あやとりかけとり
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
自分の恋心をはっきりと自覚してからの数日間。
私は心操君にどう接していいか完全に分からなくなっていた。
恋を自覚した途端、今まで当たり前にできていた挨拶すら喉につかえる。
今朝も教室でバッチリ目が合ったというのに、あからさまに顔を背けてしまった。
逃げ出した後、自分の臆病さに落ち込んだ。
だけど、このまま避け続けるなんて絶対に嫌だ。
私は勇気を振り絞り、久しぶりにお昼休みの中庭へと足を向けた。
シュッシュッと空気を裂く重い音。
ベンチに静かに腰を下ろし、彼の練習が終わるまで、その真剣な背中をじっと見つめた。
やがて音が止み、荒い息を吐きながら彼がこちらへ歩いてきた。
額の汗を制服の袖で拭うと、心操君は私の隣へどさりと腰掛けた。
少し開いた2人の距離。
それなのに、練習直後の熱気が伝わってきて胸が跳ねる。
指先で弄んでいた赤い毛糸をギュッと握りしめた、その時だった。
「……なあ」
不意に、横から低く落ち着いた声が降ってくる。
「……この間は、悪かった」
「えっ……?」
思いがけない謝罪に目を丸くする私に、心操君はどこか気まずそうに視線を泳がせた。
「糸が絡まったとき、動揺しすぎって言ったけど……。よくよく考えたら、不快だったよな」
「不快……?」
「色こそ黒の糸だったけど……事故だとは言え、糸で小指を繋がれるのって、何とも思ってないヤツとだなんて嫌だっただろ」
彼の瞳は、私の手のひらに収まる赤い糸へと向けられていた。
「そ、そんなことないよ!あれは……っ!」
「あれは?」
続きを言おうとして、喉がキュッと縮こまった。
“個性を明かすのは結婚を決めた相手だけに”
脳裏に焼き付いた母の厳格な声が蘇り、一気に息が詰まる。
もし打ち明けて、心操君に引かれたら?
また同じ事故が起こったら?
きっと、この関係は終わってしまうだろう。
視線を落とし、返答に詰まる私を見て、心操君は小さく息を吐いた。
「……言いにくいなら、いい。無理に聞く気はないから」
気まずさを払うように、彼は視線を空へ向けた。
追及しない彼の優しさが、痛いほど胸に染みる。
心操君なら……。
毎日練習に打ち込み、不器用だけど真っ直ぐな彼なら。
私の個性を話しても軽蔑なんてしない。
母親との約束を破ることへの恐怖よりも、彼に本当の私を知ってほしいという強い衝動が勝っていた。
「ううん。……聞いて、心操君」
固く結んでいた手のひらを開き、赤い糸を彼に見せるように広げた。
「これね、ただの遊び道具じゃないの。私の……個性に関係してるんだ」
絞り出すような私の声に、心操君がゆっくりとこちらを振り向く。
「私の個性は『縁結び』。この赤い糸で小指を結ぶと……お互いを強制的に好きにさせちゃうの。私自身も、感情に抗えない。だから、あのとき個性が発動しちゃうと思って動揺しちゃったの」
一息に言葉を吐き出すと、視界が涙で歪んだ。
「だけど、心操君の感情を操ろうとして近付いたワケじゃないの。本当なの……!」
そこまで言って、言い淀む。
でも、結果的には個性なんて使わなくても、私は勝手に心操君のことが好きになってしまった……。
そんな本音まで口に出す勇気はなくて、私はギュッと唇を噛み締めた。
「……」
「……」
沈黙が落ちる。
心操君は私の手の中にある赤い糸を、ただ静かに見つめていた。
軽蔑されただろうか。
人を意のままに好きにさせるなんて、気味の悪い個性だと思われただろうか。
不安で胸が押し潰されそうになったその時、彼が口を開いた。
「……洗脳」
「え?」
