183センチ
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〜183センチ〜
「あれ……?」
昼休みを告げるチャイムが鳴り、私はお弁当の準備をしようと鞄を漁った。
だけど、探せど探せど水筒が見当たらない。
「どうしたの、●●?」
隣の席のミイコが、心配そうにこちらを覗き込む。
「水筒、忘れちゃったみたい。ちょっと飲み物買ってくるね」
「どんまい、いってら〜」
私は財布を片手に、自動販売機が設置されている体育館へと急いだ。
さっさと買って戻ろう。
そう思っていたのに先客がいた。
学年カラーが分けられているスリッパの色で、彼らが3年生だとすぐに分かった。
背が高く、ガタイの良い数人の男子生徒が、自動販売機の前に陣取ってワイワイと楽しそうにお喋りをしている。
私は一歩引いて、少し離れたところで待つことにした。
早く買って戻らないと、お昼の時間が短くなっちゃう……。
焦る気持ちとは裏腹に、先輩たちは一向に飲み物を買う気配がない。
ただのお喋りの場になっているようだ。
だけど、この盛り上がっている輪の中に割って入って声をかける勇気は、私にはなかった。
「どうしよう……」
独り言のように呟くと、先輩たちの集団の中から見慣れた顔がひょっこりと現れた。
「あれ、◯◯さん?」
同じクラスの赤葦京治君だった。
黒髪に落ち着いた表情の彼。
3年生に混ざって、1人だけ2年生の彼がいると言うことは、これは部活の集まりなのか。
彼は一瞬、私を見て、すぐに状況を察したようだった。
「もしかして、飲み物買うの?」
彼の声はいつも通り、落ち着いていて穏やかだ。
「あ、うん……」
私は小さく頷いた。
赤葦君は、先輩たちに動じることなく話しかけた。
「木兎さん、ちょっと退いてください」
「あ?なんだよ、あかーし!」
輪の中心にいた、ひときわ背の高い先輩が振り返る。
「彼女が、飲み物買いたいみたいなので」
そう言って、赤葦君は私に目配せをした。
彼の視線に促され、初めて私の存在に気付いたらしい先輩たちは、一斉にこちらを見た。
「うわっ!ごめん、気が付かなかった!」
1人の先輩が、大袈裟なくらい大きな声で謝る。
「あ、いえ……」
先輩たちは、慌てたように道を開けてくれた。
目の前が一気に開ける。
私は小銭を取り出そうと財布を開けた、その瞬間、
チャリン
硬貨が投入される音が響いた。
「◯◯さん、どれにする?」
顔を上げると、赤葦君が投入口の横に立っていた。
「え?」
予想外の行動に、私の声が上擦る。
「邪魔しちゃったお詫び」
彼の表情は真面目で、冗談を言っている様子はない。
「でも……」
邪魔どころか、赤葦君が助けてくれたのに。
申し訳ない気持ちになる。
だけど、遠慮する私をよそに、彼は一向に譲ろうとしなかった。
その様子を見て、1人の先輩が声を上げた。
「いらねぇなら、俺に奢ってくれよ、あかーし!」
他の先輩は呆れたような顔をしている。
もういっそのこと、その方がいいのかもしれない。
そんなことを考えていると、赤葦君は先輩を牽制するように一睨みした。
その目は、いつも穏やかな彼からは想像できない、鋭い光を宿していた。
「木兎さん」
たった一言。
その静かな圧に、先ほどまで騒いでいた先輩は、シュンと鳴りを潜めて静かになった。
そして、赤葦君は改めて私の方へ向き直った。
「ごめんね、◯◯さん。それで、何にする?」
ここまでされたら、断る方がかえって失礼なのかもしれない。
私は観念し、申し訳なさそうに頼んだ。
「あ、じゃあ、お茶を……お願いします」
彼は無言で緑茶のボタンを押し、冷えたペットボトルを取り出した。
「はい」
「ありがとう」
赤葦君は、ただ静かに微笑むだけだった。
……。
…………。
奢ってもらった冷たいペットボトルを抱えて、私は小走りで教室に戻った。
「遅かったね、●●」
「うん、ちょっと色々あって」
「ふーん」
席に戻り、お弁当を食べ始める。
ふと、さっきの出来事を思い出した。
自動販売機の横に立った赤葦君、背が高かったな……。
同じくらいの高さなんじゃないか。
赤葦君って、身長どれくらいなんだろう。
私は手に持ったスマホを取り出し、検索した。
“自動販売機 平均 高さ”
そこに表示された数字は、183センチだった。
つまり、赤葦君の身長も183センチくらいなんだ……。
今後、自動販売機を見かける度に彼のことを思い出しそう。
そんなことを思いながら、私はお茶のペットボトルの蓋を開けた。
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