あやとりかけとり
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この日は、朝から心操君の様子に違和感を覚えた。
授業中、いつも真面目に黒板を見つめているはずの彼が、今日はどこかソワソワしている。
時折、制服のポケットあたりを手探りで気にしたり、ふと視線を落としては小さく息を吐いたり。
何かあったのかな……?
その違和感が明確になったのは、お昼休みの時間だった。
お弁当をサッと済ませ、中庭の木陰にあるベンチで赤い毛糸を手に彼を待っていた私は、遠くから歩いてくる彼の姿に思わず目を見張った。
無表情を装ってはいるものの、いつもより明らかに歩幅が広く、どこか胸を張っているように見える。
そして極めつけに、いつも首に巻いているはずの捕縛布すら持っていないのだ。
「心操君、今日は練習しないの?」
不思議に思って問いかけると、彼は私の隣へドシッと腰掛けた。
「今日は……俺も持ってきた」
「え?」
心操君は制服のポケットから、1本の黒い糸を取り出した。
私の反応を伺うようにチラリと視線を向けると、彼は迷いのない素早い手つきで指に糸を掛け始めた。
捕縛布に苦戦していた姿とはまるで別人だ。
黒い糸はあっという間に形を変えていく。
「え……嘘、心操君!?」
驚きに目を見開く私を余所に、彼は最後のひと引きで、見事な『四段はしご』を作り上げた。
さらに間髪入れず、片側をつまみ上げると、糸は連続して美しい『東京タワー』へと姿を変えた。
完成した複雑な糸の造形を差し出しながら、心操君はフッと鼻で息を鳴らした。
「……どうだ」
眉を少しだけ上げ、顎を小さくしゃくってみせる。
紛うことなきドヤ顔だ。
いつものクールな彼からは想像もつかない、分かりやすすぎる達成感と誇らしげな表情。
「すごーい!いつの間にこんなの覚えたの!?」
私が声を弾ませ、身を乗り出して黒い糸に見入ると、心操君はフイッと顔を横へ逸らした。
だけど、髪の隙間から覗く耳の先が赤くなっているのを、私は見逃さなかった。
「……まあな。俺にかかればこんなもん」
強がるような低い声とは裏腹に、誇らしげな笑みを噛み殺しきれていない。
「……もしかして私に見せるために、家で練習してきてくれたの?」
そう尋ねた瞬間、彼は視線を明後日の方向へ泳がせ、照れくさそうに首の後ろをポリポリと掻いた。
「……別に。たまたまネットで見つけて、試したくなっただけだ」
素直じゃない答え。
でも、私のために彼が夜中に1人で糸と格闘してくれたのだと思うと、胸の奥が熱いもので満たされていく。
「ふふふ。ありがとう、心操君」
心から笑いかけると、心操君は少しだけ目を丸くした後、フッと笑った。
「◯◯さんも、やってみたいなら教えるけど」
差し出された糸の先で、彼の手指が誇らしげに揺れている。
「あ、大丈夫!私もそれできるから!」
伊達に幼少期から1人であやとりを続けてきていない。
それどころか、本気を出せば十二段はしごだって作ることができる。
だけど、そう答えた瞬間、心操君の誇らしげだった表情が一変した。
眉がハの字に下がり、分かりやすく不機嫌そうに口元を尖らせる。
「……あっそ」
ポツリと吐き捨ててそっぽを向く様子は、さながら幼い子どものようだ。
そんな子供っぽい彼の姿に、私は不覚にも可愛いと感じてしまった。
せっかく練習してきてくれたのに、まずいこと言っちゃったかな……。
慌てて前言を撤回しようと、私は彼の袖口をちょんちょんと引っ張った。
「……あー!でも、久しぶりだからやり方忘れちゃったかも!ねぇ心操君、やっぱり教えて?」
チラリとこちらを見た心操君は、ほんの少しだけ口元を緩めると、わざとらしくひとつため息を吐いてみせた。
「……仕方ないな」
そう言って満足そうに頷くと、彼は得意げな声で解説を始めた。
授業中、いつも真面目に黒板を見つめているはずの彼が、今日はどこかソワソワしている。
時折、制服のポケットあたりを手探りで気にしたり、ふと視線を落としては小さく息を吐いたり。
何かあったのかな……?
