我慢vs我慢
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜我慢vs我慢〜
ある日曜日の午後。
私はベッドの端に座り、膝の上で広げられた雑誌を熱心に読んでいる彼の横顔を、じっと見つめていた。
付き合って3ヶ月。
彼氏の賢二郎は、言葉少なで物静かな人だ。
今日も前髪が綺麗に揃えられている。
私は、そんな彼の雑誌を覗き込むようにして尋ねた。
「ねえ、何読んでるの?」
賢二郎は視線を雑誌から上げず、静かに答えた。
「月間バリボー」
「牛島選手、載ってた?」
彼はペラリと次のページをめくりながら、淡々と応じた。
「今のところはまだ」
牛島選手。
私が賢二郎と付き合うきっかけになった人物。
ーーーー
遡ること数ヶ月前。
友達が主催する合コンに誘われた。
恋人を作るつもりはなかったけれど「医大生を集めたから」と言われたら、参加したくもなる。
医大生に対して、いかにも勉強しかしてこなかった、そんなイメージを抱いていたけれど、実際はそんなことはなく、みんな清潔感に溢れていた。
おまけにお話も面白い。
だけど、その中に1人だけつまらなさそうにしている男性がいた。
それが白布賢二郎。
1人くらいは人見知りがいてもおかしくない。
そう思い、私は自分のグラスを手に、彼の隣に座った。
「お酒苦手なの?」
彼のテーブルの前には、炭酸の切れたビールがいつまでも置かれている。
彼は静かに口を開いた。
「お酒と言うより、この場が苦手」
「そうなんだ」
そのたった一言で、彼が単なる人見知りではないことが分かった。
言葉にどもりはない。
視線は落ち着いている。
彼は、この賑やかな社交の場に、ただ乗り気ではないのだ。
せっかく参加費を払って合コンに来ているのだから、少しでも楽しめばいいのに。
第一印象は“もったいない人”だった。
少しでも楽しい時間を過ごしてもらいたい。
その思いから、私は一方的に、たくさんの話題を彼に振り続けることにした。
地元、好きな食べ物、最近ハマっていること……。
彼は訊かれたことには律儀に答えてくれたけれど、決して私に質問を返すことはなかった。
どうすれば、彼の興味を引けるだろう。
そんなとき、隣の席からバレーボールの話が聞こえてきた。
バレーボールはやったことないけれど、最近気になっている選手はいる。
次はこの話題で行ってみよう。
「ねえ、白布君ってバレー好き?私、最近ハマったんだけど、アドラーズの牛島選手が好きでね」
「牛島さん……」
私が牛島選手の名前を出した瞬間、賢二郎は微かに反応を見せた。
「そうそう!白布君、牛島選手のこと知ってる?」
「知ってるも何も────」
そこから、怒涛の牛島選手の解説が始まった。
基本的な情報はもちろん、私が知らないコアなエピソード、プレースタイルへの考察。
牛島選手への尊敬が溢れ出していた。
周りにいた男性陣が、驚いたように私たちを見た。
「こんなに饒舌に話す白布は珍しいかも」
なんて、言われるほどに。
彼は、牛島選手のことを話している時だけ、生き生きとしていた。
私は、その熱に触れたいと思った。
彼の、普段見せない顔をもっと知りたい。
「今度アドラーズの試合を見に行かない?」
そう誘うと、賢二郎は、驚くほどあっさりと頷いた。
「行く」
直感的にチャンスだと感じた。
「じゃ、じゃあ、連絡先も……」
私の声は、少し上ずっていた。
そんなことも気にせず、彼はポケットからスマホを取り出す。
「うん、いいよ」
そして、これを機にアタックし続けて3ヶ月前に賢二郎から告白をしてくれて、めでたく付き合うことになった。
1/4ページ
