〜第一章〜 偽りの性別
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その後も何軒かの服屋を巡り、ミリオは上機嫌でいくつかの袋を手に提げていた。
「◯◯は本当に何も買わなくて良かったのかい?せっかく来たのに!」
「うん、大丈夫。今日はミリオに付き合うって決めてたから」
本当は、心惹かれる服がいくつもあった。
だけど、手を伸ばしかけて止めたのは、どれも可愛らしいワンピースや、ブラウス。
一人っ子だとミリオに話してしまっている以上、姉妹へのプレゼントという言い訳も使えない。
私はただ、男友達の顔をして、手に入らないものを諦めるしかなかった。
「今日は良い買い物ができたよ!ありがとう、◯◯」
「どういたしまして」
弾けるような彼の笑顔を見ていると、自分の物欲なんて些細なことに思えてくる。
彼が満足なら、それでいい。
「ご飯でも食べてから帰るか?」
「いいね」
ミリオの提案に、どこか良いご飯処はないかと探していると、
BaaaaaaaN!! KabooM!!
鼓膜を突き破るような爆発音と共に、足元から世界が激しく揺れた。
「うわぁっ!」
「っ!」
悲鳴があちこちで上がり、視界を黒煙が覆う。
地震か、それとも爆発事故か。
混乱する私の目に飛び込んできたのは、あまりにも異形で、おぞましい怪物たちの姿だった。
「脳無 ……!?」
目の前に立ちはだかるたくさんの脳無。
火災報知器が狂ったように鳴り響き、天井からはスプリンクラーの水が冷たく降り注ぐ。
雄英高校のヒーロー科として日々訓練を積んでいるミリオとは違い、私は普通の高校に通う、ただの女子高生に過ぎない。
圧倒的な悪意と暴力を前にして、足がすくみ、呼吸の仕方を忘れてしまった。
「あ……あ……っ」
「俺が食い止めている間に◯◯は逃げて!」
ミリオの声が、震える私の意識を強引に引き戻した。
彼の瞳には、もうさっきまで無邪気に買い物を楽しむ彼ではない。
そこにあるのは、人々を守るヒーローの輝きだった。
「わ、分かった。無茶はしないでね!」
精一杯の声を振り絞ると、ミリオは背中越しに、力強く親指を立ててみせた。
その逞しい後ろ姿を目に焼き付けて、私はその場を離れた。
非常口の手前で、私は足を止めた。
通路の隅に、見覚えのあるショップバッグが転がっている。
爆発の衝撃で飛ばされたのか、ミリオが戦うために手放したのか。
中には、ついさっき私が選んだあのシャツが入っているはずだった。
……拾いに行っちゃダメだ。
命より大切なものなんてない。
頭では分かっている。
今すぐここを離れなければ、脳無に追いつかれるかもしれない。
だけど、視線がどうしてもあの袋から離れない。
あれは、ただの布切れじゃない。
男友達として過ごす、この偽りの日々の中で、ミリオと一緒に笑いながら選んだ大切な思い出の欠片なのだ。
もし、このまま脳無に踏み荒らされ、炎に焼かれてしまったら。
私たちの積み重ねてきた時間までもが、無残に消えてしまうような気がして……足は、出口とは逆の方向へ動いていた。
恐怖でガタガタと震える身体を引き摺るようにして、私は降り注ぐスプリンクラーの水の中、ミリオの残した思い出へと手を伸ばした。
「◯◯は本当に何も買わなくて良かったのかい?せっかく来たのに!」
「うん、大丈夫。今日はミリオに付き合うって決めてたから」
本当は、心惹かれる服がいくつもあった。
だけど、手を伸ばしかけて止めたのは、どれも可愛らしいワンピースや、ブラウス。
一人っ子だとミリオに話してしまっている以上、姉妹へのプレゼントという言い訳も使えない。
私はただ、男友達の顔をして、手に入らないものを諦めるしかなかった。
「今日は良い買い物ができたよ!ありがとう、◯◯」
「どういたしまして」
弾けるような彼の笑顔を見ていると、自分の物欲なんて些細なことに思えてくる。
彼が満足なら、それでいい。
「ご飯でも食べてから帰るか?」
「いいね」
ミリオの提案に、どこか良いご飯処はないかと探していると、
BaaaaaaaN!! KabooM!!
鼓膜を突き破るような爆発音と共に、足元から世界が激しく揺れた。
「うわぁっ!」
「っ!」
悲鳴があちこちで上がり、視界を黒煙が覆う。
地震か、それとも爆発事故か。
混乱する私の目に飛び込んできたのは、あまりにも異形で、おぞましい怪物たちの姿だった。
「
目の前に立ちはだかるたくさんの脳無。
火災報知器が狂ったように鳴り響き、天井からはスプリンクラーの水が冷たく降り注ぐ。
雄英高校のヒーロー科として日々訓練を積んでいるミリオとは違い、私は普通の高校に通う、ただの女子高生に過ぎない。
圧倒的な悪意と暴力を前にして、足がすくみ、呼吸の仕方を忘れてしまった。
「あ……あ……っ」
「俺が食い止めている間に◯◯は逃げて!」
ミリオの声が、震える私の意識を強引に引き戻した。
彼の瞳には、もうさっきまで無邪気に買い物を楽しむ彼ではない。
そこにあるのは、人々を守るヒーローの輝きだった。
「わ、分かった。無茶はしないでね!」
精一杯の声を振り絞ると、ミリオは背中越しに、力強く親指を立ててみせた。
その逞しい後ろ姿を目に焼き付けて、私はその場を離れた。
非常口の手前で、私は足を止めた。
通路の隅に、見覚えのあるショップバッグが転がっている。
爆発の衝撃で飛ばされたのか、ミリオが戦うために手放したのか。
中には、ついさっき私が選んだあのシャツが入っているはずだった。
……拾いに行っちゃダメだ。
命より大切なものなんてない。
頭では分かっている。
今すぐここを離れなければ、脳無に追いつかれるかもしれない。
だけど、視線がどうしてもあの袋から離れない。
あれは、ただの布切れじゃない。
男友達として過ごす、この偽りの日々の中で、ミリオと一緒に笑いながら選んだ大切な思い出の欠片なのだ。
もし、このまま脳無に踏み荒らされ、炎に焼かれてしまったら。
私たちの積み重ねてきた時間までもが、無残に消えてしまうような気がして……足は、出口とは逆の方向へ動いていた。
恐怖でガタガタと震える身体を引き摺るようにして、私は降り注ぐスプリンクラーの水の中、ミリオの残した思い出へと手を伸ばした。
