男の子のお姫様
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拍手が鳴りやまない館内だったけれど、演劇の余韻を感じる間もなく、次のクラスの準備が慌ただしく始まった。
パンフレットによると、次は映画上映らしい。
1-Aの生徒たちは、舞台袖へと捌けそのまま観客席側へと降りてくる。
その中に、ひときわ目を引く白いドレス姿を見つけた。
浩輔君はクラスメイトの男子数人に囲まれ、達成感からか、楽しそうに笑っている。
彼に一言伝えたい……。
私の視線に気付いたのか、隣でカオリがニヤリと笑って肩を叩いた。
「いいよ、行ってきなよ。私はまた弟のところに行って、メイド姿を動画に収めてくるから」
「ごめん、カオリ。ありがとう!」
友達の気遣いに背中を押され、私は人混みを掻き分けて彼の元へと急いだ。
「浩輔君!」
呼びかけると、彼は肩をビクつかせ、こちらへ振り向いた。
「●●さん……本当に、来てたんですね」
「何だ、浩輔。彼女さんか?それじゃ、俺らは退散するわ」
友人たちはニヤニヤしながら、「またな」と手を振って去っていく。
「勝手に来てごめんね。嫌がってたのに、どうしても見たくて……」
「……ここでは目立ちすぎます。場所、移動しましょうか」
そう言うと、浩輔君は躊躇いがちに、でもしっかりと私の手を引いた。
ドレスの裾を捌きながら歩く彼は、慣れないヒールのせいで足元が覚束ない。
「あ、うわぁっ!」
その時、彼の足からガラスの靴が脱げ落ちた。
シンデレラさながらの展開に、私は思わずクスリと笑みが溢れる。
「履かなくていいの?王子様 が拾ってあげようか?」
「……いいです、恥ずかしいから。次の公演までにヒールを折るワケにいかないので、このまま行きます」
彼は靴を手に取ると、少し急ぎ足でとある教室へと私を導いた。
入口には1-Aの室名札が掲げられている。
騒がしい廊下に反して、静まり返ったこの教室は、生徒たちの荷物置きとして使われていた。
普段、ここで浩輔君は勉強しているのか……。
「ねえ、浩輔君の席はどこ?」
「え、あ……あそこです。窓側の」
指差された席へ腰掛けると、浩輔君も隣の席に腰を下ろした。
数年前まで私も高校生だったのに、なんだか随分前のことのように思えた。
感傷に浸っていると、浩輔君は手に持っていたガラスの靴を見つめてポツリと溢した。
「こんな姿、見られたくなかったのに……」
「え?」
「女装してヒールなんて履いてる姿、●●さんに見られたくなかったです。もっと……格好良い姿を見せたかった……」
その言葉に、胸の奥がキュンと鳴った。
「学校のHPにある部活動画の浩輔君、格好良かったよ」
「えっ、あれ見たんですか……?」
「うん。だって、浩輔君のこと、もっと知りたかったから」
「……言ってくれれば、何でも教えたのに」
「それなら、なんで最近避けてたの?メッセージも断ってばかりで」
私が核心を突くと、彼は真っ赤になって視線を泳がせた。
ドレスのレースを指先で弄りながら、消え入りそうな声で白状する。
「………好きだから、避けていました」
好きだから……?
心臓が煩いほどに鳴り響く。
高揚感に突き動かされるように、私は彼が持っていたガラスの靴をひょいと取り上げた。
改めて見ると、靴は私のものより一回り大きい。
足が大きい子は将来背が伸びるって言うけれど、このお姫様も、いつか私を見下ろすくらい背が高くなるかもしれない。
私は劇中の王子様を真似て、彼の前に片膝をついた。
「ぴったりだ!アナタこそ私の運命の人だ。どうか私と結婚してくださいませんか、シンデレラ?」
「●●さん……っ」
「違うでしょ?」
イタズラっぽく続きを促すと、浩輔君は困ったように眉を下げ、観念したようにセリフを繋いだ。
「……王子様、嬉しいわ。私も、アナタと結婚したいです」
「よし。それじゃあ、2人は愛の誓いのキスを落としました……ほら」
「え、だって、劇ではフリだったし!」
「それなら、王子役の私が本気でリードしないとね」
「え、ちょっ、あのっ!」
戸惑いながらも、彼は慌てて目を閉じた。
長く綺麗な睫毛が小刻みに震えている。
受け入れる準備をしてくれているその姿が、あまりに愛おしい。
私は彼の顔を引き寄せ、唇ではなくおでこにそっとキスをした。
ちゅっ
「王子様とシンデレラは結ばれ、幸せに暮らしました。めでたしめでたし!」
「おでこ……」
拍子抜けしたように目を開ける浩輔君。
私が彼への感情を「可愛い弟」の愛着だと思い込んでいたように、彼もまた、私のことを「姉のような存在」として好きなだけではないか。
その真意を、浩輔君自身にも確かめてほしかった。
「もし、浩輔君も私のことを異性として好きなら、……今の返事、次は唇にして欲しいな」
「そ、そんなの……っ」
「さあ!私は友達を待たせてるし、浩輔君も次の開演準備があるでしょ?」
今度は私から、赤面して固まるシンデレラの手を引いて教室を出た。
