熟年夫婦初心者
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松川と帰る約束もなくなり、私は肩を落としながら帰り支度の続きを始めた。
すると、机の奥から1枚の白い封筒が出てきた。
「なにこれ……」
昨日まではなかったはずだし、もちろん自分で入れた覚えもない。
入れ間違えかとも思ったけれど、封筒を裏返すと、そこには見覚えのない丁寧で綺麗な字で、私の名前が記されていた。
「えぇ……」
その形式的な佇まいで、中身の予想はついた。
無視して帰ろうかとも思ったけれど、わずかな良心が痛む。
私は渋々、封を切り、中身に目を通した。
手紙の内容は、想像通りの呼び出しだった。
送り主は、同じ3年生の……確かバスケ部の人だ。
その程度しか知らないのに、どうして私なんだろう……。
自惚れるつもりはないけれど、私と松川は、学年中の誰もが知る熟年夫婦だと認知されている。
それを知っていてなお、彼はこの手紙を忍ばせたのだろうか。
本当は行きたくない。
連絡先も知らないから、会うしかないけれど、断るためだけに足を運ぶのは、億劫だった。
人伝いで断ろうものなら、彼を振ることを他人に知られてしまう。
それはさすがに可哀想だった。
……仕方がない。
私は重い荷物を肩にかけ、体育館裏へと向かった。
……。
…………。
人気のない体育館裏。
そこには、手紙の送り主が落ち着かない様子で立っていた。
「ごめんね、お待たせ」
声をかけると、彼は驚いたように振り返った。
「あ、いや、来てくれてありがとう……」
バスケ部なだけあって、彼は見上げるほど背が高かった。
だけど、松川の方が高いな、とこんなときでも彼のことが頭に過る。
「話って何?」
情緒も何もなく、私はさっさと用件を尋ねた。
だって、こんなところ誰にも見られたくないから。
「えっ……ぁ」
私の淡白な反応に、彼は面食らったように言葉を詰まらせた。
大きな体格に似合わず、指先をもじもじと動かしている。
その余裕のなさが、どこまでも松川とは対照的だった。
「◯◯さんって、松川と別れたよね?」
不意に投げられた言葉に、私は息をのんだ。
「え……?」
「あれ、違うの?ここ最近一緒にいるところ見かけないし、バレー部のオフの日だって一緒に帰らなくなったよね」
頭を鈍器で殴られたような痛みが走った。
そんなところまで、他人に見られていたなんて。
確かに、最近どころか、結構前から一緒に帰らなくなった。
だけど、それはたまたま都合が合わなかっただけで、決して別れたワケではない。
休み時間には会っている。
今日だって教科書を貸して、ボタンだって縫ってあげた。
あれ……?
私、ただの都合のいい女になってない?
脳裏をよぎった疑念を振り払うように、私は声を絞り出した。
「別れてないよ」
「でも、もう別れそうなんだよね?傍から見てても、楽しくなさそうだし」
追い打ちをかけるような言葉。
私は、そんなに不幸そうな顔をして彼の隣にいたのだろうか。
「だから、別れたら俺のところに来てよ。俺、ずっと前から◯◯さんのことが好きで見てたんだ」
「喧嘩しているワケでも、別れる予定もないから、期待には応えられない」
私の拒絶を聞いた瞬間、彼の表情は一気に曇った。
泣きそうな、情けない顔。
だけど、きっと私の方が悲しい顔をしている。
「時間、取らせて悪い。……今日のことは忘れて」
彼はそう言って、寂しげな背中を夕焼けの中に消していった。
すると、机の奥から1枚の白い封筒が出てきた。
「なにこれ……」
昨日まではなかったはずだし、もちろん自分で入れた覚えもない。
入れ間違えかとも思ったけれど、封筒を裏返すと、そこには見覚えのない丁寧で綺麗な字で、私の名前が記されていた。
「えぇ……」
その形式的な佇まいで、中身の予想はついた。
無視して帰ろうかとも思ったけれど、わずかな良心が痛む。
私は渋々、封を切り、中身に目を通した。
手紙の内容は、想像通りの呼び出しだった。
送り主は、同じ3年生の……確かバスケ部の人だ。
その程度しか知らないのに、どうして私なんだろう……。
自惚れるつもりはないけれど、私と松川は、学年中の誰もが知る熟年夫婦だと認知されている。
それを知っていてなお、彼はこの手紙を忍ばせたのだろうか。
本当は行きたくない。
連絡先も知らないから、会うしかないけれど、断るためだけに足を運ぶのは、億劫だった。
人伝いで断ろうものなら、彼を振ることを他人に知られてしまう。
それはさすがに可哀想だった。
……仕方がない。
私は重い荷物を肩にかけ、体育館裏へと向かった。
……。
…………。
人気のない体育館裏。
そこには、手紙の送り主が落ち着かない様子で立っていた。
「ごめんね、お待たせ」
声をかけると、彼は驚いたように振り返った。
「あ、いや、来てくれてありがとう……」
バスケ部なだけあって、彼は見上げるほど背が高かった。
だけど、松川の方が高いな、とこんなときでも彼のことが頭に過る。
「話って何?」
情緒も何もなく、私はさっさと用件を尋ねた。
だって、こんなところ誰にも見られたくないから。
「えっ……ぁ」
私の淡白な反応に、彼は面食らったように言葉を詰まらせた。
大きな体格に似合わず、指先をもじもじと動かしている。
その余裕のなさが、どこまでも松川とは対照的だった。
「◯◯さんって、松川と別れたよね?」
不意に投げられた言葉に、私は息をのんだ。
「え……?」
「あれ、違うの?ここ最近一緒にいるところ見かけないし、バレー部のオフの日だって一緒に帰らなくなったよね」
頭を鈍器で殴られたような痛みが走った。
そんなところまで、他人に見られていたなんて。
確かに、最近どころか、結構前から一緒に帰らなくなった。
だけど、それはたまたま都合が合わなかっただけで、決して別れたワケではない。
休み時間には会っている。
今日だって教科書を貸して、ボタンだって縫ってあげた。
あれ……?
私、ただの都合のいい女になってない?
脳裏をよぎった疑念を振り払うように、私は声を絞り出した。
「別れてないよ」
「でも、もう別れそうなんだよね?傍から見てても、楽しくなさそうだし」
追い打ちをかけるような言葉。
私は、そんなに不幸そうな顔をして彼の隣にいたのだろうか。
「だから、別れたら俺のところに来てよ。俺、ずっと前から◯◯さんのことが好きで見てたんだ」
「喧嘩しているワケでも、別れる予定もないから、期待には応えられない」
私の拒絶を聞いた瞬間、彼の表情は一気に曇った。
泣きそうな、情けない顔。
だけど、きっと私の方が悲しい顔をしている。
「時間、取らせて悪い。……今日のことは忘れて」
彼はそう言って、寂しげな背中を夕焼けの中に消していった。
