あやとりかけとり
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ーーおまけ (心操side)ーー
雑居ビル街。
けたたましいサイレンの音と、野次馬たちの怒号が遠くで響いていた。
だけど、俺の視界には、凶悪なヴィランの太い腕に首元を絞められ、青ざめる彼女の姿しか映っていなかった。
「動くな!動くとコイツの首をへし折るぞ!」
捕縛布を構えようとした俺の身体が、金縛りに遭ったように固まる。
俺の『洗脳』は相手が問いかけに答えなければ発動しない。
人質を取られ、ただ狂声を上げるヴィラン相手には、あまりにも無力だった。
プロのヒーローを目指して練習を重ねてきたはずなのに。
守りたいと思ったたった1人の女の子すら、目の前で救うことができない。
自分の不甲斐なさと無力さに、歯が砕けそうなほど奥歯を噛み締めた。
その時、涙で濡れた瞳で、彼女が真っ直ぐに俺を見つめてきた。
そこにあったのは、恐怖に耐えながら覚悟を決めた少女の瞳だった。
待て、まさか……っ!
昼休みに、彼女が意を決して打ち明けてくれた言葉が脳裏を駆け巡る。
“この赤い糸で小指を結ぶと……お互いを強制的に好きにさせちゃうの。私自身も、その感情に抗えない”
ダメだ。
それだけはダメだ!
「やめろ……っ!やめてくれ、◯◯さん……ッ!!」
喉が切れるほどの悲痛な叫びも虚しく、彼女の指先は静かにポケットからあの赤い毛糸を取り出していた。
震える指で素早く解かれた糸が、彼女の小指と、ヴィランの武骨な小指を繋ぐ。
結び目が固く結ばれたその瞬間、空気が一変した。
「ぬ……ぐ……!?」
直前まで殺気を撒き散らしていたヴィランが、嘘のように腕の力を抜いた。
その瞳から邪気が消え、気味の悪いほどの情熱を浮かべて彼女を見つめ、その場に膝をつく。
だが、俺の胸を本当の意味で引き裂いたのは、ヴィランの反応ではなかった。
「あ……」
彼女の瞳から、俺に向いていたはずの光が消えていた。
先ほどまでの恐怖も、俺を頼るような眼差しも全て失われ、ただうっとりと、目の前の男を見つめている。
個性の効果で、恐怖対象であるはずの男を愛おしいと誤認させていく過程が、痛いほど伝わってきた。
「好きだ!好きだお嬢さん!愛してるんだ!!」
取り押さえられるヴィランに向かって、彼女はどこか狂おしそうに手を伸ばそうとしていた。
俺が、俺が弱かったからだ。
俺がもっと素早く、もっと強く、彼女を救い出せていれば、彼女にこんな傷を負わせずに済んだのに。
駆け寄った俺に向ける彼女の瞳は、氷のように冷たかった。
「ごめん、心操君。手、放してもらってもいい?」
ただのクラスメイトを見るような、温度のない声。
俺たちで紡いできたあの日々も、あやとりで笑い合った中庭の時間も、俺に向けられていたあの温かい眼差しも、全てあの赤い糸によって書き換えられてしまった。
胸の奥が、グツグツと煮えたぎるような絶望と激痛で押し潰されそうになる。
だが、不意に彼女の小指から、結ばれていた赤い毛糸がするりと解け落ちた。
俺は膝をつき、落ちた毛糸を拾い上げた。
それを慣れた手つきで輪っか状に結び直す。
「……」
この糸を手にするだけで、たくさんの思い出が脳裏に蘇ってきた。
まだ……まだ、終わりじゃない!
