薬物注意報
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期末テスト期間中の平日、今日は図書館の休館日だった。
だからといって勉強を怠るわけにはいかない。
私は放課後、人影がまばらになった教室に残り、机に参考書を広げていた。
集中力を高めようと深呼吸をするけれど、昨日からの徹夜がたたって、ズキズキとした痛みが襲いかかる。
白布君に飲みすぎるな、って言われたけど……。
私は鞄のポーチから、昨日彼に買ってもらったばかりの60錠入りの鎮痛剤と、ペットボトルの水を取り出した。
そして、薬を手のひらに乗せた、その瞬間、ガラリと教室の引き戸が開いた。
「白布君……」
私は、口に薬を運ぶ直前で動きを止め、バツが悪そうに彼の名前を呼んだ。
よりによって、薬を準備しているこのタイミングで来るとは、本当に運が悪い。
「なんだ、今日は雨でも降るのか?」
彼は私の手元の錠剤を見ると、いつもの確認をするように尋ねた。
薬を見られた以上、誤魔化しようもない。
私は正直に理由を話した。
「ううん、違うよ。ただの寝不足による頭痛」
白布君は一歩踏み出し、私の机の前に立つ。
わずかに眉をひそめた。
「飲みすぎるなって言っただろ」
「うん……」
私は、彼の小言を聞き流すように、素早く薬を口に含み、水を流し込んだ。
これでしばらくは、この苦痛から解放される。
「●●、あまり酷いなら病院行けよ」
「行ったことあるよ」
私は淡々と答えた。
中学の受験期にあまりにも頭痛がひどくて、頭痛外来まで足を運んだのだ。
そこでMRI検査を受け、脳に異常がないことは確認済みだ。
結局は少し強めの痛み止めを処方されて終わった。
セカンドオピニオンは受けていないけれど、どうせどこへ行っても同じ結果に決まっている。
病院で処方される薬の方が効き目はあるけれど、今の私には市販薬で充分効く。
「それで、白布君は何の用で来たの?」
天気の確認なら、彼は大抵朝の登校時に済ませてしまう。
この時間に、わざわざ他クラスの教室に来る用事などあるだろうか。
白布君は、私の問いかけに答える代わりに、どこか不機嫌そうな顔をした。
「用がないと会いに来ちゃ駄目かよ」
「え……っ?」
その予想外の返事に、私は変な声を出してしまった。
彼がそんな、まるで私的な感情を理由にするなんて。
「それともなんだ、俺が●●のこと、本当に歩く天気予報士だとでも思っている、と?」
「違うの?」
だって、よく聞きに来るじゃない。
それが、いつの間にか彼にとってのルーティンになっているものだとばかり思っていた。
「アホか」
ピシャリと一言。
そして、次の瞬間。
「あたっ!」
白布君は、私の額に遠慮のないデコピンをかましてきた。
地味に痛い。
私は、おでこをスリスリと擦った。
そんな私を無視するように、白布君は教室の窓の外を眺めた。
「俺、将来医者になる」
その声は、静かな教室に響いた。
白布君が外部受験で白鳥沢に入学したことは知っている。
成績もトップクラスだろう。
彼の口から出るには、いかにも現実的な夢だった。
だけど、いきなりそんなことを言われても、寝不足になるまで勉強している私への嫌味にしか聞こえない。
成績の良いアナタなら、きっと徹夜もしなくて大丈夫なんだろうね。
「へぇ〜、凄いね」
私は、嫉妬と、痛み止めの効き始めによるわずかなだるさから、投げやりな返事をしてやった。
「なんで他人事なんだよ」
彼は、私から視線を戻し、強く言い返した。
「なんでって言われても……」
白布君の将来の夢が、今の私に何の関係があるというのか。
私が頭にハテナマークを浮かべていると、彼は真っ直ぐに私の瞳を見つめ、告げた。
「俺が医者になったら、お前の頭痛を治してやるよ」
「!?」
突拍子のない、あまりにも真剣すぎる発言に、私は面食らってしまった。
これが、あのクールな白布君の口から出た言葉だなんて。
冗談……だよね?