「俺の個性。問いかけに答えた相手を洗脳して操る」
心操君は自嘲気味に笑みを浮かべ、自分の大きな手のひらを見つめた。
「ヴィラン向きだって、散々言われてきたよ。人の心を無理やり操る力なんて、ヒーローらしくないってさ」
淡々と語られる彼の言葉の裏に、どれほど深い孤独と傷があったのかを悟り、ハッと息を飲む。
彼は私の目を真っ直ぐ見つめ返した。
その瞳には、私を拒絶する色なんて欠片もない。
「◯◯さんも……人の心を動かす力に、ずっと振り回されてきたんだな」
そう言って、心操君はフッと柔らかく目を細めた。
「俺たち、似てるな」
その一言が、私の胸の深く染み渡っていく。
ずっと1人で抱えてきた冷たい重荷が、彼の言葉によって軽くなっていくのが分かった。
「……うん」
頷いた私の手元から、心操君の長い指先が、そっと赤い糸の端をすくい上げた。
「まあ、正直なところ、◯◯さんになら個性かけられてもいいかもな」
「えっ……!」
思いがけない言葉に素で口をぽかんと開けると、心操君は意地悪そうにニッと笑った。
「なんだよ、間抜けな面してるぞ」
「だって、それは心操君が急に変なことを言うから!」
「はははっ」
笑う彼の顔を見ていたら、急に愛おしさが込み上がり、胸の奥から本音が溢れ出した。
「あの……」
「ん?」
「間抜け面ついでに言うけど……、私も心操君になら洗脳されてもいいよ」
「っ……!?」
今度は心操君が大きく目を見開き、フリーズした。
耳の先まで一瞬で真っ赤に染まっていく。
「あー!ほら、心操君だって間抜けな顔してる!人のこと言えないじゃん!」
「……っ、るせぇっ!」
心操君はカッと顔を赤くしたままフイッと顔を背け、首の後ろを掻いた。
秋の風が2人の間を吹き抜けていく。
手元にある赤い糸は、もう呪いでも何でもなかった。
個性なんて関係なく、ただ目の前の愛おしい彼と自分をしっかりと繋いでいる。
そんな気がして、私の顔は緩みっぱなしだった。
私は心操君にどう接していいか完全に分からなくなっていた。
恋を自覚した途端、今まで当たり前にできていた挨拶すら喉につかえる。
今朝も教室でバッチリ目が合ったというのに、あからさまに顔を背けてしまった。
逃げ出した後、自分の臆病さに落ち込んだ。
だけど、このまま避け続けるなんて絶対に嫌だ。
私は勇気を振り絞り、久しぶりにお昼休みの中庭へと足を向けた。
シュッシュッと空気を裂く重い音。
ベンチに静かに腰を下ろし、彼の練習が終わるまで、その真剣な背中をじっと見つめた。
やがて音が止み、荒い息を吐きながら彼がこちらへ歩いてきた。
額の汗を制服の袖で拭うと、心操君は私の隣へどさりと腰掛けた。
少し開いた2人の距離。
それなのに、練習直後の熱気が伝わってきて胸が跳ねる。
指先で弄んでいた赤い毛糸をギュッと握りしめた、その時だった。
「……なあ」
不意に、横から低く落ち着いた声が降ってくる。
「……この間は、悪かった」
「えっ……?」
思いがけない謝罪に目を丸くする私に、心操君はどこか気まずそうに視線を泳がせた。
「糸が絡まったとき、動揺しすぎって言ったけど……。よくよく考えたら、不快だったよな」
「不快……?」
「色こそ黒の糸だったけど……事故だとは言え、糸で小指を繋がれるのって、何とも思ってないヤツとだなんて嫌だっただろ」
彼の瞳は、私の手のひらに収まる赤い糸へと向けられていた。
「そ、そんなことないよ!あれは……っ!」
「あれは?」
続きを言おうとして、喉がキュッと縮こまった。
“個性を明かすのは結婚を決めた相手だけに”
脳裏に焼き付いた母の厳格な声が蘇り、一気に息が詰まる。
もし打ち明けて、心操君に引かれたら?
また同じ事故が起こったら?
