〜第一章〜 ズボラでも愛して
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〜第一章〜 ズボラでも愛して
残業が急遽なくなり、定時よりも早く会社を出ることができた。
真っ直ぐ帰るにはもったいない。
私は最近会えていなかった恋人、ユウタの家に行くことにした。
「いきなり行ったら、ユウタ、どんな顔するかな」
サプライズを想像して、自然と早足になる。
ユウタのマンションの前に着き、ドアノブに手を掛けた。
鍵がかかっている。
だけど、扉の向こうからは微かに物音が聞こえてきた。
大方、テレビをつけっぱなしにして、ソファで寝落ちしてしまったのだろう。
私は鞄から合鍵を取り出し、静かに鍵を開けた。
玄関をくぐった瞬間、いつも通りの生活臭の奥に、ほんのりと甘い、覚えのない香水の匂いがした気がしたけれど、深く考えなかった。
廊下を通り抜け、私は意気揚々とリビングの扉を開けた。
「ユウタいる?」
すると、信じられない光景が私の視界に飛び込んできた。
「何……してるのよ……」
声が震えた。
聞かなくても、いや、見たくなくても分かってしまう。
私の恋人であるユウタと、見知らぬ女が、ソファの上で肌を重ねていたのだ。
「え、ちょ、●●!違っ……!てか、今日残業なんじゃ……!」
ユウタは慌てふためき、情けない声を上げる。
一方、彼女は体を隠そうともせず、こちらをじっと見つめていた。
その表情は、まるで勝ち誇ったような、余裕の笑みを浮かべているように見えた。
いつから?
いつから、私を裏切っていたの?
私のことを、馬鹿にしていたの?
脳裏を走る怒りの熱が、全身を駆け巡る。
ムカつく……!ムカつく……!
「最低っ!」
私はその場で、鞄から取り出した合鍵を、ユウタに向かって投げつけた。
そして、一瞬たりともその場にいたくなくて、私は弾かれるように部屋を飛び出した。
思い返せば、玄関には見たことのない女物の安っぽいサンダルが置いてあった気がする。
それに加え、嗅ぎ慣れない甘ったるい香水の匂い。
あの時、なぜ気付かなかったのだろう。
ーーーー
ユウタの部屋を飛び出したはいいけれど、自分の家に帰りたくなかった。
静まり返ったあの部屋に帰れば、嫌でも、今見た現実を受け入れざるを得なくなるから。
だから、私はフラフラと街を彷徨い、行き着いた先のコンビニで、缶ビールをしこたま購入した。
そして、夜風の冷たい近所の公園のベンチで、1人寂しくやけ酒をすることにした。
夜空は星1つ見えず、街灯だけがやけに明るい。
「うっ……ユウタのバカ……」
さっきまで感情を支配していた怒りはどこへやら。
急激な喪失感が私を襲ってきた。
空きっ腹に流し込んだビールのせいか、酔いはすぐさま回ってきた。
普段は決して泣き上戸なんかじゃないのに。
涙が頬を伝って止まらないなんて、おかしいな。
……。
…………。
ひとしきり泣いた後、急に恐ろしいほどの睡魔がやってきた。
このまま、全部忘れて、寝てしまいたい。
でも、明日も仕事だ。
頭では寝てはいけないと分かっているのに、体は言うことを聞かない。
無意識でコクリコクリと、船を漕ぎ始める。
そのとき、ふいに、澄んだ男の人の声が、私にかけられた。
「お姉さん、こんなところで寝ると危ないですよ」
「ん……」
重たい目蓋を、無理やりこじ開ける。
そこには、まだあどけなさが残る、背の高い少年が立っていた。
グレーのブレザーに、青と白のストライプのネクタイ、黒のスラックス。
確か、梟谷学園の制服……だっけ。
ナンパかと思ったけれど、こんなボロボロで酔っぱらったおばさんを相手にするワケがない。
そうなると、カツアゲか。
「あいにく、このビールを買ったから所持金はゼロよ」
私は空になったビール缶を、カラカラと振って見せた。
すると少年は、意味が分からないとでも言いたげに、眉間に皺を寄せた。
「は?」
思っていたのとは違う反応だ。
ひょっとしてカツアゲじゃないの?
見当違いなことを言ったかしら。
少年はため息を吐くように言った。
「親切心ですけど」
そっか……親切心か……。
だとしても、大きなお世話だ。
「放っておいてくれないかな。少年には分からないことが、大人の世界にはあんのよ」
そんな言葉を口にしたのを最後に、私の意識は、深い闇の中へと遠退いていった。
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