誰が為の運転
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カツヤを置き去りにさせて数日。
深夜に呼び出されるのとがなくなった私は、穏やかな日常を過ごしていた。
彼の連絡先は消した。
ただ、今でも、呼び出されるのではないか、と言う恐怖は消えない。
着信があるたびにビクっとなる。
だから、スマホを置いて出かけてみることにした。
休みの日に、自分のために車を走らせる。
行き先なく、ただフラフラと。
ときたま気になるお店があれば立ち寄って、ウインドウショッピングを楽しんだ。
時間も忘れて過ごしていると、お腹が空いていることに気が付いた。
時計を確認すると、時刻はおやつ時。
私は手頃な喫茶店に入ることにした。
店内はとても落ち着いた雰囲気で、適度なお客さんで賑わっていた。
「いらっしゃいませ〜。こちらの席へどうぞ」
案内されたのは、風がよく通るテラス席。
そこで、簡単なサンドイッチと、コーヒーを注文した。
待っている間、なんとなく店内を眺めていると、1人の男性がテラス席へと案内されていた。
背が高く、黒髪はくせ毛、アヒル口のような尖った口元。
その容姿が高校の同級生に似ていて、私はついつい見つめてしまう。
すると、あまりに見つめすぎたせいか、男性と目が合ってしまった。
気まずさから急いで目を逸らそうとしたら、男性に話しかけられた。
「◯◯?」
「……え?」
「俺だよ、松川」
「松川……!?」
まさか、似ていると思っていた本人だったとは。
松川は店員さんに断り、私の向かいの席に座った。
「久しぶりだな」
「本当にね、まさかこんなところで会うなんて。松川、元気だった?」
届いたコーヒーを一口飲んで、私は向かいに座る松川に微笑みかけた。
「まあ、なんとかやってるよ。◯◯は……元気なさそうだけど、大丈夫か?」
松川は昔からよく人のことを観察していた。
やっぱり彼には誤魔化せないか。
「うん……まぁ、色々あってね」
「俺でよければ聞くぞ?……あ、それか、まずは俺の話でもするか」
曖昧に答える私に、松川は自分の話をし始めた。
「俺さ、葬儀会社に就いてるんだけど、色んな家族の最期に立ち会っていると、人生ってあっという間なんだって思い知らされるんだ」
私は相槌をしながら松川の話を真剣に聞いた。
「最近では霊柩車を運転することも多くてね。最初は緊張したけど、今ではこの最後の道を穏やかに運んであげたい気持ちで運転してる。だから、ブレーキの1つからカーブの1つまで全部気を遣っている」
その口ぶりから、仕事への熱意を感じる。
「そんな仕事だから、今日みたいにカフェで息抜きをするのが日課になっている、ってワケなんだ」
松川は話しが終わるとコーヒーを一口含んだ。
話の中に出てきた“運転”と言う言葉が、私の心に残った。
「松川は、運転好き?」
「ああ、好きだよ。仕事のときの緊張感を伴う運転も、プライベートで気楽に運転するのも」
彼の真っ直ぐな答えに、私は少しだけ羨ましくなった。
「そっか……。私ね、人のためにする運転が嫌いになっちゃったんだ」
そう切り出した途端、今まで我慢していた感情が溢れ出した。
私は松川に、カツヤとのことを話し始めた。
深夜の呼び出しから、一方的な運転の強要。
挙げ句の果てには罵倒されたこと。
そして、ついに堪忍袋の緒が切れて、彼を駅前で置き去りにしてきたことまで。
不安を隠すように、私はカップを両手で包み込んだ。
「あーあ、私って男を見る目がないのかなー」
話し終えた後、ふうっと大きく息を吐き出した。
そして、彼はいつもの優しい笑顔で言った。
「俺はそんなことないと思うけど」
「え?」
「ほら、目の前に良い男がいるだろ?」
冗談めかして笑う松川に、私は少しだけ救われた気持ちになった。
「ふふふ、なにそれ。でも、ありがとう。松川に話せて、少し楽になった」
「それはよかった。もし、またなんかあったら、俺でよければいつでも話聞くからさ。なんだったら今度ドライブしようよ」
松川が運転する車の助手席か……。
きっと、丁寧で優しい運転なんだろう。
「悪くないかもね」
「じゃあ、決まりな」
彼はそう言って、カップを包む私の手を、上から更に包み込むように握った。
その温かい手の感触に、私は少しだけ泣きそうになった。