きっと、この関係は終わってしまうだろう。
視線を落とし、返答に詰まる私を見て、心操君は小さく息を吐いた。
「……言いにくいなら、いい。無理に聞く気はないから」
気まずさを払うように、彼は視線を空へ向けた。
追及しない彼の優しさが、痛いほど胸に染みる。
心操君なら……。
毎日練習に打ち込み、不器用だけど真っ直ぐな彼なら。
私の個性を話しても軽蔑なんてしない。
母親との約束を破ることへの恐怖よりも、彼に本当の私を知ってほしいという強い衝動が勝っていた。
「ううん。……聞いて、心操君」
固く結んでいた手のひらを開き、赤い糸を彼に見せるように広げた。
「これね、ただの遊び道具じゃないの。私の……個性に関係してるんだ」
絞り出すような私の声に、心操君がゆっくりとこちらを振り向く。
「私の個性は『縁結び』。この赤い糸で小指を結ぶと……お互いを強制的に好きにさせちゃうの。私自身も、感情に抗えない。だから、あのとき個性が発動しちゃうと思って動揺しちゃったの」
一息に言葉を吐き出すと、視界が涙で歪んだ。
「だけど、心操君の感情を操ろうとして近付いたワケじゃないの。本当なの……!」
そこまで言って、言い淀む。
でも、結果的には個性なんて使わなくても、私は勝手に心操君のことが好きになってしまった……。
そんな本音まで口に出す勇気はなくて、私はギュッと唇を噛み締めた。
「……」
「……」
沈黙が落ちる。
心操君は私の手の中にある赤い糸を、ただ静かに見つめていた。
軽蔑されただろうか。
人を意のままに好きにさせるなんて、気味の悪い個性だと思われただろうか。
不安で胸が押し潰されそうになったその時、彼が口を開いた。
「……洗脳」
「え?」
「俺の個性。問いかけに答えた相手を洗脳して操る」
心操君は自嘲気味に笑みを浮かべ、自分の大きな手のひらを見つめた。
「ヴィラン向きだって、散々言われてきたよ。人の心を無理やり操る力なんて、ヒーローらしくないってさ」
淡々と語られる彼の言葉の裏に、どれほど深い孤独と傷があったのかを悟り、ハッと息を飲む。
彼は私の目を真っ直ぐ見つめ返した。
その瞳には、私を拒絶する色なんて欠片もない。
「◯◯さんも……人の心を動かす力に、ずっと振り回されてきたんだな」
そう言って、心操君はフッと柔らかく目を細めた。
「俺たち、似てるな」
その一言が、私の胸の深く染み渡っていく。
ずっと1人で抱えてきた冷たい重荷が、彼の言葉によって軽くなっていくのが分かった。
「……うん」
頷いた私の手元から、心操君の長い指先が、そっと赤い糸の端をすくい上げた。
「まあ、正直なところ、◯◯さんになら個性かけられてもいいかもな」
「えっ……!」
思いがけない言葉に素で口をぽかんと開けると、心操君は意地悪そうにニッと笑った。
「なんだよ、間抜けな面してるぞ」
「だって、それは心操君が急に変なことを言うから!」
「はははっ」
笑う彼の顔を見ていたら、急に愛おしさが込み上がり、胸の奥から本音が溢れ出した。
「あの……」
「ん?」
「間抜け面ついでに言うけど……、私も心操君になら洗脳されてもいいよ」
「っ……!?」
今度は心操君が大きく目を見開き、フリーズした。
耳の先まで一瞬で真っ赤に染まっていく。
「あー!ほら、心操君だって間抜けな顔してる!人のこと言えないじゃん!」
「……っ、るせぇっ!」
心操君はカッと顔を赤くしたままフイッと顔を背け、首の後ろを掻いた。
秋の風が2人の間を吹き抜けていく。
手元にある赤い糸は、もう呪いでも何でもなかった。
個性なんて関係なく、ただ目の前の愛おしい彼と自分をしっかりと繋いでいる。
そんな気がして、私の顔は緩みっぱなしだった。
