あやとりかけとり
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昼休み。
いつもの中庭では、心地よい秋風が吹き抜けていた。
シュッシュッと空間を割る重い音。
捕縛布を振るう心操君の真剣な横顔と、額から落ちる汗が光るのを、私はベンチに腰掛けながらボーッと眺めていた。
2人だけの穏やかな時間。
その静かな空間に、不意に小さな訪問者が現れる。
植え込みの隙間からひょっこりと顔を出したのは、黒色の毛並みをした、1匹の野良猫だった。
こちらの様子を伺うように、テトテトと小さな足音を立ててベンチの近くまで歩いてくる。
「うわー!見てみて心操君!猫だよ」
思わず声を弾ませて指をさすと、練習の手を止めた心操君がゆっくりとこちらへ振り返った。
袖で汗を拭いながら、足元に佇む猫へ視線を落とす。
その瞬間、彼の気怠げな瞳が、ほんの少しだけ柔らかく弛んだ。
「可愛いな」
「心操君って、猫好きなの?」
「……ああ、かなり」
いつものクールなトーンのまま。
だけど、隠しきれていない嬉しさが、声の端々に滲み出ている。
猫を見つめて照れくさそうに目元を緩める彼の意外な一面に、胸の奥がキュッと熱くなった。
心操君に喜んでほしい、もっと笑顔が見たい……。
そんな思いが芽生えて、私はポケットからいつもの赤い毛糸を取り出した。
「あ、そうだ!あやとりにも『猫』の形があるんだよ!ここをこうして……こう!」
指先に素早く糸を引っ掛け、手首を捻る。
慣れた手付きでパッと形を作り、自信満々に彼の前に差し出してみせた。
心操君は差し出された赤い糸の猫と、足元で呑気に毛繕いを始めた本物の猫を交互に見比べる。
それから、フッと呆れたように眉を上げた。
「……なんか、かなり無理やり感があるな」
「仕方ないでしょ、だってあやとりだもん!ほら、他にも生き物なら犬とか亀とかカエルとか……いっぱいあるんだよ?」
私は次々と指先を動かしていく。
指に絡まる赤い毛糸が、カエルになり、亀になり、目まぐるしくその姿を変えていく。
最初は半信半疑な顔をしていた心操君だったけれど、次第に私の手元に釘付けになっていた。
「……おー。なんか、これは意外と似てる」
最後に作った『犬』の形を見て、心操君が感心したようにぽつりと呟いた。
眉間のシワが消えて、子供みたいに素直な目をしている。
私は照れくささを隠すように「でしょー!」と大きく笑ってみせた。
「あとは……四段はしごからの連続技で『鳥』ができるんだけど、解釈によっては『月』って呼ぶ人もいてね……」
そこまで口にして指先を滑らせ、綺麗な『四段はしご』を完成させた瞬間、ハッと息を飲んだ。
あっ……やってしまった……!