私たちの物語は、まだ「めでたしめでたし」ではないけれど、そうなる未来も遠くないのかもしれない。
ーーFinーー
パンフレットによると、次は映画上映らしい。
1-Aの生徒たちは、舞台袖へと捌けそのまま観客席側へと降りてくる。
その中に、ひときわ目を引く白いドレス姿を見つけた。
浩輔君はクラスメイトの男子数人に囲まれ、達成感からか、楽しそうに笑っている。
彼に一言伝えたい……。
私の視線に気付いたのか、隣でカオリがニヤリと笑って肩を叩いた。
「いいよ、行ってきなよ。私はまた弟のところに行って、メイド姿を動画に収めてくるから」
「ごめん、カオリ。ありがとう!」
友達の気遣いに背中を押され、私は人混みを掻き分けて彼の元へと急いだ。
「浩輔君!」
呼びかけると、彼は肩をビクつかせ、こちらへ振り向いた。
「●●さん……本当に、来てたんですね」
「何だ、浩輔。彼女さんか?それじゃ、俺らは退散するわ」
友人たちはニヤニヤしながら、「またな」と手を振って去っていく。
「勝手に来てごめんね。嫌がってたのに、どうしても見たくて……」
「……ここでは目立ちすぎます。場所、移動しましょうか」
そう言うと、浩輔君は躊躇いがちに、でもしっかりと私の手を引いた。
ドレスの裾を捌きながら歩く彼は、慣れないヒールのせいで足元が覚束ない。
「あ、うわぁっ!」
その時、彼の足からガラスの靴が脱げ落ちた。
シンデレラさながらの展開に、私は思わずクスリと笑みが溢れる。
「履かなくていいの?
「……いいです、恥ずかしいから。次の公演までにヒールを折るワケにいかないので、このまま行きます」
彼は靴を手に取ると、少し急ぎ足でとある教室へと私を導いた。
入口には1-Aの室名札が掲げられている。
騒がしい廊下に反して、静まり返ったこの教室は、生徒たちの荷物置きとして使われていた。
普段、ここで浩輔君は勉強しているのか……。
「ねえ、浩輔君の席はどこ?」
「え、あ……あそこです。窓側の」
指差された席へ腰掛けると、浩輔君も隣の席に腰を下ろした。
数年前まで私も高校生だったのに、なんだか随分前のことのように思えた。
感傷に浸っていると、浩輔君は手に持っていたガラスの靴を見つめてポツリと溢した。
「こんな姿、見られたくなかったのに……」
「え?」
「女装してヒールなんて履いてる姿、●●さんに見られたくなかったです。もっと……格好良い姿を見せたかった……」
その言葉に、胸の奥がキュンと鳴った。
「学校のHPにある部活動画の浩輔君、格好良かったよ」
「えっ、あれ見たんですか……?」
「うん。だって、浩輔君のこと、もっと知りたかったから」
「……言ってくれれば、何でも教えたのに」
「それなら、なんで最近避けてたの?メッセージも断ってばかりで」
私が核心を突くと、彼は真っ赤になって視線を泳がせた。
ドレスのレースを指先で弄りながら、消え入りそうな声で白状する。
「………好きだから、避けていました」
好きだから……?
心臓が煩いほどに鳴り響く。
高揚感に突き動かされるように、私は彼が持っていたガラスの靴をひょいと取り上げた。
改めて見ると、靴は私のものより一回り大きい。
足が大きい子は将来背が伸びるって言うけれど、このお姫様も、いつか私を見下ろすくらい背が高くなるかもしれない。
私は劇中の王子様を真似て、彼の前に片膝をついた。
「ぴったりだ!アナタこそ私の運命の人だ。どうか私と結婚してくださいませんか、シンデレラ?」
「●●さん……っ」
「違うでしょ?」
イタズラっぽく続きを促すと、浩輔君は困ったように眉を下げ、観念したようにセリフを繋いだ。
「……王子様、嬉しいわ。私も、アナタと結婚したいです」
「よし。それじゃあ、2人は愛の誓いのキスを落としました……ほら」
「え、だって、劇ではフリだったし!」
「それなら、王子役の私が本気でリードしないとね」
「え、ちょっ、あのっ!」
戸惑いながらも、彼は慌てて目を閉じた。
長く綺麗な睫毛が小刻みに震えている。
受け入れる準備をしてくれているその姿が、あまりに愛おしい。
私は彼の顔を引き寄せ、唇ではなくおでこにそっとキスをした。
ちゅっ
「王子様とシンデレラは結ばれ、幸せに暮らしました。めでたしめでたし!」
「おでこ……」
拍子抜けしたように目を開ける浩輔君。
私が彼への感情を「可愛い弟」の愛着だと思い込んでいたように、彼もまた、私のことを「姉のような存在」として好きなだけではないか。
その真意を、浩輔君自身にも確かめてほしかった。
「もし、浩輔君も私のことを異性として好きなら、……今の返事、次は唇にして欲しいな」
「そ、そんなの……っ」
「さあ!私は友達を待たせてるし、浩輔君も次の開演準備があるでしょ?」
今度は私から、赤面して固まるシンデレラの手を引いて教室を出た。
私たちの物語は、まだ「めでたしめでたし」ではないけれど、そうなる未来も遠くないのかもしれない。
ーーFinーー
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