分かりにくいんだよ
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あの日の夜から数日後。
銀行のフロアには、いつもと代わり映えしない光景が広がっていた。
忙しないキーボードを打つ音、鳴り響く電話のコール、ATMの機械的な音声。
そして、背後からはいつもの低くて冷徹な声。
「◯◯さん、またここのデータ入力間違えていますよ」
「え、あ、本当だ……。すみません」
差し出された資料に目を落とすと、指摘された箇所は確かに私が担当したものだった。
「全く、何度言ったら……」
呆れたようにため息を吐く国見君。
職場での彼は、あの日の飲み会が嘘だったかのように抜け目がない。
そして、相変わらず私に対して厳しい。
せっかく彼の心の内が知れたと思ったのに。
結局、私たちの関係は何も縮まっていない。
そんな風に少し落ち込んでいた、その時だった。
「あと、これ、差し入れです」
国見君はポケットから取り出した何かを、私のデスクにそっと置いた。
それは付箋の貼られた、手のひらサイズの塩キャラメルの小袋だった。
“今度、お茶に行きませんか”
付箋には、確かに彼の文字でそう書かれていた。
パッと顔を上げて、国見君の様子を確認する。
彼は私と視線を合わせようとはせず、顔を背けていた。
だけど、彼の耳の裏が、あの日と同じように赤く染まっていくのがはっきりと見えた。
国見君はそれを誤魔化すように、少しだけ照れたような、それでいてぶっきらぼうな声を絞り出した。
「た、たまには……お詫びのコーヒーくらい、奢られてもいいですよ」
それだけを早口に言い残すと、彼は私からの返事を待つこともなく、さっさと自分のデスクへと戻っていってしまった。
「……」
ポツリとデスクに残された、小さな塩キャラメル。
私はそれをそっと包み込むようにして拾い上げた。
付箋に書かれた文字をもう一度見つめる。
夢じゃなかった……。
あの日、彼が私に向けてくれた不器用な甘えも、こぼした想いも、全部、本物だったんだ。
仕事には厳しいけれど、彼は彼なりの歩幅で、ちゃんと私との距離を縮めようとしてくれている。
仕事の合間、私は袋を開けて、キャラメルを1つ口に含んだ。
ゆっくりと溶けていくそれは、今朝のミスを帳消しにしてくれるくらい、ほんのりとしょっぱくて、甘かった。
銀行のフロアには、いつもと代わり映えしない光景が広がっていた。
忙しないキーボードを打つ音、鳴り響く電話のコール、ATMの機械的な音声。
そして、背後からはいつもの低くて冷徹な声。
「◯◯さん、またここのデータ入力間違えていますよ」
「え、あ、本当だ……。すみません」
差し出された資料に目を落とすと、指摘された箇所は確かに私が担当したものだった。
「全く、何度言ったら……」
呆れたようにため息を吐く国見君。
職場での彼は、あの日の飲み会が嘘だったかのように抜け目がない。
そして、相変わらず私に対して厳しい。
せっかく彼の心の内が知れたと思ったのに。
結局、私たちの関係は何も縮まっていない。
そんな風に少し落ち込んでいた、その時だった。
「あと、これ、差し入れです」
国見君はポケットから取り出した何かを、私のデスクにそっと置いた。
それは付箋の貼られた、手のひらサイズの塩キャラメルの小袋だった。
“今度、お茶に行きませんか”
付箋には、確かに彼の文字でそう書かれていた。
パッと顔を上げて、国見君の様子を確認する。
彼は私と視線を合わせようとはせず、顔を背けていた。
だけど、彼の耳の裏が、あの日と同じように赤く染まっていくのがはっきりと見えた。
国見君はそれを誤魔化すように、少しだけ照れたような、それでいてぶっきらぼうな声を絞り出した。
「た、たまには……お詫びのコーヒーくらい、奢られてもいいですよ」
それだけを早口に言い残すと、彼は私からの返事を待つこともなく、さっさと自分のデスクへと戻っていってしまった。
「……」
ポツリとデスクに残された、小さな塩キャラメル。
私はそれをそっと包み込むようにして拾い上げた。
付箋に書かれた文字をもう一度見つめる。
夢じゃなかった……。
あの日、彼が私に向けてくれた不器用な甘えも、こぼした想いも、全部、本物だったんだ。
仕事には厳しいけれど、彼は彼なりの歩幅で、ちゃんと私との距離を縮めようとしてくれている。
仕事の合間、私は袋を開けて、キャラメルを1つ口に含んだ。
ゆっくりと溶けていくそれは、今朝のミスを帳消しにしてくれるくらい、ほんのりとしょっぱくて、甘かった。