先日、彼が夜中に必死で練習して教えてくれた『四段はしご』。
あの時、私は「久しぶりだからやり方を忘れた」という設定で彼に教わったはずだった。
おまけに、最後まで完成に持っていけなかった。
それなのに、今の私は何の躊躇もなく、息をするように一瞬で作り上げてしまっている。
咄嗟に心操君の顔を伺うと、彼もすぐに察したのか怪訝そうな顔で私の手元と顔を見比べていた。
「四段はしご、めちゃくちゃ余裕そうじゃん……」
「あ……あはは、バレちゃった……?」
「忘れてたとか言ってたよな」
バツが悪そうに苦笑いする私に、心操君は呆れたようにため息を吐いたけれど、その口角はどこか楽しそうに上がっていた。
「……なら、八段とかもできるんじゃね?」
「んー……実は、十二段までできちゃったり?」
「マジか……」
心操君は驚いたように目を丸くした後、どこか脱力したようにフッと笑いを漏らした。
釣られて私も笑いが溢れた。
足元では野良猫が喉をゴロゴロと鳴らしている。
秘密のうっかりミスも、2人で笑い合えば大切な思い出へと変わった。
いつもの中庭では、心地よい秋風が吹き抜けていた。
シュッシュッと空間を割る重い音。
捕縛布を振るう心操君の真剣な横顔と、額から落ちる汗が光るのを、私はベンチに腰掛けながらボーッと眺めていた。
2人だけの穏やかな時間。
その静かな空間に、不意に小さな訪問者が現れる。
植え込みの隙間からひょっこりと顔を出したのは、黒色の毛並みをした、1匹の野良猫だった。
こちらの様子を伺うように、テトテトと小さな足音を立ててベンチの近くまで歩いてくる。
「うわー!見てみて心操君!猫だよ」
思わず声を弾ませて指をさすと、練習の手を止めた心操君がゆっくりとこちらへ振り返った。
袖で汗を拭いながら、足元に佇む猫へ視線を落とす。
その瞬間、彼の気怠げな瞳が、ほんの少しだけ柔らかく弛んだ。
「可愛いな」
「心操君って、猫好きなの?」
「……ああ、かなり」
いつものクールなトーンのまま。
だけど、隠しきれていない嬉しさが、声の端々に滲み出ている。
猫を見つめて照れくさそうに目元を緩める彼の意外な一面に、胸の奥がキュッと熱くなった。
心操君に喜んでほしい、もっと笑顔が見たい……。
そんな思いが芽生えて、私はポケットからいつもの赤い毛糸を取り出した。
「あ、そうだ!あやとりにも『猫』の形があるんだよ!ここをこうして……こう!」
指先に素早く糸を引っ掛け、手首を捻る。
慣れた手付きでパッと形を作り、自信満々に彼の前に差し出してみせた。
心操君は差し出された赤い糸の猫と、足元で呑気に毛繕いを始めた本物の猫を交互に見比べる。
それから、フッと呆れたように眉を上げた。
「……なんか、かなり無理やり感があるな」
「仕方ないでしょ、だってあやとりだもん!ほら、他にも生き物なら犬とか亀とかカエルとか……いっぱいあるんだよ?」
私は次々と指先を動かしていく。
指に絡まる赤い毛糸が、カエルになり、亀になり、目まぐるしくその姿を変えていく。
最初は半信半疑な顔をしていた心操君だったけれど、次第に私の手元に釘付けになっていた。
「……おー。なんか、これは意外と似てる」
最後に作った『犬』の形を見て、心操君が感心したようにぽつりと呟いた。
眉間のシワが消えて、子供みたいに素直な目をしている。
私は照れくささを隠すように「でしょー!」と大きく笑ってみせた。
「あとは……四段はしごからの連続技で『鳥』ができるんだけど、解釈によっては『月』って呼ぶ人もいてね……」
そこまで口にして指先を滑らせ、綺麗な『四段はしご』を完成させた瞬間、ハッと息を飲んだ。
あっ……やってしまった……!
先日、彼が夜中に必死で練習して教えてくれた『四段はしご』。
あの時、私は「久しぶりだからやり方を忘れた」という設定で彼に教わったはずだった。
おまけに、最後まで完成に持っていけなかった。
それなのに、今の私は何の躊躇もなく、息をするように一瞬で作り上げてしまっている。
咄嗟に心操君の顔を伺うと、彼もすぐに察したのか怪訝そうな顔で私の手元と顔を見比べていた。
「四段はしご、めちゃくちゃ余裕そうじゃん……」
「あ……あはは、バレちゃった……?」
「忘れてたとか言ってたよな」
バツが悪そうに苦笑いする私に、心操君は呆れたようにため息を吐いたけれど、その口角はどこか楽しそうに上がっていた。
「……なら、八段とかもできるんじゃね?」
「んー……実は、十二段までできちゃったり?」
「マジか……」
心操君は驚いたように目を丸くした後、どこか脱力したようにフッと笑いを漏らした。
釣られて私も笑いが溢れた。
足元では野良猫が喉をゴロゴロと鳴らしている。
秘密のうっかりミスも、2人で笑い合えば大切な思い出へと変わった。
