もじもじヒーロー
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜もじもじヒーロー〜
まだ5月だというのに、暑い日が続いていた。
風は強く吹いていたけれど、その暑さに耐えきれず、大学の帰り道にコンビニへ寄ってアイスを買うことにした。
しかも2本も。
1本目を完食し、もう1本を食べようとコンビニのビニール袋から取り出したとき、後ろからか細い声が私を呼び止めた。
「あ、あの…すみま………ん。…す、すみません……あ……あの、呼び止めてすみません」
振り返ると、ヒーロースーツを着た青年が、とても遠慮がちに立っていた。
ヒーローなのに、なんでこんなにもじもじしているんだろう?
「はい、なんですか?」
私は手に持っているアイスの袋を開けながら聞き返した。
「こっ……この辺にタコが落ちていませんでしたか?探していて……」
……え、タコ?
いやいや、きっと“凧”のことだ。
一瞬、頭の中で蛸のイメージが浮かんでしまった。
探し物の依頼中なのかな?
「あー、凧ね。うーん……」
実際、今日は風が強いし、誰かの凧が飛ばされて木に引っかかっていてもおかしくない。
記憶をたどってみるけれど、
「ごめん、見かけなかったかな」
「そう……ですか……。お手数おかけしました」
肩を落としてしょんぼりしている様子が、なんだか不憫に思えた。
だから、
「見つけたら連絡しましょうか?」
と思わず、口にしていた。
「た、助かります……。では、ここに連絡してもらえますか?」
そう言って彼は私に名刺を渡した。
そこにはファットガム事務所の連絡先と住所、それから彼のヒーロー名であるサンイーター、と書かれていた。
「俺、そこでインターン中なんです……」
ファットガム事務所は聞いたことがある。
この近所の有名なヒーロー事務所だ。
「分かったわ」
彼は軽く会釈をし、去っていった。
私はアイスの最後の一口を食べきると、その名刺をポケットへとしまう。
しばらく歩くと公園にさしかかった。
そうだ、公園ならたくさん木が植わっているし、もしかしたら凧が引っかかっているかもしれない。
探す義理もないけれど、彼……サンイーターさんがあまりにも困った表情を浮かべていたから、探すことにした。
公園を囲うように生えている木々、茂みの中、池の淵。
満遍なく歩き回って探したけれど、見つからない。
せっかくアイスを食べて涼んだのに、また汗が出てきた。
「ちょっと休憩……」
近くに設置されていたベンチに腰掛ける。
「ふぅー……」
風が心地良い。
ふと隣のベンチを見ると、ベンチの下に動く何かが落ちていた。
「なに……あれ?」
それに手を伸ばすと、掴んだ手のひらにひんやりヌルッとした感触が広がった。
「た、タコ!?」
思わず悲鳴を上げた。
咄嗟に投げ捨てようとしたけれど、このタコこそが、彼が探していた落とし物だと気が付いた。
だから、気持ち悪い感触を我慢して、持っていたコンビニ袋にそっと入れた。
袋の中を覗くと元気にうにょうにょ動いている。
と、観察している場合じゃない。
サンイーターさんに連絡しないと。
私は急いでスマホを取り出し、彼に連絡をした。
……。
…………。
しばらく待っていると、サンイーターさんが公園に入ってくるのが見えた。
周囲をキョロキョロと見回している感じ、私を見つけられていないようだ。
私はコンビニ袋を高く掲げ、大声で彼を呼んだ。
「サンイーターさん!ここです!ここ!」
すると、ヒーロースーツの背中がピクッと跳ねた。
いくら何でも驚きすぎだ。
彼は私の元へと駆け寄ると、手元の袋にそっと視線を落とした。
「これです、このタコです。ありがとうございます」
「よかったー!ところでこのタコ、何に使うんですか?もしかしてペット……とか?」
「えっと……実は……ファットガムにお使いを頼まれて……。たこ焼き作る用の、タコだったん……ですけど、僕がよそ見をしている隙に、逃げたみたいで……」
顔を真っ赤にして説明する様子に、私はクスッと笑ってしまった。
「ちゃんと見つかってよかったですね」
「は、はい……助かりました」
そう安心したのもつかの間、袋の中のタコが突然グイッと腕を伸ばしてきた。
あっという間に私の手首に吸盤がぺったり貼りつく。
「ひゃっ……ちょ、ちょっと……!」
想像以上の吸着力で、引っ張ってもまったく離れてくれない。
むしろ元気よく、ちゅうちゅうと吸い付いてくる。
「だ、大丈夫ですか……?!」
サンイーターさんが慌ててタコを引っ張っるけれど、私の腕にからみついたタコはまるで強力接着でくっつけたように離れない。
「……吸盤、強いですね……。これ以上強く引っ張ると、お姉さんが怪我するかもしれないし……。だけど、どうすれば……」
サンイーターさんはすごく申し訳なさそうに言った。
だから、私は悩んでいる彼に提案した。
「このまま事務所まで行きましょうか?」
今日はもう予定ないし、遠回りをしたって支障ない。
私がそう言うと、サンイーターさんが目をかっぴらいて、大袈裟なほど感謝してきた。
こうして私は、タコを腕に貼りつかせたままサンイーターさんと横並びで歩き、ファットガム事務所へと向かうことになった。
途中、道行く人たちには不思議そうに見られ、その都度サンイーターさんは申し訳なさそうにもじもじしていたけれど、私はなぜだかドキドキした。
1/4ページ
