誰が為の運転
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〜誰が為の運転〜
時刻は深夜0時を過ぎていた。
ベッドに入った私のスマホが、1件のメッセージを受信した。
“迎えに来て”
この呼び出しの連絡がたまらなく嫌だった。
相手はお付き合いをしている7つ年上のカツヤ。
カツヤは免許を持っていないため、こうして私を呼び出しては足代わりに使う。
私も私でカツヤのことが好きだから極力助けたかったし、少しでも会える時間が増えるのだから、と初めは嬉しかった。
だけど、私自身運転が得意なワケでも、好きなワケでもない。
迎えに行ったとしても、カツヤは高速代やガソリン代、駐車場代を払ってすらくれない。
これが免許を持っていない人の認識のズレなのか、と徐々に幻滅していった。
眠い目を擦りながらも、メッセージと一緒に添付された居酒屋の場所へと車を走らせると、そこには立っているのもやっとなカツヤの姿があった。
どれだけ飲んだのよ。
お店の前に車を停めると、カツヤは千鳥足で助手席へと乗り込む。
「おーう、ご苦労〜ご苦労〜っと!」
「酔いすぎ。私にも予定があるから、こんな時間に呼び出されるのは困るのよ。次からタクシー呼んで」
「だってよー、タクシー高いだろ!それに、●●に会いたかったんだってー!」
ベロベロに酔っ払ったカツヤは調子のいいことばかり言ってくる。
要はタダ乗りがしたいんでしょ?
嫌になる。
私を利用してくるカツヤも、それに逆らえない私自身も。
夜道で慎重になりながらも車を発進させた。
慣れない道の運転は怖くて、余計ゆっくりになる。
「なー、●●ー!」
「なによ」
こっちは集中しているんだから、あまり話しかけないでほしい。
それなのに、カツヤはとんでもないことを言い出した。
「もっとスピード出せよー!周りに車いねぇし!ビビりかよ」
「……あのね、法定速度ってものがあって……」
「んなもん、守ってるヤツなんかいねぇだろ」
カツヤは私を犯罪者にさせたいのか。
呆れてしまう。
「てかさ、前々から思ってたんだけど、●●よりぜってぇ俺の方が運転上手いわ!」
「……」
何を根拠に。
せめて免許を取ってから言って欲しい。
それとも、カツヤは昔ヤンチャしていたらしいから、そのときに無免で運転したことがあるのか。
そんなこと、考えたくもない。
付き合いたての時は、そんなカツヤのちょっとヤンチャな部分が新鮮で惹かれた。
だけど、付き合っていくうちに私との価値観のズレが露呈していく。
もう、限界なのかもしれない……。
カツヤの家までまだ距離があった。
その間に、私の心の中で何かがプツンと切れた。
私は、ナビが示す道とは全く違う、ここから一番近い駅へのルートを選んだ。
すぐにカツヤが、怪訝そうな声で尋ねる。
「おいおい、道間違ってんぞー!」
だけど、これでいいんだ。
助手席から向けられる彼を、視界に入れずに私は答えた。
「大丈夫、合ってる」
その言葉は、まるで自分自身に言い聞かせるようだった。
私は間違えていない。
……。
…………。
ほどなくして、私は車を停めた。
「着いたよ」
うとうとしかけていたカツヤを揺すって起こすと、彼は目をこすってサイドウィンドウから外を覗いた。
「んあ?ここ、どこだよ」
「駅」
「は?ふざけてんのかよ!」
「本気。もうカツヤの言いなりになるの、疲れちゃった。だからここで降りて」
本当はもっと手前のよく分からない場所で降ろしたかったけれど、これが私のせめてもの良心。
だけど、カツヤは渋って中々降りてくれない。
……仕方がない。
私はゆっくり運転席のサイドウィンドウを降ろした。
「な、なにするつもりだよ」
動揺するカツヤを無視し、次に私はダッシュボードに置かれていたカツヤの鞄を掴んだ。
何かを察したのか、カツヤは慌てて鞄を奪い返そうとしてきたけれど、酔っている彼の手には全く力が入っていない。
それをいいことに、私はその鞄を先ほど開けたサイドウィンドウから外に投げてやった。
「おい!テメェ!」
「私に怒るより、先に取りに行かなくていいの?」
「……チッ」
カツヤは舌打ちをしてから扉を開けて外に出た。
そのタイミングで私は急いで鍵をかけた。
「おい!開けろよ!」
もう私の耳にはカツヤの叫びなんか聞こえない。
聞いてやらない。
私は躊躇なく車を発進させた。
さようなら、カツヤ。
もう会うことはないでしょう。
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