢学園高校の中等部の制服を着た女子生徒だった。
「もしかして、傘ないの?」
「え、あ、……まあ、そうだけど」
素っ気ない返事になったのは、急に話しかけられたことへの戸惑いのせいだ。
彼女の手には、1本の傘が握られていた。
この状況で話しかけてきたということは、もしかして途中まで相合傘で入れてくれるつもりなのか。
そう思ったのだが、彼女は俺の予想とは違う行動に出た。
「良かったらこの傘使って」
彼女は、自分が持っている傘を丸々1本、俺に差し出してきたのだ。
「え、そしたらアンタは?」
思わず詰問するように尋ねた。
まさか、親の迎えでも呼んでいるのだろうか。
「私は折り畳み傘があるから」
そう言って、彼女は自分の鞄から、ごく小さな、可愛らしい折り畳み傘を取り出した。
どうして2本も傘を持っているのか。
そんなことよりも、俺が大きい方を使うわけにはいかない。
「それなら俺がそっちを使う」
折り畳み傘の方を指差しながらそう提案したが、彼女は首を横に振った。
「いいから、いいから」
半ば無理やり押し付けられる形で、俺は彼女から水玉模様の傘を受け取った。
男が使うには少し可愛すぎるデザインだが、この際、そんなことは言っていられない。
「じゃあ……ありがたく使わせてもらう」
「明日もここで勉強しているよね?」
「ああ」
「私も。だから、傘はそのときに返してくれればいいよ」
彼女は、迷いのない、穏やかな笑顔を浮かべた。
「分かった」
「それじゃあ、また明日ね」
小さな折り畳み傘を差して、彼女は雨の中を走り去っていった。
その姿はすぐに雨の向こうに霞んでしまう。
「そう言えば名前……」
聞き忘れた。
だけど、明日、会った時に聞けばいいか。
借りた傘を差して、俺は濡れることなく、無事に帰路へとついた。
ーーーー
翌日。
傘を返すために図書館へ行くと、約束通り彼女がいた。
名前は◯◯●●。
俺と同じ中学3年生だった。
彼女がなぜあのとき、予報が晴れにもかかわらず傘を2本も持っていたのか。
それは、彼女の特殊な体質によるものだった。
「私、低気圧が来ると頭痛が起こるの。だから、昨日みたいに頭痛がひどい日イコール雨が降るサインなの」
そんなことがあり得るのか、信じ難かった。
実際、そのおかげであのとき俺は濡れずに済んだワケだが、同時に、頭痛に耐える●●の姿は、見るに堪えないものだった。
便利なんてものではない。
こんな体質に悩まされずに、彼女が過ごせるようになってほしいと、強く思った。
そのためにも。
「医者、目指すか……」
俺の将来の夢は、その瞬間に決まった。
今から2年前のことだ。
高校受験を目前に控え、俺は毎日図書館にこもっていた。
放課後の静かな図書館で勉強を終えるのが、当時の日課だった。
志望校は白鳥沢。
付属中から内部進学する生徒がいる中で、外部から入学するには、それ相応の努力が必要だった。
そんなある日。
いつも通り参考書を鞄にしまい、図書館を出た瞬間、俺は思わず立ち止まった。
信じられないほどの土砂降り。
大粒の雨が地面を叩きつける。
天気予報は、確かに晴れだった。
だから当然、傘など持っていない。
両親は仕事で帰りが遅い。
連絡してもすぐにどうこうなるわけではないし、近くのコンビニまで行ったとしても、その短い距離を行く間にずぶ濡れになるのは回避できそうになかった。
この大事な時期に風邪なんか引いたら、それこそ致命的だ。
途方に暮れて、図書館の軒先から激しい雨を眺めていると、1人の女子生徒に声をかけられた。
「ねえ、キミ」
「はい……?」
振り返ると、そこにいたのは、俺がこれから受験しようとしている白鳥沢学園高校の中等部の制服を着た女子生徒だった。
「もしかして、傘ないの?」
「え、あ、……まあ、そうだけど」
素っ気ない返事になったのは、急に話しかけられたことへの戸惑いのせいだ。
彼女の手には、1本の傘が握られていた。
この状況で話しかけてきたということは、もしかして途中まで相合傘で入れてくれるつもりなのか。
そう思ったのだが、彼女は俺の予想とは違う行動に出た。
「良かったらこの傘使って」
彼女は、自分が持っている傘を丸々1本、俺に差し出してきたのだ。
「え、そしたらアンタは?」
思わず詰問するように尋ねた。
まさか、親の迎えでも呼んでいるのだろうか。
「私は折り畳み傘があるから」
そう言って、彼女は自分の鞄から、ごく小さな、可愛らしい折り畳み傘を取り出した。
どうして2本も傘を持っているのか。
そんなことよりも、俺が大きい方を使うわけにはいかない。
「それなら俺がそっちを使う」
折り畳み傘の方を指差しながらそう提案したが、彼女は首を横に振った。
「いいから、いいから」
半ば無理やり押し付けられる形で、俺は彼女から水玉模様の傘を受け取った。
男が使うには少し可愛すぎるデザインだが、この際、そんなことは言っていられない。
「じゃあ……ありがたく使わせてもらう」
「明日もここで勉強しているよね?」
「ああ」
「私も。だから、傘はそのときに返してくれればいいよ」
彼女は、迷いのない、穏やかな笑顔を浮かべた。
「分かった」
「それじゃあ、また明日ね」
小さな折り畳み傘を差して、彼女は雨の中を走り去っていった。
その姿はすぐに雨の向こうに霞んでしまう。
「そう言えば名前……」
聞き忘れた。
だけど、明日、会った時に聞けばいいか。
借りた傘を差して、俺は濡れることなく、無事に帰路へとついた。
ーーーー
翌日。
傘を返すために図書館へ行くと、約束通り彼女がいた。
名前は◯◯●●。
俺と同じ中学3年生だった。
彼女がなぜあのとき、予報が晴れにもかかわらず傘を2本も持っていたのか。
それは、彼女の特殊な体質によるものだった。
「私、低気圧が来ると頭痛が起こるの。だから、昨日みたいに頭痛がひどい日イコール雨が降るサインなの」
そんなことがあり得るのか、信じ難かった。
実際、そのおかげであのとき俺は濡れずに済んだワケだが、同時に、頭痛に耐える●●の姿は、見るに堪えないものだった。
便利なんてものではない。
こんな体質に悩まされずに、彼女が過ごせるようになってほしいと、強く思った。
そのためにも。
「医者、目指すか……」
俺の将来の夢は、その瞬間に決まった。
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