あやとりかけとり
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〜あやとりかけとり〜
同じクラスの心操君が布に絡まって固まっていたのは、昼休みの誰もいない中庭だった。
見事なまでに巻きつかれて身動きを取れずにいるシュールな光景に、私は足を止める。
「心操君、何してるの?」
声をかけると、彼は少しだけ気まずそうに目を逸らした。
ため息混じりの低い声がこぼれる。
「◯◯さん……。見れば分かるだろ」
「分からないから聞いているんだけど」
「……捕縛布の練習」
いつも冷静な彼が布と格闘している姿がなんだかおかしくて、私はそっと近付いた。
複雑に絡まる布を見つめていると、不意に好奇心が湧いてくる。
「ちょっと私にもやらせてよ」
絡まった布を解いてあげながら、その端を少しだけ分けてもらう。
心操君の手元を真似て指先に引っかけると、手首を軽く捻るようにして宙へ投げてみた。
白い布は軽やかな軌道を描き、するりと綺麗な輪を作って落ちる。
「◯◯さんって、これ使ったことあるのか?」
心操君が目を丸くし、心底驚いたように私を見つめた。
「ううん、初めてだよ。なんか、あやとりみたいだね。私、あやとりは得意なの」
「あやとり……?」
「ほら」
言いながら制服のポケットに手を突っ込み、いつも持ち歩いている輪っかに繋がった30cmほどの赤い毛糸を取り出してみせる。
「何か作れる?」
尋ねると、心操君は怪訝そうな顔をしながらも、素直にそれを受け取った。
指に糸を掛け、慣れた手つきでパッと形を作る心操君。
できあがったのは、つり橋だった。
「ん、取れよ」
糸を差し出されて、私は思わず首を傾げた。
「1人でしかやったことないから、2人あやとり分からない」
「……マジで?」
拍子抜けしたような心操君の顔。
「じゃあ、教えてやるよ。親指と中指で、ここの糸を引っ張る。……そう、そうすると、田んぼができる」
「おー、本当だ!凄い!」
「次は俺が取るから、動かすなよ」
静寂に包まれた中庭で、2人の距離が自然と縮まる。
さっきまで捕縛布に苦戦していた彼の手指が、今は小さな赤い糸を丁寧に拾い上げていく。
指先が触れ合いそうなほど近くて、彼の呼吸まで聞こえてきそう。
気付けば、赤い糸は2人の手を何周も行き来していた。
「すっかりマスターしちゃった。ありがとう、心操君!……あ、捕縛布の練習、邪魔しちゃってごめんね」
ハッと我に返ると、心操君は少し照れくさそうに首の後ろを掻いた。
「いや、俺も……久しぶりにやって、楽しかったから」
彼の優しい瞳の中に、赤い糸が綺麗に映っていた。
今なら、少しだけ踏み込んでもいいだろうか……。
「ねえ、心操君……」
「なんだ?」
「また、2人あやとり誘ってもいい?」
「……」
一瞬の沈黙。
心操君は少しだけ考えるように視線を落とした。
やっぱり、ヒーロー科編入を目指して忙しい彼に、こんなくだらない遊びの誘いは迷惑だったかな……。
急に不安が押し寄せてきて、私は慌てて手と顔を振った。
「あっ……ごめんね!急にこんなこと言われても困るよね!忘れて」
「たまになら……」
「えっ……?」
「たまになら、付き合う」
ボソッと呟かれたその言葉と、真っ直ぐに私を見つめる瞳。
「!!……ありがとう!」
木々を揺らす風の音に負けないくらい、今日イチの大きな声が中庭に響き渡った。
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