例え彼女が忘れてしまっても、俺は絶対に忘れない。
個性の力で上書きされたって関係ない。
何度だって、わだかまりを解いてやる。
何度傷ついたって、何度拒絶されたって構わない。
もう一度、イチから……。
俺自身の言葉と手で、◯◯さんを振り向かせてみせるから。
「……教えてやるよ。2人あやとり」
俺は固く誓いを込めながら、彼女へ向けて優しく微笑んだ。
だから待っててくれ、◯◯さん。
雑居ビル街。
けたたましいサイレンの音と、野次馬たちの怒号が遠くで響いていた。
だけど、俺の視界には、凶悪なヴィランの太い腕に首元を絞められ、青ざめる彼女の姿しか映っていなかった。
「動くな!動くとコイツの首をへし折るぞ!」
捕縛布を構えようとした俺の身体が、金縛りに遭ったように固まる。
俺の『洗脳』は相手が問いかけに答えなければ発動しない。
人質を取られ、ただ狂声を上げるヴィラン相手には、あまりにも無力だった。
プロのヒーローを目指して練習を重ねてきたはずなのに。
守りたいと思ったたった1人の女の子すら、目の前で救うことができない。
自分の不甲斐なさと無力さに、歯が砕けそうなほど奥歯を噛み締めた。
その時、涙で濡れた瞳で、彼女が真っ直ぐに俺を見つめてきた。
そこにあったのは、恐怖に耐えながら覚悟を決めた少女の瞳だった。
待て、まさか……っ!
昼休みに、彼女が意を決して打ち明けてくれた言葉が脳裏を駆け巡る。
“この赤い糸で小指を結ぶと……お互いを強制的に好きにさせちゃうの。私自身も、その感情に抗えない”
ダメだ。
それだけはダメだ!
「やめろ……っ!やめてくれ、◯◯さん……ッ!!」
喉が切れるほどの悲痛な叫びも虚しく、彼女の指先は静かにポケットからあの赤い毛糸を取り出していた。
震える指で素早く解かれた糸が、彼女の小指と、ヴィランの武骨な小指を繋ぐ。
結び目が固く結ばれたその瞬間、空気が一変した。
「ぬ……ぐ……!?」
直前まで殺気を撒き散らしていたヴィランが、嘘のように腕の力を抜いた。
その瞳から邪気が消え、気味の悪いほどの情熱を浮かべて彼女を見つめ、その場に膝をつく。
だが、俺の胸を本当の意味で引き裂いたのは、ヴィランの反応ではなかった。
「あ……」
彼女の瞳から、俺に向いていたはずの光が消えていた。
先ほどまでの恐怖も、俺を頼るような眼差しも全て失われ、ただうっとりと、目の前の男を見つめている。
個性の効果で、恐怖対象であるはずの男を愛おしいと誤認させていく過程が、痛いほど伝わってきた。
「好きだ!好きだお嬢さん!愛してるんだ!!」
取り押さえられるヴィランに向かって、彼女はどこか狂おしそうに手を伸ばそうとしていた。
俺が、俺が弱かったからだ。
俺がもっと素早く、もっと強く、彼女を救い出せていれば、彼女にこんな傷を負わせずに済んだのに。
駆け寄った俺に向ける彼女の瞳は、氷のように冷たかった。
「ごめん、心操君。手、放してもらってもいい?」
ただのクラスメイトを見るような、温度のない声。
俺たちで紡いできたあの日々も、あやとりで笑い合った中庭の時間も、俺に向けられていたあの温かい眼差しも、全てあの赤い糸によって書き換えられてしまった。
胸の奥が、グツグツと煮えたぎるような絶望と激痛で押し潰されそうになる。
だが、不意に彼女の小指から、結ばれていた赤い毛糸がするりと解け落ちた。
俺は膝をつき、落ちた毛糸を拾い上げた。
それを慣れた手つきで輪っか状に結び直す。
「……」
この糸を手にするだけで、たくさんの思い出が脳裏に蘇ってきた。
まだ……まだ、終わりじゃない!
例え彼女が忘れてしまっても、俺は絶対に忘れない。
個性の力で上書きされたって関係ない。
何度だって、わだかまりを解いてやる。
何度傷ついたって、何度拒絶されたって構わない。
もう一度、イチから……。
俺自身の言葉と手で、◯◯さんを振り向かせてみせるから。
「……教えてやるよ。2人あやとり」
俺は固く誓いを込めながら、彼女へ向けて優しく微笑んだ。
だから待っててくれ、◯◯さん。
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