熟年夫婦初心者
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〜熟年夫婦初心者〜
「◯◯、英語の教科書忘れたから貸して」
そう言って教室に入ってきたのは付き合って6年になる彼氏の松川一静。
「ん」
机から取り出した教科書を渡そうとしたら、松川の袖のボタンが取れかかっていることに気が付いた。
「ちょっと待って」
一度教科書を机の上に置いてから、鞄から簡易用裁縫道具を取り出した。
「ボタン取れそうだから腕出して」
「おう、悪い」
手慣れた手つきでボタンを補強する。
それをじっと見ている松川。
「はい、できた」
「サンキューな。あと、教科書も」
それだけ言うと松川は急いで教科書を持って教室を出ていった。
また別の日には、
「◯◯、ミーティングやることになったから一緒に帰れない」
週に一度のバレー部のオフの日。
その日は一緒に帰る約束をしている。
だけど、今みたいなことや、友達と遊ぶことになった、私の方が用事ができてダメになることは多々。
「分かった」
「急で悪いな」
「今に始まったことじゃないでしょ。ほら行った行った」
手でシッシッとジェスチャーをする。
悪いと言いつつ、そう思っていなさそうな松川を、ヤレヤレと言う感じで見送った。
それを見ていた友達のチヒロが、
「あんたらって本当に熟年夫婦みたいだよね。束縛とか嫉妬とかせずに、お互いに自由と言うか……」
と感心してきた。
「そう?慣れだよ、慣れ」
なんて嘘。
唯一まともに松川と話せる月曜日。
それすらも最近は取れない。
熟年夫婦、私と松川が周りにそう言われているのは知っている。
私が忙しい松川に気を使って“会いたい”や“寂しい”なんて言わないから。
交わす会話も必要最小限。
友達いわく言わなくても伝わっているよな、の雰囲気が出ているらしい。
だけど本当は言いたいし、伝えて欲しい。
会いたい、寂しい、甘えたい、下の名前で呼びたい、スキンシップしたい、好きって言ってほしい……。
言いたいけれど、大人っぽい松川に好かれようとクールに振る舞っていたら、いつしか熟年夫婦扱い。
それが徐々に自分の首を締めていることに気が付いた。
松川に大切にされていない気がする。
友達の方を優先されたり、平気で約束を破ったり。
ねえ知ってる?
私は今でも松川にときめいているんだよ。
もう、潮時なのかな。
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