「あはは、期待せずに応援しているね」
驚きと、どう受け止めていいか分からない感情をごまかすために、私は必死に茶化して笑った。
だけど、白布君は不貞腐れたように、唇を尖らせる。
「期待しろよ」
彼の真剣な眼差しは、それが冗談などではないことを示していた。
そんな言い方をされたら、私だって勘違いしてしまう。
寝不足だとか低気圧だとか、そんな原因は関係なく、私の頭の中は、今、彼の一言でズキズキと痛みだした。
――Fin――
だからといって勉強を怠るわけにはいかない。
私は放課後、人影がまばらになった教室に残り、机に参考書を広げていた。
集中力を高めようと深呼吸をするけれど、昨日からの徹夜がたたって、ズキズキとした痛みが襲いかかる。
白布君に飲みすぎるな、って言われたけど……。
私は鞄のポーチから、昨日彼に買ってもらったばかりの60錠入りの鎮痛剤と、ペットボトルの水を取り出した。
そして、薬を手のひらに乗せた、その瞬間、ガラリと教室の引き戸が開いた。
「白布君……」
私は、口に薬を運ぶ直前で動きを止め、バツが悪そうに彼の名前を呼んだ。
よりによって、薬を準備しているこのタイミングで来るとは、本当に運が悪い。
「なんだ、今日は雨でも降るのか?」
彼は私の手元の錠剤を見ると、いつもの確認をするように尋ねた。
薬を見られた以上、誤魔化しようもない。
私は正直に理由を話した。
「ううん、違うよ。ただの寝不足による頭痛」
白布君は一歩踏み出し、私の机の前に立つ。
わずかに眉をひそめた。
「飲みすぎるなって言っただろ」
「うん……」
私は、彼の小言を聞き流すように、素早く薬を口に含み、水を流し込んだ。
これでしばらくは、この苦痛から解放される。
「●●、あまり酷いなら病院行けよ」
「行ったことあるよ」
私は淡々と答えた。
中学の受験期にあまりにも頭痛がひどくて、頭痛外来まで足を運んだのだ。
そこでMRI検査を受け、脳に異常がないことは確認済みだ。
結局は少し強めの痛み止めを処方されて終わった。
セカンドオピニオンは受けていないけれど、どうせどこへ行っても同じ結果に決まっている。
病院で処方される薬の方が効き目はあるけれど、今の私には市販薬で充分効く。
「それで、白布君は何の用で来たの?」
天気の確認なら、彼は大抵朝の登校時に済ませてしまう。
この時間に、わざわざ他クラスの教室に来る用事などあるだろうか。
白布君は、私の問いかけに答える代わりに、どこか不機嫌そうな顔をした。
「用がないと会いに来ちゃ駄目かよ」
「え……っ?」
その予想外の返事に、私は変な声を出してしまった。
彼がそんな、まるで私的な感情を理由にするなんて。
「それともなんだ、俺が●●のこと、本当に歩く天気予報士だとでも思っている、と?」
「違うの?」
だって、よく聞きに来るじゃない。
それが、いつの間にか彼にとってのルーティンになっているものだとばかり思っていた。
「アホか」
ピシャリと一言。
そして、次の瞬間。
「あたっ!」
白布君は、私の額に遠慮のないデコピンをかましてきた。
地味に痛い。
私は、おでこをスリスリと擦った。
そんな私を無視するように、白布君は教室の窓の外を眺めた。
「俺、将来医者になる」
その声は、静かな教室に響いた。
白布君が外部受験で白鳥沢に入学したことは知っている。
成績もトップクラスだろう。
彼の口から出るには、いかにも現実的な夢だった。
だけど、いきなりそんなことを言われても、寝不足になるまで勉強している私への嫌味にしか聞こえない。
成績の良いアナタなら、きっと徹夜もしなくて大丈夫なんだろうね。
「へぇ〜、凄いね」
私は、嫉妬と、痛み止めの効き始めによるわずかなだるさから、投げやりな返事をしてやった。
「なんで他人事なんだよ」
彼は、私から視線を戻し、強く言い返した。
「なんでって言われても……」
白布君の将来の夢が、今の私に何の関係があるというのか。
私が頭にハテナマークを浮かべていると、彼は真っ直ぐに私の瞳を見つめ、告げた。
「俺が医者になったら、お前の頭痛を治してやるよ」
「!?」
突拍子のない、あまりにも真剣すぎる発言に、私は面食らってしまった。
これが、あのクールな白布君の口から出た言葉だなんて。
冗談……だよね?
「あはは、期待せずに応援しているね」
驚きと、どう受け止めていいか分からない感情をごまかすために、私は必死に茶化して笑った。
だけど、白布君は不貞腐れたように、唇を尖らせる。
「期待しろよ」
彼の真剣な眼差しは、それが冗談などではないことを示していた。
そんな言い方をされたら、私だって勘違いしてしまう。
寝不足だとか低気圧だとか、そんな原因は関係なく、私の頭の中は、今、彼の一言でズキズキと痛みだした。
――Fin――