ーーFinーー
深夜に呼び出されるのとがなくなった私は、穏やかな日常を過ごしていた。
彼の連絡先は消した。
ただ、今でも、呼び出されるのではないか、と言う恐怖は消えない。
着信があるたびにビクっとなる。
だから、スマホを置いて出かけてみることにした。
休みの日に、自分のために車を走らせる。
行き先なく、ただフラフラと。
ときたま気になるお店があれば立ち寄って、ウインドウショッピングを楽しんだ。
時間も忘れて過ごしていると、お腹が空いていることに気が付いた。
時計を確認すると、時刻はおやつ時。
私は手頃な喫茶店に入ることにした。
店内はとても落ち着いた雰囲気で、適度なお客さんで賑わっていた。
「いらっしゃいませ〜。こちらの席へどうぞ」
案内されたのは、風がよく通るテラス席。
そこで、簡単なサンドイッチと、コーヒーを注文した。
待っている間、なんとなく店内を眺めていると、1人の男性がテラス席へと案内されていた。
背が高く、黒髪はくせ毛、アヒル口のような尖った口元。
その容姿が高校の同級生に似ていて、私はついつい見つめてしまう。
すると、あまりに見つめすぎたせいか、男性と目が合ってしまった。
気まずさから急いで目を逸らそうとしたら、男性に話しかけられた。
「◯◯?」
「……え?」
「俺だよ、松川」
「松川……!?」
まさか、似ていると思っていた本人だったとは。
松川は店員さんに断り、私の向かいの席に座った。
「久しぶりだな」
「本当にね、まさかこんなところで会うなんて。松川、元気だった?」
届いたコーヒーを一口飲んで、私は向かいに座る松川に微笑みかけた。
「まあ、なんとかやってるよ。◯◯は……元気なさそうだけど、大丈夫か?」
松川は昔からよく人のことを観察していた。
やっぱり彼には誤魔化せないか。
「うん……まぁ、色々あってね」
「俺でよければ聞くぞ?……あ、それか、まずは俺の話でもするか」
曖昧に答える私に、松川は自分の話をし始めた。
「俺さ、葬儀会社に就いてるんだけど、色んな家族の最期に立ち会っていると、人生ってあっという間なんだって思い知らされるんだ」
私は相槌をしながら松川の話を真剣に聞いた。
「最近では霊柩車を運転することも多くてね。最初は緊張したけど、今ではこの最後の道を穏やかに運んであげたい気持ちで運転してる。だから、ブレーキの1つからカーブの1つまで全部気を遣っている」
その口ぶりから、仕事への熱意を感じる。
「そんな仕事だから、今日みたいにカフェで息抜きをするのが日課になっている、ってワケなんだ」
松川は話しが終わるとコーヒーを一口含んだ。
話の中に出てきた“運転”と言う言葉が、私の心に残った。
「松川は、運転好き?」
「ああ、好きだよ。仕事のときの緊張感を伴う運転も、プライベートで気楽に運転するのも」
彼の真っ直ぐな答えに、私は少しだけ羨ましくなった。
「そっか……。私ね、人のためにする運転が嫌いになっちゃったんだ」
そう切り出した途端、今まで我慢していた感情が溢れ出した。
私は松川に、カツヤとのことを話し始めた。
深夜の呼び出しから、一方的な運転の強要。
挙げ句の果てには罵倒されたこと。
そして、ついに堪忍袋の緒が切れて、彼を駅前で置き去りにしてきたことまで。
不安を隠すように、私はカップを両手で包み込んだ。
「あーあ、私って男を見る目がないのかなー」
話し終えた後、ふうっと大きく息を吐き出した。
そして、彼はいつもの優しい笑顔で言った。
「俺はそんなことないと思うけど」
「え?」
「ほら、目の前に良い男がいるだろ?」
冗談めかして笑う松川に、私は少しだけ救われた気持ちになった。
「ふふふ、なにそれ。でも、ありがとう。松川に話せて、少し楽になった」
「それはよかった。もし、またなんかあったら、俺でよければいつでも話聞くからさ。なんだったら今度ドライブしようよ」
松川が運転する車の助手席か……。
きっと、丁寧で優しい運転なんだろう。
「悪くないかもね」
「じゃあ、決まりな」
彼はそう言って、カップを包む私の手を、上から更に包み込むように握った。
その温かい手の感触に、私は少しだけ泣きそうになった。
ーーFinーー
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