ハートをください
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〜ハートをください〜
「見てよ、これ。彼氏とのメッセージなんだけど、可愛くない?」
大学の食堂。
レナが身を乗り出してスマホを差し出してきた。
その画面には、ピンク色の記号がこれでもかと並んでいる。
“大好きだよ♡”
“早く会いたいな♡”
文末の句読点全てをハートに置き換えたようなメッセージ。
あまりの甘ったるさに、私は思わず目を細めた。
「……す、凄いね」
「でしょ?会うと無口なクセに、画面の中だと別人なんだから。ねえ、●●の彼氏さんはどうなの?ほら、あのクールな医学生君」
私は苦笑いして、手元のオムライスをスプーンで突いた。
「あー……。うちは、そこまでかな……」
賢二郎は、お世辞にもマメとは言えない。
脳裏に浮かぶのは、直近のトーク画面だ。
“了解”
“分かった”
最小限の文字数で構成された彼のメッセージに、可愛げのある記号が紛れ込む余地などなかった。
勉強が忙しいのは理解しているつもりだ。
だけど、たまにはビックリマークの1つでも欲しくなる。
そんな私の、やりきれない気持ちを知る由もなく、レナはスマホを握りしめて声を弾ませた。
「あ、また追いメッセージ来た!本当、構ってちゃんなんだから」
幸せそうに頬を緩める彼女を眩しく思いながら、私は冷め始めたオムライスを一口、無理やり口に運んだ。
……。
…………。
その日の夜。
静まり返った自室で、レポートを片付けていた。
ふと、机の上に置いたスマホを横目で見ると、賢二郎からのメッセージを受信していることに気が付いた。
「なんだろう……」
ペンを置き、逸る気持ちを抑え、私はスマホをスライドさせた。
だけど、表示されたのは期待していたものとは程遠い、簡素な内容だった。
“明日、忘れんなよ”
指先が止まる。
「……それだけ?」
思わず漏れた独り言が、虚しく部屋に響いた。
忘れるはずがない。
明日は、久しぶりに賢二郎と会う。
それなのに、彼からは「楽しみにしている」の言葉もなければ、ハートマークの記号もない。
賢二郎はきっと、事務的な感覚でこれを打ったのだろう。
レナの彼氏のような画面の中の別人を期待しているワケじゃないけれど、寂しさを覚えた。
“忘れないし”
結局、賢二郎につられて、素っ気ない文字を返信し、私はスマホの画面を伏せた。
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