その違和感が明確になったのは、お昼休みの時間だった。
お弁当をサッと済ませ、中庭の木陰にあるベンチで赤い毛糸を手に彼を待っていた私は、遠くから歩いてくる彼の姿に思わず目を見張った。
無表情を装ってはいるものの、いつもより明らかに歩幅が広く、どこか胸を張っているように見える。
そして極めつけに、いつも首に巻いているはずの捕縛布すら持っていないのだ。
「心操君、今日は練習しないの?」
不思議に思って問いかけると、彼は私の隣へドシッと腰掛けた。
「今日は……俺も持ってきた」
「え?」
心操君は制服のポケットから、1本の黒い糸を取り出した。
私の反応を伺うようにチラリと視線を向けると、彼は迷いのない素早い手つきで指に糸を掛け始めた。
捕縛布に苦戦していた姿とはまるで別人だ。
黒い糸はあっという間に形を変えていく。
「え……嘘、心操君!?」
驚きに目を見開く私を余所に、彼は最後のひと引きで、見事な『四段はしご』を作り上げた。
さらに間髪入れず、片側をつまみ上げると、糸は連続して美しい『東京タワー』へと姿を変えた。
完成した複雑な糸の造形を差し出しながら、心操君はフッと鼻で息を鳴らした。
「……どうだ」
眉を少しだけ上げ、顎を小さくしゃくってみせる。
紛うことなきドヤ顔だ。
いつものクールな彼からは想像もつかない、分かりやすすぎる達成感と誇らしげな表情。
「すごーい!いつの間にこんなの覚えたの!?」
私が声を弾ませ、身を乗り出して黒い糸に見入ると、心操君はフイッと顔を横へ逸らした。
だけど、髪の隙間から覗く耳の先が赤くなっているのを、私は見逃さなかった。
「……まあな。俺にかかればこんなもん」
強がるような低い声とは裏腹に、誇らしげな笑みを噛み殺しきれていない。
「……もしかして私に見せるために、家で練習してきてくれたの?」
そう尋ねた瞬間、彼は視線を明後日の方向へ泳がせ、照れくさそうに首の後ろをポリポリと掻いた。
「……別に。たまたまネットで見つけて、試したくなっただけだ」
素直じゃない答え。
でも、私のために彼が夜中に1人で糸と格闘してくれたのだと思うと、胸の奥が熱いもので満たされていく。
「ふふふ。ありがとう、心操君」
心から笑いかけると、心操君は少しだけ目を丸くした後、フッと笑った。
「◯◯さんも、やってみたいなら教えるけど」
差し出された糸の先で、彼の手指が誇らしげに揺れている。
「あ、大丈夫!私もそれできるから!」
伊達に幼少期から1人であやとりを続けてきていない。
それどころか、本気を出せば十二段はしごだって作ることができる。
だけど、そう答えた瞬間、心操君の誇らしげだった表情が一変した。
眉がハの字に下がり、分かりやすく不機嫌そうに口元を尖らせる。
「……あっそ」
ポツリと吐き捨ててそっぽを向く様子は、さながら幼い子どものようだ。
そんな子供っぽい彼の姿に、私は不覚にも可愛いと感じてしまった。
せっかく練習してきてくれたのに、まずいこと言っちゃったかな……。
慌てて前言を撤回しようと、私は彼の袖口をちょんちょんと引っ張った。
「……あー!でも、久しぶりだからやり方忘れちゃったかも!ねぇ心操君、やっぱり教えて?」
チラリとこちらを見た心操君は、ほんの少しだけ口元を緩めると、わざとらしくひとつため息を吐いてみせた。
「……仕方ないな」
そう言って満足そうに頷くと、彼は得意げな声で解説を始めた。
